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「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第29回:そして、2009年も暮れていく

091223up

マガ  もうじき、2009年も終わりますねえ。

ジン  早いような、遅いような。それにしてもいろいろとあった年だったねえ。

マガ  じゃあ少しだけ、2009年を振り返ってみましょうか。とにかく政治がらみの話題が多かったような気がするけど。

ジン  テレビのワイドショーなんかでも、「政治ネタを扱うと視聴率が取れる。こんな現象は、あの小泉フィーバーに匹敵する」と、あるディレクターが言っていたほどだからね。それだけ「政権交代」というのはインパクトの強い出来事だったんだね。

マガ  でも、政治に関心が集まるのはいいことだと思うけど、果たしてメディアがその関心にきちんと対応するような報道をしてきたかどうかは、極めて疑問だと思うよ。一方では、あの、のりピー逮捕や押尾学薬物騒動(8月)のような、常軌を逸したとしか思えないメディアスクラムが、相変わらず見られたし。

ジン  ある事件があると、一斉に隊列を組んでその事件報道にマスコミが群がる。これをメディアスクラムというんだけど、芸能人薬物事件はその典型だったね。

マガ  埼玉や鳥取で詐欺容疑で逮捕された女性の周辺で、数人の男性が死亡しているという疑惑についての報道がそれに続いた。逮捕要件の詐欺事件とは関係のない“別件報道”だよ。何度批判されても、マスコミの体質は変わらないみたい。

ジン  しかし、政治報道が事件報道よりも視聴率が取れる、という現象も起きた。政治はまず、アメリカのオバマ政権発足(1月)から動き出したね。これはもちろん米国内だけではなく、日本も含めた世界に影響を及ぼす政権交代だった。

マガ  そのオバマ大統領が、チェコのプラハで画期的な「核廃絶演説」(4月5日)を行った。これで、一気に核兵器削減の機運が盛り上がった。しかも「核兵器を使用した唯一の国家としての責任」にまで言及したのだから、被爆国日本としても、大いに期待したわけだ。しかし、その後の道のりはなかなかに険しい。ロシアとの「核兵器削減交渉」も行き詰って、ついには越年することになってしまった。まあ、そう簡単にできるとは思えないけど、「核なき世界」の希望だけは持ち続けていきたいね。

ジン  そのオバマ大統領へのノーベル平和賞授賞が、大きな波紋を呼んだね。残念ながら、もろ手を挙げて喜べるような状況じゃなかった。ノルウェーのオスロで行われた授賞式でのオバマ演説(12月10日)では、プラハ演説とは違ってブーイングさえ起きた。

マガ  それは仕方ない。だって、アフガニスタンへ3万人の兵力増派を決めた直後の演説だったんだもの。いくらオバマ大統領とはいえ「平和のための武力行使」というのは、どう考えても論理破綻だよ。

ジン  日本でも政治は大変動。西松建設からの献金問題をめぐって、小沢一郎民主党代表が辞任(5月11日)。これで民主党人気にも翳りが出るかと思われたけれど、今後の政治状況を占う選挙といわれた東京都議選(7月12日)では、石原慎太郎都政を支えてきた与党の自民公明が惨敗。これで、夏の衆院選も自民公明の与党の敗色濃し、との予測が乱れ飛ぶようになった。

マガ  なにしろ、自民党のひどさはちょっと形容しようがないほどだったものね。安倍晋三、福田康夫、麻生太郎と選挙の洗礼を受けない首相が3代続いた。

ジン  しかも安倍、福田両首相はよく分からない理由で政権を投げ出してしまった。さらに、後を継いだ麻生首相のひどさは、もう笑い者にされるほど。これほど国民から馬鹿にされた首相も、かなり珍しい。女性スキャンダルであっという間に辞任した宇野宗佑元首相(1989年)以来じゃないかな。

マガ  たしかに、漢字が読めないの、漫画しか本は読まないの、空気が読めないの、失言が多いの、言うことがクルクル変わるの、ブレまくり首相だの、まあいろいろ言われたものなあ。

ジン  その結果、衆院選では民主党が地滑り的大勝利(8月30日)。自民党はほぼ50年ぶりに(細川護煕連立内閣、羽田孜内閣=1993年~94年を除いて)政権の座から転げ落ちた。そして、鳩山由紀夫内閣が誕生したわけだ。確かにこれは画期的な政治的動乱だったといっていい。

マガ  そこで大敗北した自民党は、麻生氏に代わって谷垣禎一氏が党総裁に就任した(9月28日)。総理大臣ではない自民党総裁は、河野洋平前衆院議長以来2人目ということになる。でもこの人もいまひとつ目立たない。自転車事故で顔面に怪我(11月15日)というのがやっとニュースになったくらい(苦笑)かな。

