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2010-05-11up

やまねこムラだより〜岩手の五反百姓から〜

第五十四回

震災大報道のかげで

 東日本大震災から、2ヶ月。この間、全国各地から東北の岩手、宮城、福島の被災地へほんとうにたくさんのご支援を、物心ともにいただきました。私の知り合いの東京のグループは、マフラーを8000本近く集めて被災地へ送ってくれたそうです。こころもからだも暖かくなる応援でした。東北は、3月4月とまだまだ寒い日が多くて、マフラーは多くの被災者を暖めてくれたとおもいます。東北の地に生きるものとして、返信手段を失った多くの被災者になり代わって、応援してくれたみなさまに感謝申し上げます。ありがとうございます。そして、まだまだ支援を必要とする人々がいることを、忘れずにいてくださいと、お願いしたいとおもいます。
 そんななか、おそらく東京のマスコミでは報道されなかったことを、いくつかお知らせしたいとおもいます。

(その1)震災直後のことでした。若い二人組の男が、被災地に入り込んでツナミで壊滅した家に入り込み残された現金等を探し回っている、といううわさが立ちました。「〇〇県ナンバーのキャンピングカーを見かけたら気をつけろ」という通達が、現地の消防団に回された、ということでした。その二人組が窃盗の現行犯で逮捕されたという事実はありませんし、うわさの出所を確認してはいないのですが、「火事場泥棒」ならぬ「津波泥棒」はいるだろうな、という実感は持ちました。「おれおれ詐欺」と同じで、金だけが目当ての卑劣な犯罪です。残念ながら、世の中には他人の不幸につけこんで自分の利益をはかることしか考えない、という卑劣なタイプの人間もいるのだな、ということは覚えておきたいとおもいました。

(その2)この大型連休のあいだに、全国からたくさんのボランティアの方たちが現地に入ってくれて、さまざまな応援活動をしていただきました。被災地が広範囲にわたっているため、まだまだボランティアがたりない、という現場の声もあります。自分の時間と労力とお金を使って、被災者のために何か役に立ちたい、と活躍してくれるボランティアの皆さまには、ほんとうに感謝したいとおもいます。そのいっぽうで、「物見遊山」で被災地に入る人もいたようです。5月4日付けの岩手日報の記事を引用します。
「大型連休中盤を迎え、被災地では不要不急の訪問と見られる人が目立つ地域が出てきた。陸前高田市では3日、高田松原付近の国道が「見物」目的とみられる人たちの駐停車により混雑。写真撮影のために復旧工事の妨げになるなど迷惑行為もみられた。同市の国道45号は、一部区間で車が続々と停車。練馬、品川、土浦、所沢など県外ナンバーが目立った。車から降りた人たちは、津波により松が流出した高田松原やがれきの山となった市街地を写真やビデオで撮影。被災地を背景に記念撮影する人もいた。(後略)」
 この手のタイプの人は、言ってみれば「想像力欠乏症」なのでしょうね。震災の大報道で、現場がどうなったのか興味をもったのはいいのですが、ディズニーランドや東京スカイツリーを見物する感覚で、被災地を「見物」する気になった「対岸の火事派」なのでしょう。「連休だからどこへ行こうか。そうだなあ、ツナミにやられたというところにでもいってみるか。ついでに温泉にでもつかってこようか」という感覚ですね。
 じつは人間の本質は、この手の人々が大半でなないか、と私は考えています。わたしには、彼らを責めるつもりはありません。その資格もありません。自分に火の粉がふりかからないかぎり、それは対岸の火事でしかない、というのは、多くの人々にとってあたりまえの感覚だったのではないのでしょうか。
 そうでなければ、世界の貧しい国では、年間900万人、毎日毎日2万5000人もの人々(5歳以下のおさないこどもたちだけで、毎日毎日1万5000人)が飢えて死んでいく現実を見て見ぬ振りして、平穏に暮らせるはずはないのですから。

(その3)そして、わたしら百姓にとって大きな問題となる事態が、大震災報道のかげで進行しています。それは「コメの先物取引」が認可される方向で動いていることです。
「先物取引」はご周知のように、原油や金や穀物市場ですでに展開されています。たとえば、オーストラリアが干ばつで、今年の小麦の生産が落ち込むかもしれない、という情報が流れたとします。その情報で、小麦の国際価格は値上がりします。実需で値上がりする面もありますが、思惑で値上がりもします。つまり、投機です。マネーゲームの場となっているのが、先物取引の実情ではないでしょうか。
 その先物取引の対象として「コメ」が認可されるというのです。じつは2006年にも東京穀物取引所と関西商品取引所がコメの先物取引を申請したのですが、そのときは当時の中川昭一農水大臣が申請を却下しています。それが再度の申請をうけて、この7月にも認可される可能性があるというのです。先物取引は商品の値段を安定化させる働きもある、という見方もありますが、数年前にガソリンの驚くべき値上がりを経験したわれわれにはマユツバにおもえます。むしろ、投機家の思惑で実需以上に値段が乱高下するというのが実態ではないでしょうか。
 おコメは、日本人の主食です。昔に比べて日本人はコメを食べなくなったといわれていますが、それでも年間ひとりで60キロのおコメを食べています。1億2000万人が60キロずつ食べれば720万トン。総額で、およそ2兆円。このコメが「商品」として「先物取引」の対象になるというのです。コメの豊作不作情報が、投機の思惑につながり、マネーゲームの対象になるのです。
 百姓がそれこそ八十八回手間ヒマかけて育てたおコメが、われわれの預かり知らぬところで「米相場」という場で、投機家たちによって思惑で売り買いされる。儲かった、損したというリスクは投機家たちが負うのでしょうが、百姓が汗水流して育てたおコメが、マネーゲームの対象になる、ということ自体がキモチわるい。しかも、百姓のあずかり知らぬところで、米価が決定される。これもキモチわるい。自分たちのつくったおコメの値段は自分たちで決めたい、というのが百姓の本音です。その米価が、田んぼをみたこともないような一部の人々の思惑で決定されるというのは、どうも納得がいかないのです。
 大震災の爪あとは、まだまだ深いです。福島の原発事故は、いまだ収束の見通しがたちません。ビンラディンをやっつけたぜ、とアメリカ大統領は西部劇の賞金稼ぎのようにはしゃいでいます。その大報道のかげで、コメの先物商品化がひそかに進行している。主食をマネーゲームの対象にするな! そんなキモチわるいことは許さない! とわたしは言いたいし、都会の皆さまにも知ってもらいたいのです。

(2011.5.6)

わたしの愛車のトラクタ。三菱の20馬力。たのもしい味方です。
桜の花が散り始めました。

生後半年になった、茶炉とあくび

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大災害の報道に隠れるようにして、
こっそりと重大なことが決められていく。
「主食」たるコメを、投資の対象にすることが果たしていいのか。
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つじむら・ひろおさん
プロフィール

つじむら・ひろお1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

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