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マガ オバマ大統領が、12月1日にアフガニスタンへの兵力増派を発表したね。でも、これでアフガン情勢が好転するとはとても思えない。むしろ、ベトナム戦争の再現じゃないかって気がするけど。
ジン なんとか情勢を安定させて、早くアフガンから手を引きたい、というオバマ大統領の“苦渋の選択”というやつだろうね。
マガ 3万4千人の増派で、アフガンの反政府勢力を駆逐し、安定化できるんだろうか?
ジン 現在約6万8千人の米兵がアフガンに派遣されているから、これで米軍は10万人を超える規模になる。10万人といえば凄い人数だけど、それでもタリバン勢力を完全に制圧するのは困難だろうな。とにかくオバマ大統領としては、この増派でアフガンの安定を図り、その上で一刻も早く安全に米軍をアフガンから撤退させたい意向なんだ。いわゆる「出口戦略」で、2011年7月から順次撤退を開始するという。
マガ そんなにうまくいくのかな。かつてソ連も、アフガンに数十万人の兵力を投入して、共産主義政権を維持しようとしたけど、結局、できなかったよね。
ジン 1978年~89年の10年間にもわたって、当時のソ連はアフガン内戦に介入したけど、ついに敗退した。それは、いわば“ソ連のベトナム戦争”だったんだ。しかしね、実はそのツケを、いまアメリカが払わされているとも言える。
マガ どういうこと?
ジン 1970年代といえば、時代はまだ冷戦の真っ最中だった。アメリカは、とにかくソ連に対抗する勢力には援助を惜しまなかった。つまり、反共産主義を掲げて戦う勢力に、陰に陽に軍事援助を行った。たとえばCIAなどがアフガンへ軍事顧問団を送り資金支援して、反ソ連勢力を手助けした。そこで鍛えられ軍事能力を身につけたのが、タリバンなど“ムジャヒディン(聖戦士)”を名乗ったイスラム教徒たちだった。
マガ つまり、いまアメリカが戦っている相手は、かつて自分たちの手で育てた勢力だということ?
ジン そう考えて間違いはない。しかし、アメリカは同時に北部の軍閥(地方ボスたちの組織)にも援助を行った。ソ連に反対さえすれば、思想などは問わなかったんだ。つまり「敵の敵は味方」という単純なリクツだ。それで力をつけた連中が群雄割拠、まるで日本の戦国時代のような状況を呈したわけだ。中央政府など形ばかりで、汚職や腐敗は当たり前、地方は好き勝手をし放題。これじゃ庶民の不満は高まるばかり。そこへ、イスラムの厳格な規範を守ろうとするイスラム神学校の生徒を中心にした組織のタリバンが台頭したんだ。だから、政府の腐敗や内戦にうんざりしていた庶民はこれを歓迎した。タリバンがアフガンの政権を握ったのも、ある意味で当然だったんだよ。
マガ それがアメリカの気に入らなかった…。
ジン アメリカは、というよりブッシュ政権は、とにかく「イスラムは悪」の一点張り。それは2001年の9.11同時多発テロ事件が引き金になったんだけど、その前にイラン革命(1979年、ホメイニ師を指導者としてパーレビ皇帝を追放した民衆革命)で痛い目にあった経験を持っていた。このときアメリカは腐敗した王制政府を支持していたのに、それを引っくり返されてしまって、イランに保有していたアメリカ企業の莫大な利権は、そっくりイランに国有化されてしまったんだ。その対立が、アメリカ大使館の占拠という事態を招いた。
マガ なるほど。そのイラン革命のときの恨みが、アメリカにはあったわけだ。
ジン そうだね。そして、9.11事件の主謀組織とされるアルカイダの指導者ビン・ラディンを匿ったとしてタリバン政権も同じ悪とみなし、ついにアフガンに攻め入った。タリバンとアルカイダとは思想的にまったく違うにもかかわらず、同じイスラムというだけでね。それが2001年10月7日に開始された「不朽の自由作戦=Operation Enduring Freedom」だった。
