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2010-12-08up

やまねこムラだより〜岩手の五反百姓から〜

第四十七回

日本の「高い米」はほんとうに高いのか?

 先々週のマガジン9で、機会を与えていただいて、TPP問題について書かせていただきました。
 日本のお米の値段には、赤とんぼの舞う秋や、カエルの合唱が聞こえる夏や、みどり豊かな里山や、浄化されたきれいな水の価値も含まれている。だから外国産のお米に比べると値段が高いのだと、考えていただけないだろうか、というのがわたしの発言の趣旨でした。
 そのなかで、じつはあえて触れなかったことがあります。米農家の収入のことです。

 都会の皆さまは、おそらくスーパーマーケットあたりでお米を購入されておられるのだとおもいます。
 たとえば、5キロでいくらのお米を買われていますか? 
 うちは、新潟魚沼産のコシヒカリだから5キロで4000円というかたもおられるでしょう。でも普通は、5キロで1500円から2500円のあいだ、という方が多いのではないでしょうか。
 ただいま、日本人の平均のお米の消費量は、年間60キロ弱。月にならせば5キロ。主食の値段が、一人あたり月に1500円~2500円の出費ということになります。
 1日あたりにすると、50円~83円。魚沼産コシヒカリでも133円。
 この値段が、現在の不況下の日本にあっても、高いとおもわれるでしょうか?

 たしかに、TPPに参加すれば、5キロで500円~1000円という米も輸入されるでしょうから、米代は1日あたり17円~33円に下がることはたしかです。
 1日の米代が50円から17円に下がるのだから、33円の得。ひと月に1000円もお得だから大歓迎、というかたも多いとおもいます。

 いっぽう、米農家の立場になってみます。
 日本全体のことはわかりませんので、やまねこムラの実態をふまえて申しあげます。
 岩手県の南部に位置するやまねこムラは、おいしいお米の産地です。おもに「ひとめぼれ」という品種のお米を作っています。
 平均して、ムラの米農家の反収(10アールあたりの収穫)は、480キロぐらいでしょうか。お米は60キロを1俵、と数えますので、480キロの収穫なら「反収8俵」といいます。
 この米を、米農家の多くは農協(JA)に納めます。すると、「概算金」という名で、米の代金が仮払いされます。これが、米農家の収入の基本になるのですね。

 この概算金が、今年は1俵8700円でした。昨年は1万2300円でしたから、一挙に3600円減ってしまいました。30%近く、米の値段が下がってしまったのです。
 1ヘクタールの米農家で、反収8俵なら、全体の収穫は80俵(4800キロ)ですから「概算金」は、8700円×80俵=69万6000円です。
 これにくわえて、今年から戸別所得補償金が10アールにつき1万5000円出るようになりましたので、1ヘクタールなら15万円のお金が入ります。合計すると、84万6000円。これが、経費や人件費を含めた米農家の1年間の収入です。
 経費のなかには、トラクターや田植え機の燃料代、苗代、肥料代、農薬代、水利権代、地代などが入ります。4月の田おこしから始まって、5月の田植え、夏の除草や水管理、秋の害虫防除、稲刈り、乾燥、脱穀などの人件費を考えれば、どう節約しても赤字になってしまうのが現状です。

 そういう収支決算は別にしても、1ヘクタールの水田を経営して、春から秋にかけて懸命に働いて収穫した80俵(4800キロ)のお米が、戸別所得保証金を含めても、米農家には85万円弱にしかならないのです。5キロあたり、881円です。
 昔風に表現すれば、1升(1.8リットル=1.5キロ)のお米が、米農家には264円の収入にしかならないのです。
 500ミリリットルだと、74円弱です。
 コンビニやスーパーで売っているお茶や水が500ミリリットルのペットボトルで98円ぐらいですから、水やお茶より安いということになります。
 これでも、日本の米が、ほんとうに高いということなのでしょうか?

 主食の値段が、水より安い。
 農家の平均年齢が65歳を超えて、日本の農業に若い人が入ってこないのが問題となっていますが、つまりこの収入では、一家を支えていけないからです。
 TPPに参加しなくても、日本の農業(特に米農家)は滅びの道を歩んでいる、というのが実態です。TPPに参加することで、その瀕死の農業がとどめをさされることはたしかだ、とわたしは考えています。

(2010.11.24)

稲を天日干しする風景も、いつまで続くか。

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みなさんからのリクエストにより、「やまねこムラだより」が、
また始まります。月1回のペースでお送りする予定です。
果たしてほんとうに日本の米は「高い」のか。
「日本の米農家も効率化で競争力を高めるべき」という声もありますが、
命をつなぎ、支える「農」や「食」が、
「効率」の観点からだけ語られていいものなのか。
みなさんは、どう考えますか?

ご意見・ご感想をお寄せください。

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つじむら・ひろおさん
プロフィール

つじむら・ひろお1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

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