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2010-04-13up

やまねこムラだより〜岩手の五反百姓から〜

第五十三回

灰のはなし

 3.11大震災から1ヶ月たちました。なまえは「東日本大震災」で決まったようですね。でも、自衛隊や米軍の力まで借りて捜索を続けても、まだ被害の全容が見えてきません。死者・行方不明者は2万7000人を超えたといいますが、これからもっと増える恐れがあります。親をなくした震災孤児もたくさんいるとか。むごいことですが、そのこどもたちも含めて、生き残った人たちはこれからの日々を生きていかなければなりません。どうか、多くのかたたちの温かい思いやりが、孤児になったこどもたちにも届くようにと願います。そして、震災孤児を支えるシステムが早くできてほしいとおもいます。

 4月7日には、やまねこムラで震度6弱の大きな余震もあったのですが、我が家はなんとか無事でした。しかし、前回の地震ではダイジョウブだったところも、今回は大きな被害を受けた地域もあります。停電は一昼夜で復旧しましたが、3.11の地震で弱っているところに、追い討ちをかけられた感があります。地震は、正直いってもうたくさんです。

 そんなやまねこムラでも、やっと春めいてきました。まだ、ところどころに雪が残っていたり、朝はマイナスの気温になったりしているのですが、木々の芽がふくらみ、春一番で咲き出すスミレやスイセン、カタクリも咲き始めました。春の息吹です。でも、まだマキストーブには火を入れています。マキストーブが無用になるのは、りんごの花が咲くころ、5月初めになってからです。
 我が家では、一シーズンに4トン~5トンのマキを燃やします。毎朝、マキストーブに火を入れる前に、前日の灰を掻きだします。それを、まずブリキのバケツにため、バケツがいっぱいになったら、古くなったモミ袋に入れて保管します。そうやって、10キロ入りの灰袋が、1シーズンに4~5個たまります。マキを燃やすと、だいたいその1%ぐらいが灰になる勘定です。4~5トンのマキから40キロ~50キロの木灰が取れるのです。

 この木灰は、じつはたいへん質のよいカリ肥料になるのです。ジャガイモやタマネギ、ニンニク、ホウレンソウなどには欠かせない肥料です。あるいは、春の野草のワラビやゼンマイのアク抜きにも使えます。産直に出荷すると、200グラムの灰が一袋200円で売れるのです。昨年は20袋ぐらい売れました。さらに、我が家では6匹いる猫のトイレの砂代わりにも使っています。猫のトイレ用砂って買うとけっこう高いのです。それがただになる。おまけに、その使用済み猫砂を生ゴミにまぜれば、堆肥にもなるのです。
 つまり、マキストーブは、燃やせば温かいし、森を維持する間伐対策にもなる。そのあとの灰も、上記のようにさまざまな使い道がある。排出されるCO2もまた森に吸収されていく。なにも捨てるものがないのです。資源がうまく循環していく持続可能な天然エネルギーです。

 いっぽう、原子力発電はどうなのでしょう? 専門家でないので詳しいことはわからないのですが、なにかすごいムダをしているように思えます。たしかに、発電をする、という一点だけみれば、効率が最高にいいのでしょう。だが、そのために、どれだけ多くの不安定なリスクがあったのかということは、今回の福島第一原発の事故が証明しています。
 今回の事故は、使用済み燃料を入れておくプールに、冷却用の水が入らなくなったことが事故の拡大につながっています。「使用済み」だから、ほうっておいていいのではなかったのですね。つねに費用と人と時間とエネルギーをかけて、新しい水を入れ続けて冷やし続けなければならない。それも5年、10年とかいうスパンで、です。「使用済み」の灰が、いろいろ有効に使えるマキストーブとは大違いです。

 六ヶ所村の再処理工場も、そうですね。日本各地の原発から出てきた使用済み燃料(原発の灰)を、冷やし続けなければならない。10年か、20年か、という長い期間です。
 4月7日の余震で、六ヶ所村の再処理工場の外部からの電源がすべて止まってしまったそうです。東通原発もおなじ危機。非常用の発電機が作動したからよかったものの、その非常用発電機が動かなければ、福島原発と同じ事故が起こる可能性があったわけです。こわいことです。原発という「発電するには最高に効率がよい」現代科学の粋を誇る装置が、たちまち悪魔の装置と化す恐れがあるわけです。猫のトイレ砂にも使えない、危険な灰がこれからも、どんどんたまっていくのです。

 百姓からみて、原発事故が怖いのはその被害の継続性です。放射性ヨウ素なら、半減期は8日だそうですが、セシウムの半減期は30年、プルトニウムなら半減期は2万4000年だそうです。つまり、人間の感覚でいうと、半永久的に放射能汚染が続く、ということです。
 農水省は、放射能汚染のひどい農地には、コメの作付けを法で禁止するそうですね。このコメが危ないから食うな、ではないのです。この農地から産出されるコメが危ないから食うな、ということなのです。それも勧告ではない。法律で禁止するしかないレベルなのです。これでは、土によって生きる農民はどうしたらいいのか。
 未来永劫、自分たちの農地ではおコメも野菜も作れない、ということになってしまうのです。補償金をどうする、という問題ではないのです。これまでの百姓としての人生が、全否定されることと同じことなのです。

 このこと1点だけみても、もう原発はたくさんだ、とおもいます。地震もたくさんだが、原発はもっと要らない。地震の被害は、数年たてば回復できる可能性がありますが、放射能汚染された農地は回復の見通しがないのです。先祖代々百姓をなりわいとしてきた人たちが、その先祖代々の生き方を否定されてしまうのです。

 わたしが座右の銘としている言葉があります。

 「土に立つものは、倒れず
  土に生きるものは、飢えず
  土を護るものは、滅びず」

 でも、放射能汚染されてしまった農地の百姓たちには、このことばは、むなしく響くだけでしょう。雲隠れしていた東電の社長には、みなの前で腹を切って、責任をとって欲しいところです。

(2011.4.10)

カタクリのつぼみがふくらみはじめました。
5ヶ月になった茶炉が、のぞきにきました。

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福島第一原発の事故後、福島県では、
有機野菜を作り続けて来た農家の男性が自殺するという、
あまりに悲しいニュースもありました。
人のいのちを支えてくれるはずの「土地」までを、
殺してしまう原発。
そんなものに頼る社会はもういらない。
強く強く、そう思います。

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つじむら・ひろおさん
プロフィール

つじむら・ひろお1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

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