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自他共に認める日本一の愛国者、鈴木邦男さんの連載コラム。
改憲、護憲、右翼、左翼の枠を飛び越えて展開する「愛国問答」。隔週連載です。
すずき くにお 1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ」
「来年はどんな年になりますか?」と姜尚中さんに聞かれたので、「清貧の時代になります」と瞬間的に答えた。「『マガジン9条』にも同じことを聞かれてるんですよ」と言った。だから、「二人」に向かって喋った。
12月20日(土)の夜、赤坂の火鍋屋さんで姜さんの忘年会があり、いきなり聞かれたのだ。「清貧」と言ったけど「清」でもないかなと思った。「濁貧」だ。学生時代に戻ればいいのだ。物質的には貧しくとも、知的好奇心は旺盛で、精神的には<貴族>だった学生時代に戻る。そう思うと、ワクワクする。
姜さんは僕よりずっと若いが、でも同年代を生き、闘った。同じ早大だ。早大だというだけで打ちとけてしまう。それを「早大ナショナリズム」と言う。国境や思想をも超える奇妙なナショナリズムだ。
「あの頃は学生は四畳半とか三畳のアパートに住んでましたよね。それでいて、本は貪り読んでいた。大声で議論していた」。「そうですね、僕は三畳でしたよ」と姜さんは言う。今の学生には信じられないだろう。でも、三畳のアパートが今の「知の巨人」姜尚中を作ったのだ。
当時は、貧しさに於いて皆が平等だった。そして社会に向かい「異議申し立て」をして闘っていた。闘うために本を読んだ。勉強した。アパートには風呂はない。クーラーも電話もない。トイレも共同だ。扇風機を持ってた学生が皆に「ブルジョワ的だ!」と攻撃され、自己批判していたっけ。
「三畳か。でも自由でよかったでしょう。僕は、九畳に三人でしたよ」と言った。
「生長の家学生道場」にいたからだ。35人ほどの寮だが、朝の4時50分に叩き起こされて、お祈り、講話がある。早朝の起床もキツかったが、九畳で三人の「共同生活」がキツかった。だから、三畳でも、自分一人の城にあこがれた。三畳か四畳半の「城」に住みたい。それが夢だった。
それから40年たって、その夢だけは実現できた。六畳のアパートに住んでいる。風呂まである。クーラーもある。こんな贅沢をしていていいのだろうか、と思う。でも、精神的には学生のままだ。貪欲に学んでいる。知的向上心は旺盛だ。それさえあれば、物質的にはもっともっと落ちてもいい。
次は三畳一間のアパートに引っ越し、銭湯通いをする。夏は窓を開け放ち、ウチワでバタバタあおぎながら原稿を書く。冬は、布団にもぐり込んで原稿を書く。そうしたら、今よりもグンといい原稿を書けるだろう。「贅肉」が付きすぎたのだ。捨てたらいい。煩わしい人間関係も捨てたらいい。子供は早く親離れしたらいい。親も早く、子離れしたらいい。そして皆、三畳一間に住めばいい。三畳一間の「精神の王国」に住めばいい。そうしたら皆、姜尚中になれる。
「2009年はどんな世界になるか」だったな。じゃ、言おう。「2009年は、家族がなくなります」。結婚もなくなります。みな、一人になってやり直すんですよ。少なくとも、「家族崩壊」の始まりの年になります。
もう今の子供は既に「大人」だ。誰に教わらなくても携帯やパソコンは使えるし、恋愛もできる。金の計算もできる。彼らは、インターネットで世界につながっている。僕は専門学校と予備校で教えているが、むしろ、子供たちから教わることの方が多い。政治、社会、あるいは人間関係について、分からないこと、悩んでいることは子供に相談している。「ダメだな、クニオは」と言いながら、教えてくれる。
彼らにとって、「大人」に教えてもらうことは、もうないんだ。「情報」は瞬時にして検索できるんだし。だから義務教育はもう、いらない。今すぐ廃止したら淋しいだろうから、「義務教育」は4年にする。10才になったら、社会人として認定する。みな自立して働けばいい。今でも、高校生や大学生はバイトばっかりしている。「勤労意欲」にあふれている。だったら、10才からやらせる。親も、扶養義務は10年間だけだ。精神的に解放される。大体だな、30才や40才になっても、事件を起こしたら「親は何をしている!」と世間に袋叩きにされる。かなわんだろう。10才過ぎたら、赤の他人だ。親のせいにするな。
それでも不安なら、「勘当」を制度として復活させる。大学の除籍と同じだ。「こんな子は生んだおぼえがありません」と、リセットするんだ。そうしたら、子供だって自立する。いいことづくめだ。
売れ残ったマンションはみな、壊して、木造の長屋にする。全部、三畳のアパートにする。結婚や家族も幻想なのだから、いずれ無くなる。そんなものにしがみつく人間はダメだ。でも、どうしてもしがみつきたい人間は、ネットの世界でやればいい。バーチャル結婚をし、バーチャル家族を作ればいい。あるいは「業者」にメールして、「レンタル家族」を派遣してもらえばいい。一時の夢に酔ったらいい。僕も時々、利用している。
「貧しさ」を軸にして、バック・トゥ・ザ・フューチャーだ。ユートピアはいつも過去にしかないんですよ。
昔は、5才位から、働いた。家を助けるために、シジミ売りをしたり、納豆売りをしたり。戦国時代は、生まれた時から「許婚」がいた。6才位で結婚した。みな「大人」だった。今は、みな「子供」だ。政治家も、いやになったらすぐに放り出すし、考えなしに、思いつきでモノを言って問題を起こすし。親の地盤を継いで政治家になるし。どこを見ても、「子供」だらけだ。
皆、親離れしたらいい。子離れしたらいい。自立の年のスタートになる。2009年は。
あっ、ネットは子供を生んでくれないか。これは困った。これからは、人間は精神的・思想的なことだけをやる。仕事や恋愛や結婚、家族…といった形而下的なことは、ネットに任せたらいい。そう思っている。でも、子供は生まれないな。じゃ、これだけは人間がやる。でも、NHKスペシャルでやってたが、アメリカでは、ネットで探して出産する人が急増している。男を探して恋愛し、交わるのではない。そんな動物的なことは卒業した。精子バンクで、いい精子を探すのだ。それを飲む。違うか、体内に取り込む。それで、理想の子供が生まれる。日本もこれでいいよ。いい点はどんどん「アメリカ化」したらいい。「60年安保の闘士がいいわ」「赤軍派がいいわ」「アナキストを育ててみたいわ」「右翼は安いから、これでいいわ」…と、夢が拡がる。可能性が拡がる。
これから世の中はどんどん保守化だ。でも、反対派がないと議論は腐敗する。表面的にでも「反対派」は作るべきだ。だから左翼の精子を買った人には報奨金をつける。左翼の「種の保存」だ。人口的に養殖する。交配することにもなる。これで、左翼種も絶滅の危機から救われる。いいことだ。素晴らしい日本になる。
鈴木さんが予想(?)する、ちょっと過激な「2009年」。
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