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「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第30回:今年は憲法問題にこだわろう

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マガ  2010年が明けました。かなり冷え込んだ年末年始だったけど、元気でしたか?

ジン  はい、ノンビリとした年明けでしたよ。それにしても、いつになく荒れた天候の年末年始だったようで、私の故郷からも大雪の便りが届きましたな。でも、この不況感をなんとか神頼みで乗り切ろうと、各地の神社仏閣には例年以上に初詣客が多かったようだね。私は人混みが苦手なので、自宅の近所のほとんど参拝客のいない小さな神社に、ひっそりと個人的な初詣をしてきたけど。

マガ  そうね、初詣だけじゃなく、例の「派遣村」にも予想以上の人たちが集まったみたいだし、不況は具体的な形になって表れている。「荒れ模様の天候は、2010年を象徴しているのかもしれない」なんて、テレビである評論家が言っていたけど、今年はいま以上に荒れるのかなあ。

ジン  うん。昨年は、数十年ぶりの政権交代という「政治的激動」があったわけだけど、今年は「激動第2幕」ということになりかねないな。

マガ  えっ? また政権交代みたいなことが起きるということなの?

ジン  いや、現状から言えば政権交代はないだろう。少なくとも、民主党に代わる政党はない。自民党はもはや、沈みかけた泥舟状態。どんどん人が逃げ出している。田村耕太郎、長谷川大紋、吉村剛太郎、山内俊夫ら自民党参院議員がすでに離党届を提出した。さらに、あと3人は確実に離党しそうだという情報もある。もしそうなると、離党者は3人に留まらないだろうね。ぞろぞろと、まさに沈没船から逃げ出す鼠。“機を見るに敏”なことでは抜群の舛添要一前厚労相は、早々と「新党旗揚げ」のアドバルーンを揚げ始めたし、もう自民党は分裂寸前だな。

マガ  はあん、舛添さんならやりかねないな。それにしても、なぜこんな状況になったんだろう?

ジン  結局は、利権と切れてしまったことが大きな原因だろうけど、党内の新陳代謝がまったく行われていないことも大きい。何しろ、この前の衆院選で落選した山崎拓元副総理(73歳)が参院選での返り咲きを狙って公認申請をしようとしているとか、すでに75歳という年齢にもかかわらず自民党参議院のボス青木幹雄議員が今年7月の参院選に出馬しようとしているとか、古株の実力者といわれた人たちが、いまだに議員の座にしがみつこうと必死だ。しかもそれを、大島理森自民党幹事長が拒否できない。大島幹事長自身も古い政治家だから当然だけどね。

マガ  自民党には確か、議員定年制というのがあったはずだと思うんだけど。

ジン  ああ、73歳を越えたら比例代表には立候補できない、という制度だね。この定年制を盾に、小泉元首相が2003年の衆院総選挙の際、中曽根康弘氏や宮沢喜一氏に引退を迫ったことは有名だ。でもね、これは一応、衆院選での約束事で、参院選にも適用するとは明確には書いていないんだ。そこで、古株さんたちがゾロゾロと蠢きだす。

マガ  うーん、そんなことをやっていると、自民党再生なんて当分無理だろうなあ。また青木さんや山崎さんが出てくるんじゃ、新しさなんて毛ほどもない。

ジン  そして致命的なのが、いまの自民党には政策立案能力が完全に欠如していることだ。民主党に対し、ひたすらスキャンダル絡みで批判するだけで、新生自民党のビジョンというのをまったく提示できない。民主党は、良かれ悪しかれマニフェストを前面に打ち出して選挙に挑んだ。ところが自民党は、その民主党マニフェストをけなすことに精一杯で、自らのビジョンを全然示せなかった。これじゃ勝負にならないよ。それに、政策立案能力を持った若手の候補者が、党内にはいまやほとんど見当たらない。数合わせだったことがバレちゃった例の“小泉チルドレン”なんか、政策を訴えるよりも土下座一辺倒の泣き落とし戦術だったものね。もうそんな時代じゃないのに。だから、以前は官僚などが政治家へ転進するのに、自民党から出馬するケースが多かったけれど、いまではそれもほとんどない。みんな民主党へ流れている。さらにさらに、利権がらみの団体からのいわゆる“組織内候補”というのが、利権がなくなったために自民党からの出馬を断るケースが増えている。