ジン  連立与党だった公明党も衆院選では大惨敗(8月30日)。何しろ太田昭宏代表を含めて8人の小選挙区候補が全員落選。それを受けて太田氏に代わり、山口那津男氏が党代表に就任した(9月8日)。このとき、敗北の責任をめぐって、党大会はかなり荒れたというね。特に、支持母体の創価学会から「福祉と平和の公明党の基本理念はどこへ行ったのか。自民党べったりの政策が公明党を崩壊させたのだ」という激しい批判が飛び出した。自民党もそうだけど、公明党も再建はかなり厳しい道になるだろうね。そういう批判を受けて、公明党は自民党を見限ったようだ。「連立野党などということはありえない」というわけだね。そうなると、自民党の再建はもっと厳しくなる。創価学会票が期待できないとすれば、単独で当選できる自民党議員はかなり少ない。しかも党内では森喜朗元首相や町村信孝元外相、伊吹文明元財務相といった古い体質の派閥領袖たちが、いまだにのさばっているし、さらに衆院選敗北の戦犯ともいえる安倍元首相や麻生前首相などが、今も会議をリードしているような状況では、国民からそっぽを向かれるのは当然だと思うよ。

マガ  その自民党の人気回復策が、小泉進次郎氏の自衛隊横須賀基地見学ツアー(12月13日)というんじゃ、なんだか情けなくなる。

ジン  しかし、舛添要一前厚労相が落選議員らを集めて「舛添要一政治塾」なるものを開いて(12月14日)基盤固めを目指すなど、新しい動きも出てきている。それにしても、目立つのが舛添氏、石破茂氏、小池百合子氏くらいしかいない。そこへ持ってきて、今度は田村耕太郎参院議員(鳥取)が自民党を離党した(12月18日)。まったく泣きっ面に蜂だね。自民党を離党しようとしている若手議員はまだいる。具体的な名前も2、3人挙がっているからね。

マガ  難破船を逃げ出す鼠みたい。でも田村議員は離党して民主党に鞍替えするわけ?

ジン  いや、いくらなんでも民主党も、すんなりとは受け入れないだろうね。実は鳥取選挙区ではすでに、民主党参院選候補者が決定済みなんだ。医師の小谷真理氏(31歳)といって、故・坂野重信元自治相のお孫さんで自民党議員の係累。しかも祖父の名前を利用するために、選挙活動は「坂野真理」で行っている。そういう意味では、民主党もなりふり構わぬありさまだね。だから田村耕太郎議員がいくら民主党に鞍替えしたいと言っても、おいそれとは民主党も認めるわけにはいかない。しかし連立を組む社民党の動向次第では、どうなるか分からない。参院ではあと1名あれば、民主・国民の連立で過半数に達する。普天間問題などで社民党との間がギクシャクすれば、民主党は自民党離党組を受け入れて、社民党との連立解消に向かう可能性もないわけではない。田村氏を筆頭に、数人の自民党離党者が出てくれば、小沢幹事長は候補者の見直しを含めて、参院選の戦略を立て直すことだって考えるだろう。なにしろ選挙に勝つことによって、自分の存在意義を高めようとしているのが小沢さんなんだから。

マガ  確かに、小沢幹事長の選挙戦略って、凄いらしいね。だからみんな、小沢さんには頭が上がらない。

ジン  二重権力といわれる所以だ。お陰で鳩山首相の指導力が問われ、支持率はこのところ下降気味。12月21日に発表された各社の世論調査では、軒並み10%前後の急降下。中には50%を割り込む調査も出てきている。

マガ  その大きな理由のひとつに普天間基地問題があるね。でも、そこだけは社民党としても譲れない一線だろうし。

ジン  しかし、このコラムでも何度も指摘してきたけれど、メディアの報道姿勢は、私はやっぱりおかしいと思う。各マスコミは、相変わらずこんな調子だ。

<アメリカが激怒している>
<このままでは普天間基地は動かない。普天間周辺住民の苦しみを放置しておいていいのか>
<辺野古へ移転しなければ、米海兵隊のグアム移転さえダメになってしまうが、それでもいいのか>
<米軍がいなくなったら日本の安全は誰が守るのか>
<日米同盟が危機的状況だ>

マガ  アメリカが怒っているって、いったい誰の話か、という疑問もある。

ジン  その通りだね。「怒っている」というのは、旧ブッシュ政権のメンバーだった人たちや、在日米大使、軍人など、“そう言わざるを得ない立場の人たち”がほとんどだよ。

マガ  そういう報道もほんの少しだけど、ようやく出始めたね。

ジン  先週も言ったけれど、「日米同盟」とはまさに軍事同盟なんだ。報道の中身はそれを疑いもせずに全肯定して、「アメリカとの軍事同盟を強化せよ」と言っているに等しい。日本はいつ、軍事同盟を結んだのか。日米安全保障条約は、来年50周年を迎える。それを機に、安保の中身を徹底的に検討して、特に軍事部分の検証をするべきだと思う。

マガ  でも日本では、「北朝鮮の核やミサイルの脅威に対し、アメリカの抑止力は絶対に必要だ」と言う意見も強いよ。

ジン  確かにそれも日本の“アメリカ頼み”の理由のひとつになっている。ところがロイター通信によれば、こんな情報もある(12月18日)。

<韓国の聯合ニュースは18日、オバマ大統領が北朝鮮との緊張緩和に向け、北朝鮮に米国の連絡事務所を来年設立することを提案したと報じた。
聯合ニュースは北京の外交筋の話として、同提案は、米国のボスワース北朝鮮政策担当特別代表が前週平壌を訪問した際に、北朝鮮の金正日総書記に手渡した書簡に記されていたと伝えた。
書簡で、オバマ大統領は北朝鮮が数カ月以内に6カ国協議に復帰した場合、連絡事務所を設立する可能性があると伝えたという。>


