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2010-09-14up
やまねこムラだより〜岩手の五反百姓から〜
第五十九回
実りの秋なのに・・・
やまねこムラもだいぶ秋めいてきました。最高気温が30度を超えず、最低気温が15度前後というすごしやすい季節です。
田んぼが一面に黄色く色づいて、稲刈りが近づいたことを示しています。今年のやまねこムラのお米は、まずまずの豊作になりそうです。鎮守のお宮の祭礼もあって、鹿踊りや神楽などの郷土芸能が奉納されます。本来、岩手の百姓にとって9月は、収穫を前にした1年で一番楽しみな季節だったのです。
でも、ムラの人々の顔色がいまひとつさえないのは、やはり放射能のせいでしょうか。米の値段が安いのは、もう織り込み済み。それよりも、放射能検査で「暫定基準値」を超える米がでるのか、でないのか、それが心配なのです。
盛岡にある岩手県環境保健研究センターというところがサンプル米の放射能を測定し、玄米1キロあたり500ベクレル以内なら出荷可能。でも、基準値を超えるようなら、全量廃棄処分になってしまうからです。
せっかく一生懸命育てたお米が、ヒトの食べ物になれずに、焼却処分されてしまう。百姓の1年間の労働の結果が、わけのわからない数値によって台無しにされてしまうかもしれない・・。そんな理不尽なことが許されるのだろうか、という不安と怒りが、人々の表情をいまいち明るくさせないのです。
ところで、「食品1キロあたり500ベクレル」という「暫定基準値」の根拠とはなんなのでしょうか。生涯に100ミリシーベルトまでの被曝ならOK、という基準もわかりません。
原発事故を受けてあちこちで開催される、原発や放射能に関しての講演会やシンポジウムなどにも参加して、わたしなりに勉強しているつもりではいます。
ベクレルというのは、原子核が単位時間に壊れて放射線を出す個数のこと。シーベルトというのは、放射線の人体への影響度の単位だ、ということも学びました。地震でいえば、地震の規模をあらわすマグニチュードにあたるのがベクレルで、からだに感じた揺れを表す震度Nというのが、シーベルトなのだな、ということもだんだんわかってきました。
被曝にも2種類あって、外部被曝よりも内部被曝のほうが問題であること。だから、からだの外の放射線量ばかりはかっても、あまり意味はないことも学びました。
内部被曝をしないような対策も大切。でも、食べ物はそれを体内に取り入れるものですから、食べ物のなかに放射能があれば、内部被曝になってしまう。だから、1キロ500ベクレル、という基準値がほんとうに安全なのか、政府や東電はしっかりと説明して欲しいとおもいます。
消費者の立場になってみれば、お米と牛肉が、同じ基準値というのもおかしいとおもいます。お米はやせてもかれても、日本人の主食です。毎日食べるものです。その点牛肉は、日本人の主食ではありません。1週間に1度、10日に1度ぐらいの頻度で食べるおかずです。
少なくとも、わたしの場合、お米は月に10キロはたべますが、牛肉はぜいたくなゴチソウなので、月に数百グラムしか食べません。
ならば、お米の「暫定基準値」は、もっと低くすべきだろうとはおもいます。
わたしも米農家の端くれなので、米農家に不利になるようなことは言いづらいのですが、米の「暫定基準値」が500ベクレルでほんとうにいいのか、正確なところを知りたいとおもいます。
そして、あらゆる食べ物、飲物のベースになる飲料水は、もっと基準値を厳しくしないといけないとおもいます。飲食する頻度が高ければ高いものほど、安全基準は低くすべきだ、ということも、心ある科学者(「三陸の海を放射能から守る岩手の会」世話人の永田文夫さん)の講演で知りました。
さらに、受け売りをひとつ申しあげます。
これは8月末に岩手大学で開催された「日本科学者会議 第33回原子力問題全国シンポジウム」で、元静岡大学教授の深尾正之さんという科学者の報告にあったことです。
太陽から地球に降りそそぐエネルギーのうち、地球表面の全植物が光合成で吸収しているのは、太陽エネルギー総量の0.02%。
いっぽう、現在の人類のエネルギー総使用量は、太陽エネルギー換算で、0.009%。
つまり、地上のすべての生物が享受している全光合成量の45%を、人類だけで消費している、ということだそうです。この人類だけが独占的にエネルギーを消費する構造は、もはや許されない、とのことでした。
光合成のことは、以前この「やまねこムラだより」のなかで触れたことがあります。
6CO2 + 6H20 + 光 = C6H1206 + 6O2
理科の苦手なわたしでも、しっかり覚えている化学方程式です。この世で一番大切な化学変化です。農業は、この光合成=化学方程式がなければ成り立たないからです。いや、地球上のすべての生き物が、この化学方程式に依存して生きているのです。
地球上のあらゆる生命---人も牛もカエルもトンボもミジンコもお米もりんごもピーマンもミミズもメダカもダンゴ虫もカラスもドジョウや金魚もすべて---、この光合成がなければ生きていけないのです。
それが、光合成なのですが、その地球上における光合成エネルギー総量の、じつに45%も人類だけで使っている、というのですから、私はぶっ飛んでしまいました。
天に唾する、といいますが、まさしくこれは人類のおごりそのものを数値で示されたようで、わたしには、原発問題よりショックでした。
原発事故も、人類のおごりが背景にあるとおもいますが、その前提としての現代文明が、地球上で使える太陽光エネルギーの45%も独り占めしなければ、いまの文明はやっていけない、というのですから、すっかり考え込んでしまいました。
このままいけば、人類は遠からず絶滅!? まあ、地球全体のためには、その日が早く来たほうが「地球にやさしい」のだろうな、とはおもいますが・・。
(2011.9.10)
我が家からのムラの眺め。
田んぼがすっかり黄色く色づいてきました。
刈り入れまであと半月ぐらいです。
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豊かな自然の恵みがあってこそ、
私たちは命をつないでいける。
私たちはそんなごくごく当たり前のことを忘れ去り、
あまりに自然に対して傲慢になってはいなかっただろうか。
震災と原発事故以来、何度もそんなことを考えます。
つじむら・ひろおさん
プロフィール
つじむら・ひろお1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。
やまねこムラだより〜
〜岩手の五反百姓から
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