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「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第34回:鳩山首相は歴史に足跡を残せるか

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ジン  鳩山由紀夫首相が、かなり踏み込んだ発言をしているね。とうとう決心したんだろうか。

マガ  普天間基地問題のことだね。

ジン  そう。朝日新聞(1月28日夕刊)によると、はっきりと普天間基地の継続使用を否定したという。

<見出し>
首相「普天間継続せず」
参院予算委 移転先決めると明言

<記事 >
 鳩山由紀夫首相は28日の参院予算委員会で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題について、「覚悟を持って5月末までに(移設先を)決める。(普天間に)戻ることはしない決意だ」と述べ、普天間の継続使用を容認することはないとの考えを示した。
 自民党の山本一太参院議員の質問に答えた。5月末までに移設先を決められなかった場合の責任の取り方は「そのとき考える話だ。もしできなかったらということは毛頭考えていない。必ず5月末までに結論を出す覚悟を持って臨むということに尽きる。米国にも沖縄県民にも理解される結論を必ず出す。それが私にとってすべてだ」と語った。(以下略)


 ここまではっきり言明したのであれば、近い将来、普天間基地は撤去か移設かの、どちらかを選ばなければならない。

マガ  先日の名護市長選挙では、辺野古移設反対派の稲嶺進さんが当選した。これで、辺野古移設はほとんどなくなったとされているよね。とすれば、普天間基地はどこへ行くんだろう?

ジン  さまざまな案は出ている。しかし、日本国内で快く米軍基地を受け入れるところなんて、まずないだろうな。

マガ  じゃあ、普天間はそのまま…?

ジン  いや、ここまで首相がはっきり「結論が普天間に戻ることはない」と明言したんだ。それを撤回することは、いかにブレを指摘されている鳩山首相にだってできるわけはない。岡田克也外相は「普天間存続も否定しない」などといまだに言っているけれど、そんなことをすれば、当然のことながら、鳩山首相は辞任に追い込まれるだろう。

マガ  そうなると、普天間基地はどこかへ移すしかない。それとも、無条件返還というところまで、鳩山さん、踏み込むのかな?

ジン  アメリカに対して無条件返還を求めることもないとはいえない。前にも触れたように、鳩山首相の持論は実は「常時駐留なき安保」なんだ。「冷戦構造が終わった現在、常に米軍が日本に駐留している必要はない。有事の際の拠点を確保しておければそれでいいはず」というのが、多分、いまでも鳩山首相の本音なんだろう。しかも、小沢一郎幹事長もこの意見には同意しているようだ。

マガ  へえ、小沢さんも同意見なの?

ジン  そう考えて間違いないと思うよ。実は小沢幹事長は昨年2月に「冷戦終結から20年も経ったこの時代に、アメリカも前線に部隊を配置しておく意味はもうないだろう。極東におけるアメリカのプレゼンスは第7艦隊があれば十分ではないか」と発言して、自民党や親米評論家たちから総攻撃を受けたこともある。しかし、軍事評論家の田岡俊次氏などは「小沢さんの意見はまったく正解。それを批判するほうが、現在の軍事情勢を理解していないのだ」と、小沢発言を評価している。

マガ  確かに、小沢さんは「美しい辺野古の海に基地は似合わない」という言い方で、辺野古案も批判していたしね。つまり、現政権与党のナンバー1と2が、実は「普天間基地は必要ない。辺野古移設にも反対」と考えている、ということ?

ジン  その方向性を探っているのは確かだろうね。一方、アメリカ側の発言も、日本のメディアの「米政権が大激怒」的な報道の大合唱とは違って、「日米同盟の深化」から「基地問題は日本政府の意向を勘案して解決するべき」へと移りつつある。例えば、いわゆる知日派の一人といわれるハーバード大のジョセフ・ナイ教授(元国防次官補)は、「米政府の一部には日本へ圧力をかけるべきだという意見もあるが、それは思慮不足だ。もっと忍耐強く交渉すべきであって、東アジアの長期的戦略を考えた場合、基地問題など副次的問題に過ぎない」と述べている。こういった意見は、オバマ政権内部にも浸透し始めているようだ。

マガ  アメリカにも、普天間基地撤去を受け入れる下地ができつつある、ということかな。

ジン  オバマ大統領は、支持率低下に苦しんでいる。その挽回策として、国内右派に迎合する形で台湾への武器輸出に踏み切った。当然、中国は反発を強めている。そんな時期に日本で反米感情が高まるのは、アメリカとしてはなんとしても避けたい。辺野古移設にこだわったり、普天間基地返還を拒否したりという強硬な態度に出れば、日本国内に反米感情が沸き起こる可能性は大きいからね。中国との関係がこじれ、その上に日本との関係もうまくいかないとなれば、オバマ政権のアジア政策にとっては大打撃。その意味でも、日本側の要請を受け入れて日米関係を円滑に継続していきたい、と考えるのは当然だろう。

マガ  普天間基地無条件返還という希望が、夢ではなくなるかもしれないということだね。もしそれが、鳩山首相のほんとうの狙いだとすれば、僕は、その一点だけで鳩山首相を支持する。

ジン  普天間無条件返還がもし実現したら、鳩山首相はそれだけで歴史に残る首相となるだろう。そうなることを、私も切に願っている。

小沢批判と外国人参政権

マガ  小沢さんの基地問題についての考えは分かったけど、その小沢幹事長、大逆風に晒されているね。土地購入問題に関しては、民主党内からも、小沢責任論が噴出しているみたいだし。