マガ  政策立案能力が失われている。若い人材がいない。その人材の供給源だった官僚や組織にも見放された。古狸たちがいまだに力を持ち続けている。うーん、末期症状だね。でもそうすると、参院選でも民主党のひとり勝ち、平穏無事の政治情勢なんじゃないの?

ジン  それがそうでもない。問題は鳩山由紀夫首相だ。彼が果たしていつまで頑張れるか。なにしろ、「国民が私を支持しないということが明確になれば、私は総理の座にしがみつくつもりはない」と、はっきりと述べているくらいだし。

マガ  支持率は確かにジリジリと下がり続けているけど、じゃあ、鳩山退陣の可能性が強いというの?

ジン  5月がメドじゃないかな。特に、普天間基地問題がネックになると思う。鳩山首相は「5月には普天間問題をはっきりさせる。沖縄県民のみなさまとアメリカ政府双方にご理解いただけるような解決策を、私の責任で提案したいと思っている」と語っていたよね。

マガ  それが解決できないので、5月に退陣するということなの?

ジン  その可能性が小さいけれど、ある。5月段階で「普天間基地はやはり辺野古へ移設するしか方法がない」と鳩山首相が表明し、「それは民主党の公約にも違反することになるので、責任をとって私は辞任する」という筋書きも、一部ではささやかれている。

マガ  でも小沢一郎民主党幹事長でさえ「辺野古の美しい海を埋め立てることには反対だ」と、かなり明確に表明したじゃない。首相よりも実力があると言われている小沢幹事長の意志に逆らってまで、鳩山首相が辺野古移設を決められるの?

ジン  そこが両者の腹芸ともいわれる部分。つまり、あくまで世論の動き次第ということもあるけれど、もし5月段階で鳩山内閣支持率が30%を下回るようなことがあれば、これではとても7月の参院選挙は闘えない。鳩山首相に代わる顔を立てなければならない。なにしろ「選挙こそ我が命」の小沢幹事長にしてみれば、参院選で60議席以上を獲得し、参院でも単独過半数を確保したいというのが悲願なわけだ。だから、鳩山では闘えないとなれば、スパッと首をすげ替えようとするかもしれない。それは小沢という実力者ならできる。つまり、鳩山首相に責任をとらせるための伏線として、わざと小沢幹事長は「辺野古移設反対」を唱えているのではないか、という説だね。

マガ  沖縄県民の悲痛な願いである基地撤去さえ、そんな政治の道具に使おうというわけか。なんだかムカムカする。

ジン  そういう見方もある、ということだよ。

マガ  しかし、鳩山首相は、ほんとうに普天間を辺野古に移設させようとするんだろうか。

ジン  実は、そこがほんとうによく分からないところなんだ。別の見方では、鳩山首相は世間で思われているよりそうとうに頑固で、前からの持論である「常時駐留なき安保」論をいまも捨ててはいない、とも言われる。その実現のためには、どうしても普天間基地を県外海外に移したい。あわよくば、普天間基地自体を撤去させたいと思っている。だからメディアや野党にあれほどせっつかれても、グズグズしているように見せかけて、昨年は結論を出さなかった。その上で時間をかけてジワジワと国内世論を辺野古移設反対へ誘導し、さらにアメリカ側からもある種の焦りや諦めを誘い出し、なんとか別の地域への移設で合意させようとしている、それほどしたたかな部分を隠している。こんな解説してくれたジャーナリストもいるほどなんだ。

