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これまで「高円寺一揆」や、「クリスマス粉砕デモ」など、
数々の脱力系にして最強の「運動」を繰り広げてきたカリスマ店主、松本哉のコラム連載です。
高円寺から世界へ「のびのび大作戦」、日本のみならず世界各地でも増殖中!
翻訳ツールもつけました。
まつもと・はじめ 「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ
さあ、みなさん。今年も残すところあとわずかとなってきました! ってことは、新年から始まったこの連載も、なんだかんだと1年近くになることになる。今年は、リーマンショックもいよいよ功を奏し(?)てきて、「金持になるのはそもそもムリじゃねえか! コノヤロー!!」ってのが、だんだん明らかになってきたこともあり、「長野なんとかフェス」みたいな勝手な祭りを企てたり、各地のマヌケな連中と仲良くなったりと、来たるべき、貧乏人時代の幕開けの準備をしまくった年でもあった。いや、景気がいい。
ということで! 前回に引き続いてワールドツアー報告の完結編として中国の事を紹介して、来年の騒動に備えてしまおう!!!!
ワールドツアー終盤は、いよいよ中国へ! 中国といえば、学生の頃貧乏旅行で何度も来たことがあったので、なんだか懐かしい感じだ。はたして中国では、「素人の乱」のような日本での騒ぎはどう映るのだろうか!?
そもそも、なんで中国に行くことになったのかというと、武漢という町のバンドマンの兄ちゃんと知り合ったのがキッカケ。彼がヨーロッパに行ったときに、自分らでつくる遊び場がいろんなところにあったのを見て羨ましくなり、中国にもアジトのような場所を作ってしまった。で、そいつがたまたま高円寺に遊びに来てたときに「いつでも遊びに来てくれ」と言うので、思わず本当に行ってしまった! ということで、中国の数か所で高円寺の騒ぎやらデモやらの映像をまとめた映画『素人の乱』を上映し、現地の人とトークするというイベントをやることになった。
で、まずは、いきなり首都の北京。チンタオビールは安くていいし、麻婆豆腐もチンジャオロースも美味しいし、これは楽しみだと、さっそく乗り込んだのだが、今回イベントをセッティングしてくれた武漢の兄ちゃんのテンションが低い。おや?
聞くと、会場探しが難航したという。中国で「素人の乱」などと言うのは字的にマズイらしく、そもそも公然と「乱」などというのは、まずあり得ない話だ。面白そうな店とかも「いや~、それはちょっと…」などと、二の足を踏んで、どうも場所を貸してもらえないとのこと。 それで、いろいろ探しまわってくれて、最後に見つかったのが、「ユートピア」という書店。ここがまた、毛沢東の写真を貼りまくりの社会主義万歳系の所だった!!!!! 最近の中国の穏健路線すらも「そんなのダメだ」と言い出すようなところで、政府からも微妙に牽制されているところだという。まさに極左! いや、中国では極右か!! そんなところで「乱」って、マズイマズイ! しかも中国語で「素人」というのは意味がよくわからないようなので、もし中国政府に発見されたら、「とりあえず『乱』らしい」ということになる。おい、それは誤解だ!! 捕まる捕まる!!
さらに! もうひとつ問題はあって、そんな場所だからこれまた超原則的なカッチリした人たちが集まるかもしれないという。となると、今度は「遊んでるだけでしょ」とか「ただのバカじゃねえか!」みたいなブーイングが起こるかもしれないという。う~ん、日本でもたまに聞く全共闘オヤジなんかのあれか…。だれだ、会場選んだのは!!
会場に行ってみると、やはり真面目な青年たちや、あと一歩で人民服を着てそうな年配の方々! 毛沢東そっくりのおじいさんまでいる! おお、大丈夫か、これ!? 彼らからすると、たぶん「日本の資本主義に反対している感心な若者たち」ぐらいに思っているから、大いに期待してくる。で、上映が始まると、映像の中では、デモ中に神輿を担いで騒いでるわ、移動式のちゃぶ台で酒飲みながらデモに混じってるわで、当然のように、どうにもこうにもチンプンカンプンだ!
で、質問の時間になると、案の定紛糾し始めた!!!! 「デモで音楽をかける必要があるのですか?」とか、「のんびりするのではなく、みんなで頑張って経済的に豊かにならないと!」のような議論が巻き起こり、なんだか大変なことに! しかも、通訳の人は普通の企業で働いているような人だったせいもあるのか、いつの間にか通訳の人と会場の人の大激論になってきた! こうなってくると、言葉もわからないから、こんどはこっちがチンプンカンプンだ! なんだなんだ!? で、挙句の果てには毛沢東風のおじいさんの大演説が始まったりと、もう大パニックだ!
