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やまねこムラだよりー岩手の五反百姓からー

071121up

つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

第十四回

初雪

 11月18日の夕方から降りはじめた雪が、19日の朝になってもやみません。
 朝の7時で、10センチほど、積もっています。
 地元の気象台によると、これでも、平年に比べて8日ほど遅い初雪だそうです。
 3年前には、初雪がそのまま根雪(春までとけない雪)になってしまった年がありましたが、今年はどうでしょうか。
 朝6時の気温は、マイナス2度です。

 冬ごもりの仕度は、ほぼととのいました。
 納屋のコメの収納庫には、1年分(約200キロ)のコメがモミのまま、保存してあります。モミで保管すると、夏になっても、新米の鮮度が保存されて、おコメのうまみが逃げないのです。
 ダイズ、アズキ、ソバ、落花生の収穫も終わりました。
 ダイズは、30キロぐらいとれたでしょうか。来年の1月末の一番寒いころ、仕込んで味噌にします。10キロのダイズと10キロのコメ麹から、40キロの味噌が作れるのです。

 味噌とコメ、これは日本人の食の基本ですね。その、基本的な食い物が1年分手元にある、という実感は、都会にはない安心感・安堵感を与えてくれます。
 世の中ひっくり返っても、とりあえず向こう1年間は飢えずにすむ、という安心感です。
 モリヤとかいう防衛省の高級官僚が、誰とゴルフしようが、賭けマージャンしょうが、自分の人生とは、カンケーないや、という、ある種の自己中心的、自己充足的な、安心感ではありますが・・。

 金銭的な収入金額からいったら、五反百姓のわたしなどは、日本では最下層の部類の入るかと思うのですが、都会の貧困と本質的にちがうところがある。
 それは、同じビンボー暮らしでも、都会の貧困には、飢えへの危機感や生存への不安がともなうのに、田舎のビンボーには暮らしに安心感さえありうる、ということではないかと思います。
 図式的にいえば、都会では、低収入=生存の危機、なのに、ムラでは、低収入がイコール生存の危機にはつながらない、ということでしょうか。ムラは、それだけふところの深さを、まだ保っているとおもいます。

 冬ごもりの食べ物の話に、もどります。
 ダイコンは収穫した後、10日ほど天日で干してから、漬物にします。
 ハクサイも漬物にするほか、土蔵の中で新聞紙に包んで保存します。人によっては、雪室を作って、その中に野菜を保管しておきます。
 夏に取れたジャガイモやニンニク、秋にとれたサツマイモやカボチャもあります。
 渋柿は、皮をむいてひもにつるして寒風の中にさらしておくと、自然とあまい干し柿に変身してくれます。
 昔から農家は、こうやって、食べ物を保存して、長い冬に備えたのですね。
 今ではその気になれば、田舎町でも、スーパーなどのお店はあるのですが、農家の婆さまたちは長い冬を、自前の生産物を上手に使いながら、昔ながらの生活の知恵で乗り切ってきた。これも、すばらしい文化遺産だとおもいます。

 我が家の三匹の猫どもは、朝からマキストーブの前に陣取っています。
 イスを3台置いておくと、それぞれイスにおさまって、まるくなっています。
 これでは、人間の座る場所がありません。
 猫は気楽でいいなあ~、とおもいます。

 わたしは、これから軽トラックとジムニーの、タイヤの交換です。
 雪が予想より積もりそうなので、タイヤを冬タイヤに交換しないと、危なくてマチにも出かけられません。
 ガソリンの高値が、実に恨めしい。まあ、マキストーブのおかげで、灯油代は、いまのところゼロですんでいるのがせめてもの節約(のつもり)です。

 しかし、単なる需要増だけが原因ではなく、投機筋のために原油の高値が続いているとしたら、人間というのは、どうもやりきれないなあ、とおもいます。
 金もうけのためなら、原油も穀物も買い占めて、高く売りつける。
 戦争がなければ、武器も売れない。だから、紛争をあおりたてる。
 絶対数からいえば、ごく一部の人間なのでしょうが、その一部の人間たちが大きな権力や金力を占めて、政治や経済を動かしている。政治経済活動と、倫理は別物なのでしょうか。
 そういうゆがんだ構図のなかで、いっぽう、生存権すらおびやかされて、あがきもがいている人たちがたくさんいる。現に飢えて死んでいく人がたくさんたくさんいるのです。
 この矛盾をどうやったら、解決できるのか。あるいは、できないのか。

 冬ごもりにはいったやまねこムラでは、貧しいながらも、食い物と時間はたっぷりありますから、これからも、たくさんの人たちの考え方をじっくり伺いたいとおもいます。そして五反百姓なりに、やまねこムラから見えることを、みなさんにこれかからもご報告していきたいと考えています。

(2007.11.19.)


しばしのお休みの間に、初雪を迎えたやまねこムラ。
「冬ごもり中」の辻村さんから届く不定期のたより、
どうぞお楽しみに。
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