マガ  そこまで考えているとしたら、なかなか凄い政治家だけど。

ジン  まあ、そういうふうに見方はさまざまに分かれるけれど、辺野古移設を仕方なく認め、その上で、“憲法改正論義”に踏み込む状況を残したまま退陣する、というのが鳩山内閣最悪のシナリオだね。

マガ  そういえば、暮れの26日のラジオ番組で「憲法改正」に言及したらしいね。確かに、「マガジン9条」が昨年夏の総選挙直前に行った「民主党候補予定者への9条に関するアンケート調査」でも、鳩山首相は次のように回答していた。

<自衛の範囲を超えた武力行使や、国連決議によらない海外での武力行使を結果的に認めるような改憲には反対です。一方で、いくら9条を墨守してみても時々の内閣の都合で事実上の解釈改憲が進んでいます。政府が行う自衛権行使や国際協力について、国民が憲法の明文できちんと歯止めを設ける必要性が高まっています。自衛隊の「できないこと」を明確にするという観点であれば、条文を変えた方がより良くなる余地があると考えます。>

 かなり回りくどい言い回しだけど、事実上は自衛隊を明文化して認めようということなのかな。

ジン  そう、自衛隊の「できないこと」を書き込んで、「それ以外」は自衛隊の海外派兵なども認めよう、と読み取れるね。この点では、小沢幹事長の「国連決議があれば自衛隊の海外派兵を認める」という考え方と同じだといえる。先月26日のラジオ番組では、「国民の間で論議が分かれている9条については、今回は触れないが」という言い方をしていたが、どうも怪しげな雲行きだ。

マガ  今年の5月18日には例の「国民投票法」が施行される。憲法改定への道筋は、一応つけられたわけだ。昨年は、とにかく政権交代で大騒ぎになり、憲法問題はあまり話題にならなかったけれど、なんだかドサクサ紛れに改憲への布石が打たれているような気もするなあ。

ジン  うん。ちょっとみんな、政権交代劇で浮かれすぎていたね。民主党が、左右のごった煮政党であることは分かっている。ゴリゴリの改憲論者からリベラルの護憲派まで、とてもひとつの党とは思えないような連合体だ。その意味では、右翼からリベラルまでが混在していた自民党とあまり変わらない。その辺は、かなり厳しい目で監視していく必要があるよ。特に「マガジン9条」としては、今年が正念場になるかもしれない。

マガ  鳩山首相が言うように、最初は9条には手をつけず、まずあまり当たり障りのない条文から改定していく。それがいつの間にか“蟻の一穴”となって、気がついたら憲法本丸の9条までが丸裸にされていた、なんてことのないように、憲法関連のニュースには気を配っていかなくちゃいけないね。

ジン  できる限りそうしよう。知り合いのジャーナリストたちにも、情報提供をお願いしておくよ。

マガ  それにしても、やはり小沢幹事長の動向が焦点になるわけだよね。でも、彼の一言で政治が動いていく、というのはあまり気持ちのいい図じゃないなあ。

ジン  そうだね。例えば小沢幹事長宅で開かれた新年会には、なんと166人もの国会議員が詰めかけたという。“力の誇示”というしかない。でもね、当日取材に当たっていた知人の記者によれば、小沢邸前は騒然たる様相だったらしいよ。右翼の街宣車が喚きたてるし、外国人参政権反対を訴える団体のデモが押しかけたりして、警備の警官とかなり揉めていたということだ。

マガ  ははあ、豪腕小沢に対しては、右からの反発も強いということなんだろうね。例の“天皇の政治利用”騒動もあったしね。でも、そういうことがなぜ報道されないんだろう。やっぱりメディアも小沢幹事長の力の前に萎縮しているのかな。

ジン  そうは思いたくないけどね。憲法問題に関しても、小沢幹事長の動きが焦点になると思うし、メディアは政局だけではなく彼の考え方もきちんとフォローしていって欲しいな。

マガ  とにかく、今年は我々も、憲法問題にもっと目を凝らしていかなきゃね。

(放光院+α)

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