で、わけがわからないままイベントは終了! 主催の武漢の兄ちゃんいわく「資本主義か社会主義かっていう2択しかないところで、日本のよくわからないマヌケ現象を知って大混乱になったから、これはいいイベントだった!」とのこと。なるほどー。うん、そうとも言えるな!!
北京オリンピックのせいか、高度成長のせいか、とにかく北京の街は、昔と比べてきれいになっていた。道も広くてきれいだし、地下鉄に乗っても静かだし、近くの人が突然手鼻をかんで鼻水が飛んできて服にかかったりもしないし、トイレの洗面台でウンコをする人もいないし、店のショーケースにある商品を面倒くさいからという理由で売ってくれないこともない。タクシーで30元のところを値切ったら「じゃあ20でいい」というので乗ったら、降りるときに「何言ってんだよ。20ドルだよ」と、余計高く金をむしり取られたりすることもない。いやいやー、ずいぶんと味気ない所になってしまったんだな…。
ちょっと寂しい思いをしながら長距離列車に乗り、いざ武漢へ。で、着いてみると、駅がいきなり相当うす汚い。おお! なんだか懐かしい匂いがするぞ! で、駅を降りてみると、いきなり大勢のドロボーが盗んだ携帯を売っている! しかもその売ってる携帯はiPhoneなんだが、よく見たらニセモノ! うわ、すごい! もう全部がイカサマだ!
これこれ! 中国の長所はこのイカサマくささだよ! いやー、安心した!
武漢でもイベントを2回ほどやった。まず第1回目は、その武漢の兄ちゃんたちのアジトにて! そこは、みんなで一軒家を借りていて、バンドの練習スタジオもあるし、住んでる人もいるし、庭や屋上なんかもあって、やたらとのびのびしてて楽しそうなところだった! こういう所だから、武漢のバンド仲間とか、その辺で遊んでる若い奴らとかが集まって、酒を飲みまくり、中華料理を作りまくるし、焚き火でいろいろ燃やし始めるし、だいぶ盛り上がった! しかし、こういうアジトを持ってるのはいいね。
武漢第2回目は、武漢大学にて。これはまた、別の意味で面白かった。武漢大学と言うのは、武漢では名門大学なんだが、なにせ地方都市だから、成り上がりを考えたら中途半端なところ。だから、学生らも微妙な立ち位置にいる。高円寺なんかの店とか祭りとか騒ぎとかの映像を上映したら、もう大喜び! 中国でもなんかやってみたいとか、日本に遊びに行きたいとか言いだして、楽しそうだった。が、ここがまた中堅どころの葛藤もあり、「でも、ちゃんといい就職しないと親に怒られる」と、残念そうに言いだす。挙句の果てには、「やっぱり、いい給料もらって家ぐらい買わないと結婚できないから…」だって。…って、よく考えたら、社会主義でなんで家買うんだよ! おかしいじゃねえか! まあ、いいけど。
ともかく、「のびのびと楽しいことをやりたいんだけど、なかなかそうもいかない」という、日本とそっくりの感覚だった。
さて、そんな感じで、中国を後にしたのだが、それぞれドイツや韓国の事も紹介してきたし、いろいろとけしかけてきた。いやー、これからが楽しみだね!!
年末なので、ちょっと余分に…。ここで思ったことは、やっぱり「期待される」っていうのはよくないことだ。北京の街は首都ってこともあり注目を集めてるから、否が応でも頑張らなきゃいけないので、遊びもなくなり、どんどん窮屈で退屈な街になってくる。武漢の街は全国的には大して期待されてないから、いろんな奴らも文化も生まれる隙があったりする。で、武漢大学のような中途半端な位置で微妙な期待を受けると、これがまた妙な葛藤を生んだりするのかもしれない。
なるほど! そう考えてくると、これからは「期待をいかに裏切るか」、あるいは「いかに相手にされないか」。これが重要ってことだ!! じゃあ、やっぱり、リーマンショック以降の世界恐慌ってのは、なかなかいいね!
これを機に、日本も世界の一流国とかもうやめて、史上最大のマヌケ社会になっちゃったほうが、人も文化も面白いものが続々登場して、素晴らしい日本社会がやってくるはずだ!!!!!
金もうけとか、もうムリムリ! はい、やめたやめた!
ということを、来年以降の抱負とさせていただいて、今年はこんなところで!
期待されない、がんばらない生き方というのは、
「国家像」にあてはめることもできそう。
マイナス成長率を前向きに考えると、
文化的にはおもしろい時代がやってくる?
そんな感じで2010年もよろしく!
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