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もりなが・たくろう経済アナリスト/1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て、現在、独協大学経済学部教授。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『年収120万円時代』(あ・うん)、『年収崩壊』(角川SSC新書)など多数。最新刊『こんなニッポンに誰がした』(大月書店)では、金融資本主義の終焉を予測し新しい社会のグランドデザインを提案している。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。
私は、新年に向けて厳しい展望を書くのは嫌いなのだが、2010年は経済も安全保障も正念場の年になりそうだ。まず、経済はデフレとの戦いの一年だ。日本経済はかつてなく厳しいデフレに見舞われている。2009年度の税収は、前年度よりも9兆円も落ち込み、これが原因で民主党の新政権は、マニフェストに書き込んだ主要政策の大部分を実行することができなくなってしまった。ガソリン等の暫定税率は大部分が維持されることになり、高速道路の無料化は、当初の予算要求6000億円が1000億円に減額され、地方路線のごく一部が社会実験として実施されるだけになってしまった。
これでは、「消費者の懐を豊かにして、消費を生み出すことによって、景気回復を図る」という民主党の経済成長戦略が実現するはずがない。しかも、民主党の掲げた「コンクリートから人へ」という経済政策が裏目に出てしまった。本当は、デフレ脱却に一番即効性があるのは公共事業なのだが、補正予算で十分な公共事業を積むことができなかった。また、国債発行を44兆円以下にするという財政規律を前面に出したために身動きができなくなってしまったという事情もある。
財政出動ができないということは、デフレ脱却の役割は金融政策が担わないといけないということになる。日銀は12月1日に金融緩和に政策の舵を切り替えたが、今後さらに金融緩和を積み重ねていくかどうかは不透明だ。世界が金融緩和競争を繰り広げるなかで、円安に誘導し、物価上昇率をプラスにするまでには、資金供給量を2倍にするくらいの思い切った量的緩和が必要だ。だが、白川総裁率いる日銀執行部がそこまで思い切った緩和策を採るとは考えにくい。だから2010年もデフレ経済が続き、相当きびしい経済情勢になることは、避けられないだろう。賃下げやリストラが相次ぎ、未経験の高い失業率に達することも予想される。
そうしたなかで、2010年は、安全保障政策でも重大な正念場を迎える。普天間飛行場の移転問題について、鳩山総理はアメリカの圧力に安易に屈することはなかった。そもそも鳩山総理は、有事の際だけに米軍に日本に来てもらう「米軍の常駐なき日米同盟」を主張していたからだ。私はそれで十分だと思うし、米軍自身もアジアの軍事拠点をグアムにまとめようとしているのだから、普天間飛行場の機能もグアムに持って行ってもらえばよいのだ。
ところが鳩山総理は「現実路線」を歩もうとしている。常駐なき日米同盟の考えは封印するとしたし、東アジア共同体の設立に関しても、アメリカを関与させようと言い出している。当たり前の話だが、アメリカは東アジアではない。
一体、何を恐れているのだろうか。アメリカに逆らったら武力攻撃を受けるとでも思っているのだろうか。かつて韓国の盧武鉉政権は、鳩山総理と同様に「対等な米韓関係」を打ち出して、戦時作戦統制権の返還を実現した。万が一戦争になっても、韓国軍は米軍の指揮下で行動する必要がなくなったのだ。それで、何が起こったのか。確かに米韓関係は冷たくなったが、そのことで韓国が軍事侵攻を受けたり、経済制裁を受けたことはない。米軍基地を廃止したフィリピンも同じだ。
アメリカも政権が変わり、日本も政権が変わったいまこそ、日米同盟のあり方を見直す最大のチャンスなのだ。戦後65年も経ったのだから、対等な日米関係をいま築かなければ、沖縄の基地問題解決は、いつになるか分からなくなってしまう。
辺野古の美しい海に飛行場を作って、環境を破壊することは誰も望まないだろう。ましてや、アメリカがアジアや中東に攻撃をしかけるための前線基地を新たに沖縄に作ることも、誰も望んでいないはずだ。今年は鳩山政権の本質が分かる年になる。
「政権交代」の熱気も去って、
鳩山政権にとっての「正念場」ともなる2010年。
批判すべきところは批判しつつ、
何が本当に必要なことなのか、
しっかりと見極めていきたいと思います。
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