マガ 不朽の自由作戦か。凄い名前だな。自らを絶対的善と思い込むアメリカの傲慢さが見え隠れする。
ジン 今回のオバマ大統領のアフガンへの軍隊増派は、言ってみれば、このブッシュ大統領の一連の軍事政策の後始末をさせられているということになる。
マガ なんだか、自民党政権のさまざまなツケを支払わされている民主党政権に似ているような気もするなあ。
ジン うん、似ているかもしれないね。特に、沖縄普天間基地の辺野古移設問題なんかは、自民党のツケの典型だろうな。
マガ その普天間問題、なんか納得できないんだなあ。岡田外相は12月5日、「このままでは日米関係が最悪になる。辺野古以外の選択肢はきわめて難しい」と記者会見で語った。その一方で、「アメリカの政策に協力し、アフガン安定のために50億ドル(約4500億円)を拠出する」と表明してもいる。どうして、こうもアメリカの意向に従わなければいけないんだろう。「普天間問題で、もしアメリカが辺野古に固執するなら、アフガンへの拠出金については再検討せざるを得ない。それが日本国民の、少なくとも衆院選挙で示された民意なのだから」くらいの発言はあってしかるべきじゃないの。
ジン 私もそう思う。「出せと要求された金は出す。しかしこちらの要望は先方には強く言えない」というのでは、何のための外交か、という気がするよね。
マガ
だってさ、メディアさえ怯えている気配だもの。たとえば、12月5日の各新聞の普天間問題についての見出しが情けない。
<毎日新聞 米反発、強い圧力 「首相指示」混乱に拍車
朝日新聞 米、いらだち隠さず 「このままなら、状況さらに困難」
読売新聞 不誠実なじる米大使
産経新聞 米大使一変、激怒 >
これは、普天間問題に関する日米作業部会(12月4日)におけるアメリカのルース駐日米大使らの様子を伝える見出しだけど、どれも、日本が兄貴に叱られている不肖の弟みたいじゃないか。ルース大使が日本側の出席者を怒鳴りつけた、なんて噂も出ているけど、それじゃまるで日本はアメリカの51番目の州みたい。
ジン まったく。ルース大使は、社民党の辺野古移設反対意見について「社民党と日米同盟のどちらが大切なのか!」と日本側に迫ったともいわれている。こうなると、もう内政干渉だ。
マガ だいたいが、アメリカ側は大使級なのに日本側は外相と防衛相。そういう噂どおりだとすると、日本の大臣がアメリカの大使に怒鳴られたってことになる。
ジン まさにそう。外交の常識から言ってもおかしいよ。大新聞が、なぜもっと日本の立場を主張しないのか、まったくもって理解できないな。前にもこのコラムで話したけれど、なぜ代替案をメディア自体が検証しないのか。
マガ まるで、アメリカ側の言い分を伝えるのがメディアの使命でもあるかのようだよね。
ジン
しかしここにきて、メディア自体ではなく個人からではあるけど、かなりさまざまな代替案が語られ始めている。先週も触れた関西国際空港案などは、むろん、周辺住民の方々の意見をきちんと聞くべきだとは思うけど、検討してもいいと思う。また個人的意見として、作家の池澤夏樹さんは「無人島に移設しては」と独自の提案をしている(朝日新聞12月5日付)。
<(略)ぼくが挙げた候補地は鹿児島県の馬毛島である。種子島の西十二㌔のところにある無人島で、その理由は以下のとおり―
1 普天間飛行場の一・七五倍の広さ、地形が平坦で、三千㍍級の滑走路がすぐにも造れる。埋め立て不要。
2 島の形に合わせれば滑走路は南北方向になる。離着陸の飛行機は種子島の上は飛ばない。
3 横方向に十二㌔離れているから騒音は深刻な問題にならない。
4 島であって、兵士と住民との接触がない。
5 嘉手納と岩国のどちらからも輸送機で一時間の距離にある。米軍にとっては魅力的なはず。
6 ほぼ無人島で、ほとんど一私企業の所有で、交渉が容易。(後略)>