ジン  そうだね。先週末(1月30、31日)には、枝野幸男衆院議員、前原誠司国交大臣、野田佳彦財務副大臣ら民主党の中堅幹部たちが、一斉に小沢批判を展開した。

マガ  なぜ一斉に声を挙げたんだろう。いわゆる反小沢派が連携して行動に出たのか。

ジン  世論の動向を見ていたんだろうな。例えば、2月1日の毎日新聞によれば、世論調査の結果、「元秘書の石川知裕議員が起訴された場合、小沢氏は辞任すべき」という回答が76%に達したという。この数字は大きいよね。それに、1月31日に小沢幹事長が検察からの2度目の事情聴取を受けていたことも判明した。だから、この辺が批判の声を挙げる潮時だと判断したんじゃないかな。

マガ  でも、そういう報道の前に一斉に発言し始めたじゃないか。

ジン  当然、情報が彼らに入っていたということだよ。月曜日に発表されるという世論調査結果なんか、事前に有力政治家へは筒抜け。新聞社やテレビ局には、なぜかご注進に及ぶ記者が多いんだ。

マガ  政治家と記者のもたれ合い、ですか。

ジン  まあ、情報交換、という言い方をするだろうけど。

マガ  で、やっぱり小沢幹事長は辞任するのかな。

ジン  それはよく分からない。でもこれらの批判は、思ったほど民主党内には拡がっていない。批判者たちの思惑が外れた形だね。小沢氏本人は「そんなことは想定していないが、もし私が起訴されるようなことになったら、それは重大なことと受け止める」と、引責辞任を示唆していた。つまり、起訴されなければ辞めないということだけど、しかし、政策決定に重大な動揺が起きていることは間違いない。民主党内はかなりガタガタし始めている。

マガ  政策決定の動揺?

ジン  例えば、野田財務副大臣の発言がその典型だ。彼は「外国人参政権」には大反対している。これは、小沢幹事長が先頭に立って成立させようとしていた法案だけど、それについて野田氏は「私はこの法案には明確に反対だ。選挙権が欲しいのなら、帰化すればいいじゃないか」と、豊田市の民主党の総会で発言した。つまり、小沢氏が主導している政策に、敢えて異を唱えた。アンタの言うことはきかないよ、というわけだ。

マガ  外国人参政権って、日本に永住権を持っている外国人たちに、地方選挙権を与えよう、という法案だよね。

ジン  そう。小沢幹事長が熱心に成立させようとしている法案だけど、これには民主党内にも異論はある。その上、特に右派系の人たちの反発が強く、自民党なんかは強烈に反対している。「日本を外国人に売り渡すのか」などという、過激な意見も飛び交っている。しかしね、多くの世論調査の結果では、6割以上の人たちが「外国人参政権に賛成」と答えているんだ。少なくとも地方参政権なら、国家レベルの政策決定とは違うわけだし、私は与えるべきだと思うけどね。いまや世界的には、特にヨーロッパではEUの拡大に伴って、外国人参政権は常識のようにさえなっている。グローバル化を言うのなら、そのくらいの幅の広さは必要じゃないかと思うんだ。しかし、小沢氏がもし辞任ということになれば、この法案は小沢氏とともに葬り去られる可能性もある。

マガ  右派の人たちがしきりに小沢批判のトーンを上げてきているのには、外国人参政権反対という事情もあったわけだね。

ジン  そういう状況を見て、鳩山首相は、この法案の提出を見送りそうな気配だ。そのあたり、やっぱり鳩山首相、グラグラと何を考えているかよく分からない部分が多いなあ。

マガ  期待させたり、ガッカリさせたり、ほんとうに鳩山さんという人はよく分からない。宇宙人というあだ名の通りだね。

住民投票条例

ジン  期待ということで言えば、住民投票の結果尊重を義務付ける法案を政府は提出する構えだ。これは、住民投票の結果が必ずしも地方議会では尊重されていない現状、例えば投票では「A」という意見が多数を占めたが、議会はその「A」案を否決し、結局、住民投票結果は実現されなかった、という例はかなり多い。

マガ  そういえば、1997年12月に名護市で行われた辺野古基地建設に関する住民投票で建設反対派が勝利したにもかかわらず、当時の比嘉鉄也名護市長は住民の意志を裏切る形で建設受け入れを独断で表明し、市政混乱の責任をとる、と言って突然辞任してしまった、というひどい事態が起きた例があったね。

ジン  そう。今回の辺野古問題の発端があの住民投票だった、とも言える。つまり、行政側に住民投票の結果を尊重する義務を課そうという法案だね。そうでなければ、何のために住民投票を行うのか意味が分からなくなってしまう。

マガ  せっかく住民投票を行っても、その結果を無視されたんじゃ虚しいものね。

ジン  現在は、住民投票条例は各自治体が独自に制定している。もちろん、そんな条例を持たない自治体のほうが多い。だから今回の法案は、「すべての地方自治体に住民投票条例制定を義務付け、さらに、一定の割合の有権者の署名があれば投票を実施しなくてはならない」というようになるらしい。ただ、政府部内には「投票結果が行政を縛ることには慎重であるべきだ」という意見も多いらしく、投票結果を行政に義務付けるか尊重に留めるかについてはまだ確定していないという。

マガ  でも、各自治体が同じ条例を持てば、その投票結果を守る自治体とそうでないところとが一目瞭然になる。そうなりゃ、どこも守らざるを得なくなるんじゃないかな。いいことだと思うな。

ジン  これは今国会で成立するだろう。鳩山首相の施政方針演説でも「今年を地域主権革命の元年と位置づける」と述べていたからね。鳩山首相の揺れる部分と突き進む部分、さて、普天間基地問題はいったいどっちなのか。

マガ  米軍基地問題についてだけは、絶対に揺れずに突き進んで欲しいなあ。歴史に残る総理大臣になるためにも。

ジン  うん、全面的に同意する。

(放光院+α)

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