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「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第31回:普天間問題についての根本的な問い

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マガ  年が明けて、何か新しいことはありましたか?

ジン  まだあまりこれといった動きはないね。藤井裕久財務大臣の辞任と、日本航空の法的整理といったところかな。あとは、鳩山由紀夫首相と小沢一郎民主党幹事長の政治資金問題。相変わらず、不況と政治資金関連。なんとも先行きの見えない年の始まり…。

マガ  メディアの論調にも、特に変わった気配はないみたい。普天間基地の問題だって、「アメリカが絶対に認めない県外国外移設なんか不可能。そんなことをすれば、日米同盟が根底から揺らぐ。それでもいいのか」という記事ばかり。まるで変わっていない。

ジン  そう、検証記事がないんだ。例えばあの“インド洋給油”について考えてみればよく分かる。給油がついに終わる。テロ対策特措法によって、海上自衛隊が2001年12月から開始した米艦艇への給油活動が、その後を継いだ新テロ対策特措法の期限切れに伴い、今月15日で終了するわけだ。世論の過半数の反対を無視して自公連立政権下で制定され、8年間にわたって施行された“洋上無料ガソリンスタンド”だったけど、いまやほとんど話題にもならない。そんな中で、補給艦「ましゅう」と護衛艦「いかづち」が引き揚げてくる。「新テロ特措法を延長しない」と民主党が言ったときに、メディアは一体どう報じたか?

マガ  あ、そうか。「もし給油を止めたら世界の笑いものになる」とか「アメリカが怒って日米同盟が崩壊する」、「国際貢献のやり方も知らない国だと非難される」などと大騒ぎをしたメディアや評論家、学者なんかがたくさんいたよなあ。

ジン  そうだったろう? でも、国際的非難なんか浴びたかい? そんな話、とんと聞かないよな。アメリカが怒って、日米同盟がガタガタになったかい? そんなことはなかったよね。逆に、アメリカ国内でさえ“洋上給油”なんかほとんど知られていない、という事実が暴露されただけだったじゃないか。

マガ  それと同じ構図が、普天間問題でも見えるということなんだね。

ジン  そう、例えば産経新聞。しきりに「給油停止は日米関係に重大な亀裂を生じさせ、国際社会から非難される」と書きたてた。いまそれが終わるというのに、まったくそこには触れない。代わりに何を主張しているのか? 毎日新聞(1月10日)が「社説ウオッチング」というページで、主要各紙の社説をまとめているけど、それによると産経新聞はこうだ。

<産経は安保改定50年をテーマとした社説を4日に掲載。現政権下で、日米同盟の前途に暗雲が漂い始めたと危機感を強調した。「政権の頭上には『常時駐留なき安保』という怪しい亡霊も見え隠れする」と指摘し「同盟関係の崩壊は一瞬にやってくる」と警告した。>

 どう? 給油停止に対する論調と瓜ふたつ。それを言うのなら、まず“給油停止”によって日米関係がどうなったかを検証した上でなければおかしいだろう。なんだか、へたなSF映画みたいに“崩壊”がやたらお気に入りらしいけど、そんな程度で崩壊するような関係なのかね、“日米同盟”って。

マガ  これで崩壊しなければ、また別の“崩壊のタネ”を探さなければいけないね。それに「常時駐留なき安保」というのは、僕には真っ当な意見だと思える。なんでこれが“怪しい亡霊”なの? あの「ひとつの妖怪がヨーロッパを徘徊している。共産主義という妖怪が」という『共産党宣言』のもじりなのかねえ。

ジン  そのつもりなんでしょ(笑)。しかしね、これは何も産経だけじゃない。この記事を掲載した毎日新聞にしたって、記事の前段でこんなふうに書いている。

<(略)年明けの論調として目立ったのは、日米安全保障条約改定50年を機に、新政権になって揺らぐ日米関係を取り上げた社説で、論点の違いがくっきりと分かれた。>


 ね、毎日も「新政権になって揺らぐ日米関係」と、まるで当然の前提のように書いている。しかし、ほんとうに揺らいでいるのか。

マガ  うーん、確かにそこのところはよく分からないな。さっき、洋上給油なんか、アメリカ国内でもほとんど知られていなかった、と言ったけど、普天間問題もアメリカ国内では一部の政府関係者を除いては、話題にもなっていないという話も聞くしね。

ジン  そうだよ。日本のメディアが妙に煽っている気配が強い。例えば鳩山首相とCOP15(気候変動第15回締約国会議、2009年12月7日~18日にデンマークのコペンハーゲンで開催)の晩餐会で同席したヒラリー米国務長官が帰国後に、鳩山首相の「普天間問題について、ヒラリー国務長官が了解してくれた」というコメントに関し、藤崎一郎駐米大使を呼びつけて「鳩山首相のコメント内容は事実と違う」と不快感を表明した、と大手メディアが揃って報じたよね。しかし、これには強い異論も出ている。その一例として、少し古い記事だけど、日刊ゲンダイ(2009年12月24日)が次のように書いていた。