むろん池澤さんは、「地元の人たちは当然反対だろうし、提案する自分もいい気持ちはしない」と断っている。けれど、こういう案さえ真剣に検討された形跡がないことに怒っているんだ。そして最後に「無人島であれば墜ちても海の中、というのははたして暴論か」と結んでいる。
マガ 沖縄に10年も住んだことのある池澤さんだけに、怒りも説得力も感じられるね。そういえば池澤さんの近著『カデナ』(新潮社刊)は、沖縄の嘉手納基地が主要舞台になっている小説で、すごく面白かった。
ジン この「マガジン9条」でコラムを連載している岡留安則さんがずっと主張しているように、硫黄島案だってかなり有力だし、君が話してくれた日本全国の使われていないローカル飛行場案だって、検討に値すると思うよ。ローカル空港案としては、佐賀空港案なんていうのも一部から出てきているしね。
マガ 個人がいろいろと考え、提案しているのに、なぜ大マスコミは自前で代替案を提起しないのかね。先週のこのコラムで触れたけど、毎日新聞は「調査報道こそがこれからのメディアの使命だ」と言っていたよね。にもかかわらず、それをしないでアメリカ側の反応ばかりを気にして伝えるようでは、自ら墓穴を掘っているとしか言いようがない。読者離れを心配するより先に、まず自分の報道姿勢を正せ、と言いたくなるね。
ジン
個人の訴えとしては、たとえば『週刊朝日』(12月11日号)に、なかなかの記事が出ていた。沖縄現地の伊波洋一宜野湾市長の主張だ。
「海兵隊は辺野古ではなくグアムへ返せる! 普天間基地返還~在日米軍撤退のシナリオ~」とタイトルされた記事だが、かなり突っ込んでいる。要約すると次のようになる。
<(要約)普天間基地の地元・宜野湾市の伊波洋一市長が米軍資料を当たったところ、米軍は事実上、グアムを海兵隊の拠点にする計画を進めていることが判明した。日米両政府はこれまで「グアム移転の海兵隊は司令部中心」と言明してきたが、それは嘘だった。
米太平洋軍司令部は06年7月に「グアム統合軍事開発計画」を策定。その中で「海兵隊航空部隊とともに移転する最大67機の回転翼機と9機の特別作戦機オスプレイ用格納庫の建設、ヘリコプターのランプスペースと離着陸用パッドの建設」と明記していた。普天間基地ヘリ部隊のグアム移転を事実上決めていたことになる。
さらに伊波市長は、07年にグアム・アンダーセン空軍基地とグアム統合計画室を訪問したが、その際、「65機~70機の航空機と1500名の海兵隊航空戦闘部隊員が来る予定」との説明を受けたという。つまり、グアム移転は司令部だけではなく、実際の戦闘部隊が中心だったことは明白なのだ。この伊波市長の指摘に対し、日本政府は「計画段階で確定情報ではない」と繰り返してきた。
しかし今年11月20日、米海軍省グアム統合計画室は「グアムと北マリアナ諸島の軍移転」に関する環境影響評価書を発表。この文書の中に、普天間基地の海兵隊ヘリ部隊受け入れのためのグアム新基地建設が明確に記されていた。つまり、これはもはや“計画”ではなく“建設確定”のための評価書だったことが判明したのだ。>
そのほかにも、この記事は防衛担当記者の話として、いろいろな事情を指摘している。
「アメリカ側からすれば、日本が辺野古に基地をつくってくれるというのに断る理由はない。海兵隊がグアムに移れば陸軍がそのまま辺野古を使えるわけだから。思いやり予算がついている新基地を手放すのは米側としてはもったいないだけ」
「普天間の海兵隊戦闘部隊は、オーストラリア、タイ、グアムなどで訓練しており、1年の半分は普天間を空けている。海兵隊が沖縄にいる必然性は、もはや失われている」
また米海兵隊司令官コンウェイ大将は、米上院での証言で、
「グアム移転は、即応能力を備えて前方展開態勢を持つ海兵隊戦力を実現し、今後50年間にわたって太平洋における米国の国益に貢献する」として、沖縄を手放しても抑止力は高められると、グアム移転を評価したというんだ。これらから考えても、グアム移転になんの問題もない。本来ならば、このグアム移転が日米両政府の当然の責務のはずなんだ。これ以上、沖縄県民に負担をかけてはいけない、と考えるならね。
