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「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第22回:普天間基地“移設”をめぐって

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マガ 先週の「マガジン9条」のトップページでも触れていたけど、沖縄普天間基地の辺野古移設についてのアメリカ側の主張は、少しばかり度が過ぎていると思わない?

ジン 確かに、このところのアメリカのゲーツ国防長官、キャンベル国務次官補、ルース駐日大使などの一連の発言は、私たち日本国民の感情を逆撫でしている。まるで植民地の宗主国みたいな横柄さだ。そして、それに対する日本政府側の対応は二転三転。結局、これまでの自民党政府の対米追従外交とどう違うのか、という疑問も出てきつつあるね。

マガ 民主党のマニフェストには「沖縄県民の要望に添った米軍基地の見直し」というような表現があったよね。つまりこれは、「地球上で最も危険な軍事基地」であるといわれる沖縄普天間基地の移転を念頭に置いた表現だったはず。

ジン そう。なにしろ普天間基地は宜野湾市のど真ん中にあって、周囲はびっしりと民家に囲まれている。その上空すれすれを毎日軍用ヘリが飛び回っているんだから、こんな危険な基地はない。確かに「世界一危険な軍事基地」と言われるのも分かるね。実際、普天間基地司令官デール・スミス大佐も「危険性は承知している。その上で、安全性には十分に留意している」とことあるごとに語っているほどだ。この基地の移転は、宜野湾市民のみならず沖縄県民全体の悲願と言っていい。

ヘリ墜落事故の不気味

マガこの基地の危険性を実証するような事故もあったよね。基地に隣接する沖縄国際大学の構内への、米軍ヘリコプター墜落事故。

ジン 2004年8月13日のことだね。このときには、現地のメディアの取材はおろか、沖縄県警の事故調査さえ米軍側は拒否して大学構内の事故現場周辺をテープで封鎖、立ち入りを一切禁止したんだ。事故現場封鎖は1週間にも及んだ。つまり、取材陣どころか大学の学生職員たちさえ、自分の大学のキャンパスの中の事故現場に近づくことを禁止されたんだ。それも、自国の警察にではなく、アメリカの兵士たちによってだよ。

マガ それじゃまるで、占領状態じゃないか。

ジン その上、さらに問題があった。事故調査に当たった米軍兵士たちは、黄色の防護服で厳重に装備していた。墜落したヘリが、まるで何か放射能を帯びた物質を運んでいたのではないか、と疑われるような光景だったという。事実、これは後日、メイン・ローターの安全装置(飛行翼検査システムIBIS)に「ストロンチウム90」という放射性物質が使用されていたことが明らかになった。こんな危険な放射性物質が、ヘリに使われているということにも驚くよな。この事故の生々しいドキュメントと、その背景を詳しく論じた衝撃的なノンフィクションがある。『沖国大がアメリカに占領された日』(黒澤亜里子編、青土社、1600円+税)という本だ。

<2004年8月13日、沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落した。米軍による不当な占拠、証拠隠滅、放射能汚染の実態……当事者たちによる迫真のドキュメントと検証によって浮かび上がった「7日間の真実」。黒焦げになった壁の保存運動から見えてきた、日常の細部を浸潤する巨大な暴力。米軍基地の75パーセントが集中する沖縄からの緊急報告。>

マガうん、その本はぜひ読んでみよう。このときは不幸中の幸いというか、死傷者は出なかったようだけど、これが市内の家屋密集地だったら大災害だったろうね。それにしても、大学構内に墜落しておいて、そこを1週間も封鎖してしまうなんて、やっぱり米軍の頭の中は、日本を植民地と同等としか考えていないみたいだ。

ジン アメリカ側は、当然、そんなことはないと主張するけれど、実際に起きた現象を見てみれば、そうとしか言えない。

“移設”を“人質”にとったアメリカ

マガ その基地を、名護市辺野古地区へ移転させようとしている。

ジン それが今回のアメリカ側の一連の発言なんだ。

マガ しかし、政権交代した日本政府はずっと「普天間基地は県外か国外への移転」ということを言ってきたはずじゃないか。

ジン 連立協議の場で、社民党が特に強くそれを求めた。最初はそこのところを曖昧な表現にしようとした民主党側も、結局は折れて、「米軍基地見直し」を連立合意事項に入れたわけだ。さすがに「普天間基地の県外海外移設」を明記するところまでは踏み込めなかったけど、これで沖縄の人たちは「普天間基地の辺野古移設はなくなるかもしれない」と大きな期待を抱くことになったわけだ。なにしろ、今回の衆院選では沖縄の全選挙区で「辺野古移設反対」の候補者が勝利。移設を認める自民党は、沖縄県ではひとりの議員もいなくなったんだから、沖縄県民の民意ははっきりしている。

マガ しかし、アメリカ側は強硬だね。「日米政府間で合意した普天間基地の辺野古移設は絶対に譲れない。もしそれを破棄した場合は、予定しているグアムへの、沖縄駐留の海兵隊の移転も白紙に戻す。それでもいいのか」と、これはもう恫喝としか言いようがないよね。しかも、その海兵隊グアム移転だって、日本は凄い費用負担を強いられているわけだろ?

