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もりなが・たくろう経済アナリスト/1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て、現在、独協大学経済学部教授。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『年収120万円時代』)(あ・うん)、『年収崩壊』(角川SSC新書)など多数。最新刊『こんなニッポンに誰がした』(大月書店)では、金融資本主義の終焉を予測し新しい社会のグランドデザインを提案している。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。
民主党政権が行った「事業仕分け」は、国民の圧倒的な支持を得たようだ。のべ2万人の傍聴者が会場を訪れ、インターネット中継には250万ものアクセスがあったという。また、景気の低迷で低下し始めた内閣支持率は、事業仕分けの効果で回復した。私は、プレゼンテーションが下手だという理由だけで予算を切ってしまうといったやり方に、正直言って随分乱暴だなと思ったが、もちろん無駄な予算も発見されたので、事業仕分け自体を否定する気はない。ただ、実際にやってみて、事業仕分けに大きな限界が存在することは、はっきりしたと思う。
事業仕分けによって財政的には1兆7000億円程度の資金が浮いたが、このうち基金や特別会計などの埋蔵金返納が9615億円を占めている。そのため、本当に予算から削減できた金額は7000億円をやや上回る程度だ。これだけの荒療治をしたにもかかわらず、削減できた金額は1兆円に届かなかったのだ。
一方、今年度の税収は36兆円程度になりそうだ。前年度と比べると実に9兆円も落ち込んでいる。財政悪化の最大の原因は、予算の無駄遣いよりも、圧倒的にデフレに伴う税収減なのだ。そもそも1990年には、日本の税収は60兆円もあった。それが36兆円に激減してしまったのは、先進国のなかで、日本だけがデフレ経済に陥ったからだ。その原因の大部分は、日本銀行の金融政策にある。
日銀は「金融緩和を続けている」と主張しているから、国民の多くが、日銀が強烈な金融引き締めをしている事実に気付いていない。しかし、昨年9月のリーマンショック以降、先進国は大幅な金融緩和に踏み切るなかで、日銀だけが金融緩和を拒んでいるのだ。中央銀行が自由にコントロールできる「マネタリーベース」(現金プラス中央銀行の当座預金)という資金量は、10月で、日本が前年同月比4%増であるのに対して、欧州は19%増、アメリカは71%増だ。つまり、世界から観ると、日本はとんでもない金融引き締めになっているのだ。アメリカは、大幅に資金供給を増やしている。その一方で、日本は資金をほとんど増やさない。米ドルと比べて日本円の供給が相対的に少なくなっているから、円高が進んで、ますます日本のデフレがひどくなってしまうのだ。
ところが、日銀は自らがデフレを招いた責任を認めないばかりか、金融緩和をしても効果がないとまで言い出しているのだ。
11月20日の金融政策決定会合後の記者会見で、日銀の白川方明総裁は、「需要自体が不足している時に、流動性(資金のこと:筆者注)を供給するだけでは物価は上がらない」と述べて、資金供給拡大の物価上昇効果はないと主張したのだ。
しかし、もし白川総裁の主張が正しいとすれば、画期的な財政改善策が生まれる。日銀が日銀券を大量に刷って、市場にあったり、銀行が保有している日本国債を、例えば100兆円買ってしまうのだ。日銀は日本銀行券という紙を刷るだけなので、コストは印刷代だけだ。一方、日銀券を対価にして獲得した国債には金利がつく。例えば、金利が1.5%だとしたら、100兆円分の国債から毎年1兆5000億円の利息収入を得られるのだ。日銀の剰余金は、政府に納められることになっているから、日銀が紙を刷るだけで、毎年事業仕分けをしたのと同じ程度の財政効果が得られることになる。
同じ仕組みで、日銀が1000兆円分の日銀券を刷れば、財政収入は毎年15兆円になる。つまり、日銀が札を刷れば刷るほど、財政がよくなっていくのだ。これなら、何も苦労せずに財政再建が達成できてしまうことになる。
それが現実にはできないのは、日銀がお札を刷りすぎるとインフレになってしまうからだ。日銀券をどんどん資金を供給すれば必ず物価は上がる、つまりデフレから脱却できるのだ。
それなのに、なぜ日銀がここまで頑なに金融緩和を拒むのか。その理由はよく分からない。ただ、デフレが金持ちを利することだけは間違いない。お金の価値が上がっていくのがデフレだからだ。一方、お金をあまり持っていない庶民にとって、デフレでよいことはない。企業倒産が続出して、仕事を失う人が増えるし、失業率の増加は、賃金を低下させる。現に、今年冬のボーナスは史上最大の下落率になりそうだ。
いま一部には現在の不況を「鳩山不況」と呼ぶ声が高まっているが、それは間違いだ。現在の不況は明らかに「白川不況」なのだ。民主党は、白川総裁を事実上任命した経緯があるから、なかなか白川総裁の批判を言い出せないことは分かる。しかし、間違いは誰にでもあるのだから、一日も早く手を打たないと日本経済は大変なことになってしまう。白川総裁の任期はあと3年以上残っているからだ。
民主党政府が、真っ先に事業仕分けの対象にしなければならなかったのは、どこよりもまず日本銀行だった。私が仕分け人だったら、迷うことなく「廃止」の札を上げるだろう。日銀の業務は政府が引き継いでも、第二日銀を作っても、十分行えるのだ。
12月1日、日銀は10兆円規模の資金供給を発表しました。
「広い意味での量的緩和」なのだそう。
効果を疑問視する声もあるようですが、
何も策を打たないよりは、「まし」ということでしょうか。
それにしても、デフレが進む中、寒い冬を迎えるこの年末が心配です。
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