070926up
つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。
第七回
とっくに結論がでた自民党総裁選ですが、わたしには解せない不思議な光景がありました。それは、いつみても、アソーさんが笑っていたこと。選挙で負けた瞬間を見ていませんが、わたしが見たどのテレビの画面でも(敗れた後も)、彼は笑っていました。
わたしは写真を取られるのが大嫌いで、カメラを向けられると顔が硬直してしまうのですが、アソーさんは、何十台何百台のカメラに囲まれていても、常に笑っていた。
おそらく、アソーさんの戦略として、いつもニコニコ、国民の人気受けを考えたのでしょうね。人間、ああやっていつも笑っていられるものではありません。そこに、政治家としての彼の戦略があるなら危険だ、とおもいます。
「人気」というのは「人々の気分」のことではないか、とわたしは思うのですが、「人気」に乗って政治をしようという発想は、政治家としては、アブナイ。秋葉原へいって「オタク」に呼びかけたり、総裁選当日に数百人の若者を動員して「アソーコール」をさせたりと、どうもキナクサイ。
「人々の気分」なんて、ころころ変わってしまうものです。無責任かつ不安定な要素です。だから、そこに乗っかって政権をとろう、という政治家は、どうも信用できない。自分の頭で考えもせずに、人気に乗せられて、いつの間にかに「9条変えろ」「核武装しよう」というムードになってしまう可能性がある。ヒットラーだって、はじめはそうやって政権をとったのです。芸能人ならいざ知らず、わたしたちは政治家に対しては、常にクールな視線をもっていたいとおもいます。
前書きが長くなってしまいました。ただいま、地球上に65億人とか66億人とかの人間が暮らしているそうです。19世紀のはじめで9億人、20世紀のはじめで地球人口は16億人だったといいますから、100年あまりで4倍、40億人も増えたということです。われながら、すごい増殖率だとおもいます。
この間、数十万、数百万人規模で殺しあうような大きな戦争が何度もありました。スペイン風邪のように数千万人が死亡するような病気の大流行もありました。数百万の人が餓死する飢饉もありました。
それでも絶滅するどころか、地球の主人ヅラしている人間の繁殖力には、宿主の地球も、びっくりを通り越して、あきれかえっているのではないでしょうか。
この人間の異常増殖を支えてきたのが、農業革命です。
世界の農地はそれほど増えていないのに、化学肥料や農薬の発明と、品種の改良、農業機械の導入で、飛躍的に食糧の増産が可能になったのです。
化学肥料や農薬のおかげで、単位あたりの収穫が2倍にも、3倍にもなったのです。
日本のおコメも、昭和なかばまでは反収4~5俵がせいぜいだったのが、いまでは10俵以上の収穫をする農家がたくさんあります。
ここで、寄り道をします。
「反収(たんしゅう)」とは、1反(10アール)あたりの農地に、どれだけ収穫があるか、ということです。農業ではよく使うことばですので、都会のかたも覚えてほしいとおもいます。1反の広さは、50メートル×20メートルの競技用プールの広さと同じと考えれば、わかりやすいとおもいます。1000平方メートル、300坪に相当します。
また、おコメの1俵とは、玄米で60キロのことです。ですから反収10俵とは、10アールで玄米600キロの収穫があるということです。
さて、作物が生長するのに欠かせない三つの養分があります。チッソ(N)、リンサン(P)、カリ(K)です。
植物が必要とするこの三つの化学成分を、必要なだけ直接土に撒く、のが化学肥料です。成分の組成がわかっているので、この田にはAという肥料を何キロまけばいい、あちらの畑にはBという肥料を何キロまけば十分、と計算がしやすいのも特徴です。肥料の効果もすぐ現れます。しかも、有機肥料に比べて、安価です。
経済効率も、作業効率も、いい。だから、多くの農民は化学肥料に頼っています。いってみれば、作物のファストフードが、化学肥料です。
でも、化学肥料の多投によって、元来豊かだった土壌がやせてしまったのも事実です。化学肥料の成分が地下にしみこみ、地下水の汚染も引き起こしています。
いっぽう、有機肥料というのは、まだるこっしい肥料です。化学肥料に比べて、効率が悪い。それは、有機肥料が直接、作物を育てるのではないからです。
有機物が土の中にすきこまれると、それをミミズなどが食べる。その糞を土壌バクテリアが食べて、やっと、作物が吸収できる無機質に分解されるのです。
化学肥料にくらべて反収も落ちますし(わたしの田は、反収6~7俵ぐらい)、テマもカネもかかる。化学肥料に比べて、対費用効果が小さい。ですから、効率をもとめられる大規模農家は、まず有機肥料はつかわない。
現在、有機農法をしている農家は、おそらく1000軒に1軒。0.1%ぐらいだと聞いたことがあります。
では、なぜ効率の悪い有機肥料栽培をするのか。
わたしの場合、それは、有機栽培された作物の方が、甘くておいしくて、作物として健康だからです。そして、有機肥料は、健康な土も作るのです。
子どもで、ニンジンが嫌い、ピーマンが嫌い、という子がいますね。あれは、わたしに言わせれば、まずい野菜しか食べさせてもらってないから。化学肥料を多投された野菜は、硝酸態チッソが多く含まれていて、ニガイからです。子どもは正直。まずい食べ物は、嫌いになるのです。
わたしは、自分のためだけではなく、今年生まれた孫のためにも、有機肥料栽培の甘くておいしい野菜作りを続けていくつもりです。
いってみれば有機肥料は、作物を育てる肥料ではなく、土を育てる肥料なのです。有機物⇒ミミズ⇒土壌バクテリア⇒肥料養分⇒作物⇒有機物、と土の中の生命の循環が正しく行われていると、団粒構造の健康ないい土がつくられる。そういう健康な土が健康な作物をつくり、健康な食べ物が健康な人間のからだをつくるのです。
有機肥料は、いってみれば畑のスローフード。スローフードは、時間がかかるけど、人間にも土にも余裕を与え、本当の豊かさをあたえてくれるのです。
ですから、計算上は、ヒトはカロリーメイトとビタミン剤だけで生きていけるのかもしれませんが、それだけでは、人間のこころが飢えてしまう。「いい食」とは、胃袋をみたすだけでなく、こころも満たすものだったのです。
最近都会では、若者に限らず、すぐキレテしまう人間が増えているそうですね。こわいことです。これも、質の悪い食事しかしていないのが原因、のような気がします。
食料自給率の向上とともに、毎日の食事の質を高めること。(決して、高級な食材を使えということではありませんよ。折り目正しい食事を、ということです)
ちょうど、新米がでまわるころですから、特に若い方には、うまいおコメと味噌汁で朝ごはんをしっかり食べてもらいたい。これも、平和へのたいせつな第一歩、だとおもいます。
農業問題は、単に農村の問題ではありません。毎日毎日の「食」の問題は、健康や医療の問題につながります。
命をささえる食べ物が、畑からどういう経路で自分の口までつながっているのか、を想像していただきたいとおもいます。ほんとうに安全でしょうか。
食べ物がなくて、飢え死にする子どもたちを想像してもらいたいとおもいます。あなたの食べ残しがあれば、死なないですむ子どもがいるかもしれないのです。
そして、大都会はその食料のほとんどを、外部にたよっているのです。その食料が、ある日突然、やってこなくなる日がくるかもしれません・・。
農業問題は、ほんとうは、大都市の問題だった、とわたしはおもうのです。
三匹猫がいます。みんな、捨て猫。
これは、ジェイエイ。ムラのJA(農協)で拾いました。
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