 これはかなり大きな問題になるよ。つまり、日本政府が拉致問題で「家族会(正式名称・北朝鮮による拉致被害者家族連絡会)」や「救う会(正式名称・北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)」の意向に寄り添うことで、北朝鮮制裁一辺倒の政策を採り続けている間に、実はアメリカは「北朝鮮との国交回復」までを視野に入れた政策へ方針転換していたわけだ。

マガ  それもやはり、ブッシュからオバマへの政権交代による政策転換の一環なんだろうね。

ジン  いや、ブッシュだって「悪の枢軸」指定から北朝鮮を外して、国交回復を目指そうとしていた。日本だけが、拉致問題はあるにしても、とにかく制裁一点張りできたんだ。ところが、日本の頭越しにアメリカは北朝鮮政策を転換し始めている。それなのに日本が「アメリカの軍事抑止力に期待し続ける」だけでいいのか。北朝鮮はこれまで、日米を最大の敵としてきた。ところがそのうちのアメリカと交渉を再開する。そうなれば、取り残されるのは日本だ。いかにアメリカに頼ろうとしても、アメリカは梯子を外してしまう。米朝間がうまくいけば、沖縄の米軍基地も「対北朝鮮前線基地」としての役割はなくなる。普天間基地の辺野古移設は、その理由のひとつを確実に失うことになる。

マガ  メディアはなぜ、そのあたりをきちんと指摘しないのかなあ。

ジン  本当にそうだな。ただ、拉致問題については、ようやく反省の動きも出てきたようだ。拉致問題をまるで黄門様の印籠のように扱って、北朝鮮との交渉を絶対悪と決めつけることが、日本外交にも悪影響を与えてきた、ということに、疑問を投げかける言説が少しだけど見えてきた。

マガ  蓮池透さんなどが、かなり覚悟を決めて話し始めているよね。『拉致 左右の垣根を超えた闘いへ』『拉致2』(かもがわ出版)では、なぜ自分の考えが変わったのかを、とても分かりやすく真摯に語っている。けっこう感動したな、僕は。

ジン  それに『世界』(岩波書店)では、2010年1月号からジャーナリストの青木理さんが「家族会と救う会の12年」という連載を始めた。このふたつの組織がどういう経緯で生まれ、日本の政治や社会にどんな影響を与えてきたかを克明に追うという。まだ1回目だけど、期待できるルポルタージュになると思う。

マガ  その北朝鮮のお隣り韓国では、盧武鉉前大統領が自殺(5月23日)したね。親族の汚職事件などに悩み、自らの政治責任をとったと言われているけど痛ましいことだった。また、政治家の死ということでは、日本では中川昭一元農水相が突然死した(10月3日)。あの酩酊会見が尾を引いて衆院選で落選した後の、失意の死ともいえる。これもなんだか痛ましいなあ。

ジン  そのほか、中国ウイグル自治区での暴動(7月)、アフガンでカルザイ大統領が再選確定(11月)、そしてそのアフガンへの米兵3万人増派をオバマ大統領が言明(12月1日)と、きな臭いニュースもあとを絶たない。

マガ  大国のエゴと途上国の反発が絡み合ったCOP15(12月7日~18日)も、なんだか後味の悪い幕切れだった。

ジン  ほかの話題も豊富だったよ。例えば、裁判員制度が東京地裁で始まったし(8月4日)、蓮舫議員の「第2位じゃどうしてダメなんですか」がやたら目立った「事業仕分け」(11月)も大きな話題になったな。

マガ  大騒ぎのわりには尻つぼみの新型インフルエンザ(春以降)や、高速道路休日千円(3月~)で大渋滞なんてニュースもあった。少しホッとしたのは、足利事件の菅家利和さんが17年半ぶりに冤罪が晴れて釈放されたこと(6月4日)。冤罪の怖さを再確認させた事件だったね。

ジン  菅直人副首相が、ついに「デフレ宣言」をせざるを得なくなった(11月20日)。確かに我々庶民にとっては、物価が下がるのは大歓迎だが、これからこの国の経済をどうやって回復させるのか、どうも心許ない。亀井大臣は「もっとジャブジャブ金をばら撒け」と言うけれど、そのツケを後で我々が払わされるんじゃないかという怖れは消えないし。

マガ  個人的には、マイケル・ジャクソンの死(6月25日)がショックだったな。なんだか、まだ彼が死んだとは思えない。だって、映画は来るしアルバムは売れているし…。国内では森繁久弥さんが96歳で天寿をまっとうした(11月10日)。

ジン  もっと取り上げたい話題もあるけど、何はともあれ、こうして今年も暮れて行く。

マガ  来年もいい年でありますように。そして来年も、「マガジン9条」とこのコラムをどうぞよろしく。

(放光院+α)

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