戻る<<

松本哉ののびのび大作戦:バックナンバーへ

松本哉ののびのび大作戦

090708up

これまで「高円寺一揆」や、「クリスマス粉砕デモ」など、
数々の脱力系にして最強の「運動」を繰り広げてきたカリスマ店主、
松本哉による待望のコラム連載です。
来るべき世界恐慌には、この作戦で立ち向かえば、怖くない?。

まつもと・はじめ 「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ

『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)

※アマゾンにリンクしてます。

第12回「ヒマ人大王=チュドッカン伝説」

 去年の6月に筑摩書房から『貧乏人の逆襲』という本を書いたんだが、これが好評なのか何なのか、韓国でも翻訳版が出版された。この出版を記念して4月にもソウルを訪れ、韓国の貧乏人との交流も生まれてきた。で、4月はちょっとイベント続きで忙しかったので、改めてゆっくりと韓国の貧乏人階級の連中と交流しに行ってきた。
 今回は、高円寺をはじめ、日本からもゾロゾロと行くことになった。ひたすら焼肉を食いに行く目的の素人の乱の飲み屋のマスター、ブランド物とロッテワールドが目的で、整形するかどうかを本気で迷っていたうちの店のバイトの女の子、前のライブで壊したギターを買い換えようともくろむ同じくバイトの村上くん(この連載にも頻出)、素人の乱大阪店界隈をウロついていたものの最近高円寺に引っ越してきたが何もすることがないというヒマ人の女の子・・・、と思えば本気で「日韓連帯」をもくろむフリーターユニオン福岡のボスだったり・・・。まあ、よくわからない多彩な面子で韓国を訪れてきた。

★エプロン事件
 ソウルに到着して、とりあえずはご飯でも食べに行こうかと言うことになり、店に入った。すると、さっそく情報を聞きつけた「全国白手(ペクス)連帯」(「ニート連合」みたいな意味)のチュ・ドッカン氏が駆けつけてくれた。
 このチュ氏、ペクス(ニート)と言いつつもスーツ姿。おかしいと思ってきいてみると「知り合いのパーティに行って、タダメシを食べてきた」という。おお、なんだこいつ! 俺も昔よくやってたぞ、それ! いきなり、手ごわい奴が登場した!
 さっそく、交流会というか飲み会が始まったのだが、チュ氏はどこから持ってきたのか、店のエプロンを勝手につけてやたらと働き出した! なんだか知らないが、冷蔵庫からせっせとビールを持ってきたり、料理を追加するときなどにも走って厨房に注文を言いに行ったりし始めた! なんだ、「ペクス連帯」とかいいながら、やたらしっかりしてるじゃないか! で、酒も回ってきて、いざお開きというとき、なんとチュ氏は店のオヤジに向かって「あれだけ働いたんだから少し安くしてくれ」とかなんとか言い出した! そうきたか!! 結局、店のオヤジも「面倒くせえな、おい」みたいな感じになってきて、なんと2000ウォンの値下げに成功! 日本円にして約150円! でかした!!!!

勝手にエプロンをつけるチュ氏。よく働く。

★メールチェック事件
 さて、翌日。みんな各自で好き勝手に街に散ることになったが、チュ氏は「マツモトサン、リサイクルショップ!」などと言い出し、つかまってリサイクルショップへ案内された。チュ氏は「コーヒーでも飲むか?」みたいなことを言い出して、店のオフィスへ入っていった。その店はチェーン展開もしているらしく、結構大きなオフィスだった。なんだ? 意外にもチュ氏はこんなところに顔も効くのか!? …が、どうも様子がおかしい。チュ氏は「日本からはるばる同業者が見に来た」みたいなことをオフィスのいろんな人に話しかけているが、いまいち相手にされていない。やっぱりこの店、見ず知らずの赤の他人だ!! しかし、さすがはチュ氏。どうも気まずそうな雰囲気が漂い始めた瞬間、「よし、行こう!」と、さっさとオフィスを後にした。おおっ、こいつプロだな!? ともかく、コーヒー作戦は失敗らしい。
 気を取り直して別のリサイクルショップへ。こちらは家具や電化製品が店内所狭しと並んでいて、一見すると日本のリサイクル屋とほとんど変わらない感じだった。ただ、やはり形が違ったり、相場が違ったりしていて、同業者としてはなかなか興味深いものがあった。で、店内を見ていると、「マツモトサン」と、またチュが呼んでいる。行ってみると、店主らしきオッサンのところにいて、またも「日本からはるばる同業者がやってきた」みたいなことを大そうに言い始めた。オッサンが「おお、そうなのか」という反応を示した瞬間に、チュ氏は絶妙なタイミングで「ちょっとパソコンいいですか?」と、その店のパソコンのキーボードをたたき出した。オッサンも俺も紹介されたものの、通訳なしでは会話ができないので、こっそりチュ氏に助けを求めたところ、薄情にも「もういい、店内でもみててくれ」と小声で囁きやがる。で、よく見たら自分のメールチェックしていた! チュの野郎、俺をダシにして、パソコン使いたかっただけじゃねえか、どうなってんだ! こっちはオッサンと二人で気まずいぞ!