<(略)21日に米国務省で行ったクリントン長官との会談について、藤崎大使は「朝、急きょ呼ばれた。普天間計画の即時履行を求められた。大使が呼ばれるのはめったにない」と神妙な面持ちで解説した。これを受けて大マスコミは早速、「駐米大使、異例の呼び出し」「米国が強い不快感」と大々的に報道。日本と米国が戦争でもおっぱじめるかのように大騒ぎした。ところがこれが大ウソだった。翌日、クローリー国務次官補が会見で「呼んでいない。(藤崎)大使が立ち寄ったのだ」と明かしたのだ。これが本当ならとんでもないし、仮に呼び出しが事実だとしても、真っ先にマスコミに話すことが国益になるのか。政府内で話し合うのが筋だろう。外務官僚が勝手にやっていいことではない。
「本省の指示なく、勝手にやったのだとすれば、一種のクーデターですね」
こう言うのは元レバノン大使の天木直人氏。
「本来なら、すぐに東京の本省に連絡を入れて対応を協議すべき内容です。それを真っ先にメディアに話したのだから、怪しいと思いました。そもそも大使は、当該国の要人を呼んだり、自分が呼ばれたりするのが仕事です。駐米大使に就いて2年近くになるのに、呼び出しを『異例』という感覚も信じられない。自ら『仕事をしていない』と白状していることになる」(以下略)>


 日本で一斉に報じられた「米国が強い不快感を示した」というのは、ある種の“世論操作”だと、日刊ゲンダイは断じている。

マガ  なんだか、何を信じていいのか分からなくなるなあ。

ジン  だからメディアのひとつひとつの報道に惑わされず、もう一度、普天間問題を根底から見直す必要があるだろうなあ。

マガ  根底からって言ったって…。

ジン  雑誌『世界』2月号(岩波書店)が、「普天間移設問題の真実」という特集を組んでいる。その中で寺島実郎氏が「常識に還る意思と構想―日米同盟の再構築に向けて」という論文を書いているんだけど、そこに示唆的な文章があった。

<(略)常識に還るということ、日本人に求められるのは国際社会での常識に還って「独立国に外国の軍隊が長期間にわたり駐留し続けることは不自然なことだ」という認識を取り戻すことである。詭弁や利害のための主張を超えて、この問題に向き合う強い意思を持たぬ国は、自立した国とはいえない。直視すべき事実をもう一度明記しておく。
戦後六五年目を迎え、冷戦の終焉から二〇年が経過使用としている日本に、約4万人の米軍兵力(他に軍属、家族が約五万人)と約一〇一〇平方km(東京二三区の一・六倍)の米軍基地が存在していること
米国が世界に展開している「大規模海外基地」上位五つのうち四つが日本にあること(横須賀、嘉手納、三沢、横田)
「全土基地方式」が採用され、日米政府代表による日米合同委員会がどこを基地として提供するかを決めることができる(地位協定二条)ため、東京首都圏に横田、横須賀、座間、厚木など世界に例がないほどの米軍基地が存在すること
米軍駐留経費の七割を受け入れ国たる日本側が負担するという、世界に例のない状態が続いていること
在日米軍の地位協定上のステータスは、占領軍の基地時代の「行政協定」を引きずり、日本側の主権が希薄であるのみならず、地位協定にも規定のない日本側コスト負担が拡大してきたこと (以下略)>


 どう? 寺島氏がここに示した5項目をきちんと検証すれば、在日米軍基地がいかに世界的常識からかけ離れているかが分かるだろう。

マガ  なるほど。なぜこんなことになっているのか。この状態を放置しておいていいのか。通常の形の2国間関係に戻すためには何が必要か。そういうことを根底から見直すことが大切じゃないか、というわけだね。そういえば、筑紫哲也さんの『若き友人たちへの手紙』(集英社新書)にも同じような記述があったな。

<考えてもみてください。日本が自分たちの選択をしたいと思った時、自国の首都の首根っこを押さえるように、外国の軍隊が強烈な形で存在しているんですよ。横田とか厚木とか。それに逆らって動こうと思ったら首を絞められかねない。それほどの外国兵力が首都近郊にあるんです。しかも今度、米軍再編でヘッドクォーター、司令部が首都圏に来ようとしている。それに対して何も危機感を感じないのか、この国の人たちは。私は不思議に思うんです。
軍事的に巨大な力が国家の首都の首根っこを押さえている。それで独立した国と言えるのか。そのことすら議論しない。これはいかにものを考えない国民であるとしても、そうとうノー天気じゃないかと思うのです。(以下略)>


 まず問題の根本を見つめ返せ、と筑紫さんも言っている。そうすれば、おのずと常識というものが見えてくる。その上で議論を開始せよ。そういうことなんだね。

ジン  世界的に見て普通じゃないというのであれば、それを普通の形に直していくのが、それこそ“普通の外交”じゃないかね。こんな異例ずくめの関係の上に立った“日米同盟”なら、それはやはり異常なんだよ。

マガ  日本が自立した国であるなら、いびつな関係を正常なものに変えていかなければならない。当然だと思う。「もし普天間基地を撤廃したら日米関係が崩壊する」というのなら、フィリピンの場合はどうなのか。アジア最大の米軍のクラーク空軍基地とスービック海軍基地は、1992年にフィリピンへ返還されたけど、その後米比関係は崩壊したか。そんな事態は起きていないよね。

ジン  まったくその通り。同じ寺島氏の論文の中にこんな記述もある。

<ライシャワー東アジア研究センター長のケント・カルダーは『米軍再編の政治学―駐留米軍と海外基地のゆくえ』(日経新聞社、二〇〇八年)において「過去五〇年間、基地受入国で政権交代がなされた後に、撤退する確率は、アメリカの基地の場合でも六七%」という興味深い事実に触れている。(以下略)>


 つまり、政権交代が起きた国にあった米軍基地は、その七割近くが撤退している、というわけだ。ならば、政権交代が起こった日本でも、それが出来ても別に不思議ではない。

マガ  なるほどねえ。それなのに、なぜ日米関係だけが特殊なのか。やっぱり、もう一度きちんと検証する必要があるね。

(放光院+α)

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