マガ 結局、「思いやり予算で経費がかからない沖縄基地を、わざわざ自前の経費がかかるところへ移転させることはない」という、アメリカ側に都合のいい話でしかないわけだね。
ジン それに、私があるジャーナリストに聞いた話では、グアムでは実際に、新基地建設予定地の周辺で、交通量調査や付近の環境調査を行い始めているという。つまり、アメリカにとって普天間基地機能のグアム移設は、実は既定のことだったんだ。でも、せっかく辺野古に新しい基地を造ってくれるというのを、別に断る必要はない。それはそれで確保しておこう、ということだよ。
マガ そこまで足もとを見られているのか。もはや、安全保障とか日米同盟強化とかいう次元の問題じゃなくなっているみたいだね。
ジン
最後に、沖縄からのこんな意見を紹介しておこう。琉球大学教授の我部政明さんが朝日新聞(12月4日付)で次のように語っている。
<(略)在日米海兵隊は、なぜ必要なのか。日本を守るため、と言うのが自民党政府の論理であり、基地提供の理由だった。だが、イラク戦争のとき、沖縄の海兵隊の中核は現地の激戦地に投入された。在日米軍が日本を防衛しているとは言い難い。(略)
(沖縄の米軍基地は)本当に東アジアの安定に役立っているのか。在日米軍のすべてが不要だとは言わないが、海兵隊の緊急展開が必要となる事態は考えられない。圧倒的な海空軍を持つ米国に戦争を仕掛ける国があるとは思えず、テロ防止はむしろ警察力などの対応が重要だ。
冷戦時代とは違い、今日、いつ戦争を開始するかは米国が決める。湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争しかりだ。(略)
名護市辺野古での代替基地建設が安全保障に不可欠だとは考えられず、地元で余計な摩擦を起すばかりだ。海兵隊全体をハワイ、グアムまで後退させた方が、米国にとっても合理的だ。全体を移すための費用ならば、日本が協力することも選択肢としてあっていい。普天間が滞れば海兵隊のグアム移転も進められない、という日米両政府の言い方は理解しがたい。(略)
米国は、日本に基地を置くことで日本の国内政治に介入し、間接的に発言力を高めている。つまり基地は軍事的資産でもあるが、圧力をかける政治的資産としての意味が大きい。それゆえ国民が「対等感」を持てないのだ。今からでも海兵隊の沖縄駐留に何の意味があるのか本気で論議する方が、日米同盟の「深化」につながるだろう。(略)
たとえ基地は建設できたとしても、13年に及ぶ混迷の記憶は、本土、沖縄、アメリカの三者の関係に癒しがたい傷を残すだろう。>
ちょっと引用が長くなってしまったけど、ここに普天間問題の基本的な回答が示されていると思う。
マガ それにしても、対等な日米関係、外交交渉というのは、本当に難しい。これまでの自民党政府が、とにかくアメリカの言うことを聞いておけばすべて丸く収まる、という姿勢で逃げてきたのも、なんだか分かるような気がするなあ。もちろん、それではいけないけど。
ジン 私は、「軍事同盟」である「日米同盟」をそのまま肯定する気はまったくないけれど、もしそれが日米関係の本質だとするなら、普天間問題はその見直しの好機だ。鳩山首相は「常時駐留なき日米安保」が持論だったはず。段階的にでも構わないが、米軍基地の縮小・閉鎖を粘り強く交渉していって欲しいと強く思う。繰り返すけど、普天間問題はその絶好の機会なんだから。
マガ うん。そうすれば「安保条約」が、やがて「平和条約」へ変わっていく可能性だってあるわけだものね。
(放光院+α)
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