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マガ 毎日のように、いろんな政治ニュースが伝えられるけど、内閣機密費というのには呆れたね。
ジン ああ、総選挙のわずか2日後に、自民党政府の河村建夫官房長官が、2億5千万の機密費を請求していたって話だろ? 選挙で大敗北、もうすぐ政権の座を去るのが確実な政府が、たった数日間で2億5千万円を使い切ってしまったわけだ。
マガ 選挙資金の後始末に使ったのではないか、と言われているよね。もしそうだとすれば、我々の税金が自民党という特定の党派のために、勝手に使われたことになる。許せないよな、それは。
ジン 使い道を明らかにしない金だから、ほんとうのことは分からないけど、そう考えるのが順当だと思う。それにしても、ひどい話だ。まさに“火事場泥棒”と言うしかないね。政治の動きや情報絡みで秘密にしなければならない支出もあるだろうけど、せめてこの最後の2億5千万円だけは、使途を明らかにして欲しいよね。でも、無理だろうなあ。民主党政府だって、平野官房長官は「明らかにするつもりはない」と、あっさり自らの公約を破っているんだから。
マガ “政治は闇”というイメージを、民主党政権が少しは打破してくれるかと思ったけど、やっぱりダメか。でも、機密といえば、岡田外相がこだわっていた「日米核密約」が、ようやく明るみに出ようとしている。これはいいことだと思うよ。
ジン 来年の2月ぐらいまでには、日本への核兵器持込みを政府が認めた経緯をはっきりさせると、岡田外相は言っているね。これと同じように、内閣機密費も、せめて10年後には情報開示する、というくらいの決断を鳩山首相は下せないものかね。なんと言っても、情報開示こそ民主主義の基本なんだからね。
マガ 核といえば、僕にはとても気になっていることがあるんだ。日本の核利用、つまり原子力発電所のことなんだけど。
ジン そうか、きみは原発のことをずっと気にかけていたんだったね。
マガ 少し前(11月5日)の話になるけど、とうとう日本で初の商業用プルサーマル原子炉の試運転が、佐賀県の九州電力玄海原発で始まってしまった。プルサーマルの危険性は、これまでずいぶんと指摘されてきたけど、とうとう踏み切ってしまったわけだ。しかもこれから、四国電力伊方原発、中部電力浜岡原発、関西電力高浜原発などで、続々とプルサーマル運転が始められる予定だという。東海大地震の震源地の真上にあるといわれている浜岡原発でも、こんな危険な運転をやるというんだから、とうてい正気の沙汰とは思えない。
ジン プルサーマルって、使用済み核燃料から出てくるプルトニウムの再利用のために考えられたんだったね。
マガ そう。プルトニウムというのは、自然界にはほとんど存在しない物質だけど、原発運転によって発生する。地球上で最強最悪の猛毒放射性物質で、スプーン1杯で数万人の人間を殺すことができる、と言われているほどなんだ。当然のことながら、電力会社や政府の原子力委員会などは、「プルトニウムの毒性はそんなに強くないし、その放射線は紙一枚でも防げる」などという新聞広告まで出して、躍起になって猛毒説を否定しているけど、その科学的根拠についてはあまり明確ではない。なぜなら、これを人体実験できるはずもないし、その毒性の強さのために、動物実験だって行われたことはない。広島長崎のデータや、核兵器保有国での実験や事故で得られたはずのプルトニウムに関する情報も、ほとんどが秘匿されているわけだから、実は「猛毒説」も「否定説」も、水掛け論になっている部分はある。
ジン そのプルトニウムを、どう使うというの?
マガ プルトニウムをウランと混合させてMOX燃料というものを作り、それを原発で再利用する。軽水炉原発のことをサーマルリアクターというんだけど、プルサーマルというのは、プルトニウムとサーマルを組み合わせて造語した和製英語なんだ。これは、普通のウラン燃料よりもずっと制御が難しい。だから、「プルサーマルの制御技術がいまだに完全じゃない、危険性は払拭されていない」と指摘する専門家は数多いし、反対運動も根強いんだ。実は電力会社も、プルサーマル運転にはあまり乗り気じゃない、というのが本音らしい。コストはすごく高くつくし、危険性も完全には払拭できていないとすれば、乗り気じゃなくなるのは当たり前だよ。
ジン じゃあ、なぜそんな危ないMOX燃料を、わざわざ作ってまで使おうとするわけ?
マガ それが原発の難しさなんだ。原発は「原子力の平和利用」と言われているよね。確かに発電ということに限って言えば平和利用だ。しかし、原発には恐るべき副産物がある。それがプルトニウムで、核兵器の材料に使われる。イランや北朝鮮の原子炉が危険視されるのは、実はこのためなんだよ。原発を運転し続ければ、否応なく、この核兵器の原料が産み出され、蓄積されていく。日本には現在、30~50トンのプルトニウムがあると言われている。
ジン だいたい、その30~50トン、というのがおかしい。なんできちんとした蓄積量が分からないんだ? そんな危険なものの量の情報を、電力会社や政府は明らかにしていないの?