★凄惨!ムラカミ水事件
 滞在中『貧乏人の逆襲』韓国語版の読書会みたいなイベントがあり、それにも参加してみた。そういうイベントに行くとたいていは食事もご馳走になるので、当然のようにチュもついて来る。ロクに働いてないだけに、この辺の嗅覚とフットワークは最高だ。
 で、食堂でご馳走になった後、店のおばちゃんが冷たい水を持ってきてくれたとき、事件は起こった! チュ氏の隣に座っていた村上くんがトイレにたった隙に、チュは自分のぬるくなった水を、隣の村上くんのコップにすばやくジャッと注ぎ、自分は冷たい水をもらって飲んでいた!!
 見破ったり! チュ・ドッカン、もはやこれまでだ!! 神妙にしろい!!! と、軽く突っ込んでみると、「えっ、ダメ?」と、自分の鼻の頭を指で指し、ちょっと愛嬌あるはにかんだ笑顔でこちらを振り返る。 う~ん、これは慣れている! 切りかえしも一流だ!! 

街を歩くとき、すぐ白鳥のかぶりものをつける。これに反応した通行人にすかさず名刺を渡して、仲間を増やしているとい う。

★チキン大ひんしゅく事件
 さて、一週間の滞在期間もあっという間に過ぎ、いよいよ最後の夜を迎えた。この日は「ピンジップ」という名のゲストハウスに泊まっていた。このピンジップはソウルを訪れるときはよく来るところで、「物を大事にして自分たちの手でやれることはやろう」といったポリシーのあるところ。10代の子から年配の人や、外国の人など、長期滞在者もたくさんいる。屋上でいろんな野菜を作っていたり、水もムダに使わないようにしていたり、料理も出来合いのものはなるべくやめて自炊を心がけている。韓国も日本と同様に、すごい消費社会とテンポの速いあわただしい生活スタイルが染み付いており、そんな社会の中でピンジップのような生活を作っていくことはとても大切なことだと思う。
 と、思っていたら、そこへ我らのチュ氏も駆けつけてきたのだが、なんと、あろうことかピザ、チキンなどジャンクフードを大量に買い込んで、満面の笑みでやってきた!!! 当然本人はそんな事情は知らないので、悪気があるわけじゃないが、いったいなんてマヌケなんだ!! もちろんピンジップの住人たちはあきれ果てるが、チュ氏の偉大なところは、その辺の空気を一切読まないこと。「遠慮しないで食べて食べて!」とピンジップの人々にひたすらチキンを勧めまくる!
 とまあ、そんな感じで微妙な空気も漂いつつ、最後の飲み会を終えた。

 なんだなんだ!? こう書いていると、何しに韓国に行って来たのかよくわからない感じがしてきたぞ!? まあ一応、弁解しておくが、実はいろんなところに行って来た。公的な教育機関ではなく、自分たちの手で作ってしまった研究機関の「スユ+ノモ」。文来洞という町工場エリアの空きスペースにアート系の人たちが入っている新たな試み。新たな抵抗のやり方を模索する釜山の人たちとの交流会。再開発地域への強烈な追い出しで5人もの死者を出している龍山(ヨンサン)という地域…。ま、この辺のことはまたどこかの機会で話すとして、とりあえず今回のところはチュ・ドッカンの武勇伝にしておこう。
 ちなみに、チュ氏に日本に来ないのか聞いてみたら「次はマグロ漁船に乗って行く」とのこと! 「何週間かかかるけど、料理を作ったりして働けばタダでいけるはずだ。これはやってみる価値はある」と、わけのわからないことを言っていた。
 韓国にもチュ氏のようなとんでもない奴がいた! これは心強い!! マヌケな貧乏人は世界各地をウロついているに違いない!!

文来洞という、鉄工所地帯の屋上で『素人の乱』の映画上映会を開催。ここはすごいところだった!

 

日本でも韓国でも、あんまりテンションの変わらない「のびのび大作戦」。
行ってきた「いろんなところ」の話もぜひ読みたい!ところですが、
それはまた次回に期待?
それにしても、韓国→日本のマグロ漁船航路(?)は存在するんでしょうか…。

ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条