マガ 以前にもこのコラムで説明したように、青森の六ヶ所村の再処理工場は、トラブル続きでいまだに稼動できていない。そこで、プルトニウムの処理は国外へ委託せざるを得ない。それらを日本に現在ある量にいれて数えるかどうか、そのあたりのことからも、量の表現が変わってくるんだ。それに、どうも各原発が自分のところに貯蔵しているプルトニウム量の情報が怪しい、と指摘する反原発団体の調査もあって、なかなかはっきりと示せないんだ。
ジン そんな基本的な情報が錯綜しているようでは、何を信じていいのか分からないな。
マガ 核爆弾はプルトニウム約8kgで1発、比較的小さかった長崎型であれば約4kgで作れるという。これを日本は5千発分以上も保有していることになる。世界各国から「日本は技術的には数カ月で核兵器を作れる。その原材料を数十トンも保有している。いつ核武装するか分からない国だ」と思われることをなんとしても避けたい。それには、プルトニウムを消費するしかない、ということになったわけだ。
ジン なるほど、原発の陰の部分だな。
マガ そういうこと。なにしろプルトニウムは、半減期(放射能の強さが半分に減るのに要する期間)が2万5千年ほどだという。つまり、ほぼ半永久的に放射能を出し続ける。そんなものを放置しておくわけにはいかないし、きちんとした保管方法さえ、まだ確立されていない。しかし、なんとかこれは減らさなければならない。そこで、ムリヤリにでもMOX燃料を作ってプルトニウムを使い、減らそうというわけだ。
ジン それで、実際に減らせるのかね。
マガ 実はね、プルトニウムは「高速増殖炉」というやつで使用しようという計画だったんだ。
ジン ああ、福井県の敦賀にある「もんじゅ」だっけ?
マガ そう。高速増殖炉はかつて「夢の原子炉」と呼ばれていた。なにしろ、使った以上のプルトニウムが生み出される原子炉だから、もうウラン燃料は要らなくなる、という触れ込みだったんだ。この「もんじゅ」は、1983年に建設に着工し1991年に試運転、そして1995年8月にようやく初の発電にこぎつけた。ところが、その年末には、冷却材に使用しているナトリウムが漏洩して大きな火災事故を引き起こし、それからもう14年間も停止したままなんだ。つまり、建設から25年以上も経つというのに、継続運転ができない状態が続いているってことになる。冷却材のナトリウム使用技術もかなり難しい。こういう事情で、実際の運転がいつ再開されるかはまだ分からない。反対の声は依然として強いしね。「もんじゅ」では使えないんだから、各原発で産み出されたプルトニウムは蓄積されるばかりで、どんどん増え続けている。そこで仕方なくMOX燃料を使用することで、なんとかプルトニウムを減らそうというわけなんだ。
ジン つまり、MOX燃料が優れているからではなく、プルトニウムを減らすために、プルサーマル発電が行われるということだね。
マガ そういうことになる。しかしね、これで使われるプルトニウムはごくわずか。減らせる効果は少ない。
ジン 例によってその場しのぎか。
マガ その上、プルサーマルそのものは、世界的にはほとんど見直しの時期に入っている。コストが予想していたよりも割高になり、とても商業ベースには乗らないということがはっきりしてきたからね。それに、繰り返すけれど、プルトニウムの危険性は指摘され続けているし、その制御技術が確定していないことで、先行していたヨーロッパ各国ではMOX燃料そのものから撤退し始めている。結局、日本は最後に残るプルサーマル発電国になってしまう可能性もある。
ジン うーん、一度決めたことは撤回しないという悪しき官僚主義が、原発行政にまで及んでいるということか。
マガ そう考えても間違いじゃないと思うよ。しかし、いつまでも同じ事を続けていられない。間違いが分かったら撤退する、という勇気を持たなければ、ある日、壊滅的な破局が襲ってこないとも限らない。だって、あの中越沖大地震で大きな打撃を受けた柏崎刈羽原発などでも、「あれは運がよかっただけ。近くに巨大な活断層があることは何度も指摘されている。一歩間違えれば原子炉本体の大破壊にもつながりかねなかった」と指摘する学者も多いんだ。そんな活断層の上の原発は、やはり停止するべきじゃないか。
ジン 浜岡原発も、その例だな。
マガ
それに、六ヶ所村の再処理工場近くにも、新たに巨大地震を引き起こしかねない活断層が存在するという指摘まで出てきた。ここはプルトニウムを扱う工場だから、もし大地震なんかが起こったら大変なことになるよ。それについては、こんな記事が毎日新聞(11月9日付)に載っていた。
<青森県六ヶ所村の日本原燃核燃料サイクル施設の直下に巨大地震を起す地下活断層が存在すると指摘している東洋大の渡辺満久教授(変動地形学)は、施設周辺2カ所で、活断層による地殻変動を示す地層を新たに発見したとの調査結果をまとめた。8日に同大学で開かれる日本活断層学会で報告する。
渡辺教授は10月中旬、使用済み核燃料再処理工場の北東約4.5キロで、露出した地層を調査。地表が2度、約10万年前の地層が1~3度、約12万~13万年前が2~6度、それぞれ東に傾いていた。この傾斜は年代が古いほど大きく、地震が何回も起きたと考えられるという。
地層はいずれも国の原発耐震指針が活断層として評価対象にしている「12万~13万年以内」に該当。渡辺教授は「工場の耐震評価に反映させるべきだ」と指摘している。>
こういう指摘は、柏崎刈羽原発や島根原発、浜岡原発などでも幾度となく繰り返された。しかしその都度、電力会社や国は、活断層の位置をずらして発表したり、断層の長さを過小評価したりして、なんとか国の基準をクリアさせてきたという経緯があるんだ。
ジン 一度建設を決定したら、何があっても計画変更はしないという官僚主義体質が、ここにもあるということだな。危険性よりも経済性よりも、まず計画実行が優先される。例の八ッ場ダムのケースと、まったく同じだな。
マガ 一度大事故が起きないと懲りない、ということなんだろうかね。起きてしまってからでは遅いというのに…。民主党は「官僚主義体制の打破」と「コンクリートから人へ」をキャッチフレーズにしている。そうであるなら、この原発行政に関しても、官僚主義的計画優先をやめ、人間優先の考え方で原発見直しを図ってもらいたいと思うんだ。
ジン うん、私も原発について、もっと勉強してみようと思う。
(放光院+α)
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