ジン 沖縄には約12000人の海兵隊がいるとされているが、そのうち8000人がグアムへ移るという。その費用は約100億ドル。つまり約1兆円。うち6割を日本が負担するという取り決めになっている。たった8000人に6000億円だよ。日本はなんと気前のいい国か、呆れるよな。しかしね、アメリカは知ってのように膨大な経常赤字に苦しんでいる。このグアム移転費の4割負担が重荷になっているので、実はその費用まで日本に全額負担させたいと考えている、という話もある。

マガ つまり、ごねることで、日本にもっと多くの金を吐き出させよう、という魂胆かい?

ジン そういう見方もある。なにしろ、日本ほどアメリカに対して気前のいい国はない。例の「思いやり予算」のことは知っているだろ?

マガ ああ、あれだって頭にくる話だよね。

ジン 現在、直接的に日本が負担している米軍経費は約2200億円。ほかにさまざまな周辺住民対策費等を含めれば5000億円を上回るとも言われている。つまり、アメリカとしては日本にいる限り、少なくとも2000億円以上の軍事費が助かるわけだ。すべて日本が支払ってくれるんだから、こんなラクな駐留地は世界中にない。いつまでも居座っていたいわけだよ。かつてフィリピンは日本とは逆に、アメリカから基地使用料を徴収していたんだけど、フィリピン国内の反米感情の高まりを背景に、基地代の値上げをアメリカ側に迫ったところ、アメリカは1992年にフィリピンのスービック海軍基地(これは当時アジア最大)とクラーク空軍基地を閉鎖、撤退してしまった。「冷戦終了により、フィリピンにおける基地の重要性が薄らいだ」からだと、アメリカは説明したけどね。

マガ アメリカ側の説明が「冷戦終了で基地の重要性が薄らいだ」ということなら、同じことは沖縄の基地にだって言えるはず。特に中国の脅威が激減している現在なら、沖縄の基地の重要性だって、以前とは比べられないほど軽減されているはずじゃないか。

ジン そうだよな。南北が睨み合う韓国からさえも、アメリカ軍は撤退しようとしている。中国脅威論がなくなったのも理由のひとつに挙げられている。その韓国だって、米軍基地経費負担は日本の数十分の一と言われている。こう考えてくると、アメリカ軍が日本にいたがるわけが分かるだろう? 米軍基地の存在理由は、軍事的必要性よりも経済的側面のほうが強い、という意見にも納得がいく。

マガ そういえば、アメリカ軍関係者の高速道路料金まで日本が負担していた、というニュースもあったな。それも観光目的のレンタカー代やその高速料金まで含まれていたというから、ふざけるのもいい加減にしてほしい。そこまで至れり尽くせりで面倒見てくれるんだから、そりゃあ日本から出て行きたくないよな。

ジン それにね、この「思いやり予算」には、実は憲法違反の疑いもある。

マガ おお、ついには憲法違反まで飛び出したか。

ジン 米軍基地の中はひとつの美しい街。そこには映画館、プール、ボウリング場、アメフト競技場や野球場、体育館、コンビニと、もう何でも揃っている。まるで映画の中のセットのようなアメリカの街並みだ。

マガ それらの建設費もすべて日本側が負担しているわけだ。でも、それが憲法違反なの?

ジン いや、そんな娯楽施設を気前よく建ててやっていることも問題だけど、その中に欠かせない施設がある。教会だよ。日本国憲法第20条は、信教の自由と国の宗教活動を禁じる条項だけど、その第3項は「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と定めている。ところが日本政府防衛省は、国家予算を使ってキリスト教という特定の宗教のための教会を、各地の米軍基地内に造ってあげているわけだ。ね、これはどう解釈しても、憲法第20条違反だろう。

マガ なるほど、そうだね。

ジン とにかく、この米軍基地に関する情報はほとんどが闇の中。日本の防衛省だって知らされていないことのほうが多いという。それでも従来はアメリカの言うとおり、あまり中身を吟味することなく唯々諾々と従ってきたわけだ。ところが今回の政権交代で、鳩山首相は「これまではあまりにアメリカに頼りすぎていた面もある」として、対米追従一辺倒の政策に歯止めをかけそうな気配も出てきた。そこでアメリカ側は、早期にそんな日本の自立路線の芽を潰しておこうとしているわけだ。しかし、ゲーツ国防長官らの居丈高な強硬発言は、むしろ日本国民を目覚めさせてしまった可能性があるよ。このまま鳩山政権がアメリカの言いなりになるなら、国民の反発はそうとう強まるだろうな。そうなれば、鳩山政権にも大打撃となる。

マガ そうだよ。僕の周りでだって、「なんだ、あのアメリカの言い分は」なんて怒っている人間が多いもの。

なぜ“閉鎖”ではなく“移転”なのか?

ジン なぜそこまでして普天間基地が必要なのか、もう一度問い返さなければならない。この基地の存在理由を、アメリカ側は説得力ある形で沖縄県民や日本国民に説明したことがあるのか。なぜそれほどまでこのヘリ基地に固執するのか。なぜ最初に“移転”ありきで、“閉鎖”は議論の対象にならないのか。日本政府はその理由を明らかにして、我々日本国民を納得させたか。

マガ そう言われれば、「まず普天間基地をどこかへ移転させなければならない」とは耳タコだけど、「なぜ“閉鎖”ではなく“移転”なのか」の理由は一度も耳にしたことがないな。

ジン そうだろ? 普天間基地はさっき言ったように、米軍基地司令官さえその危険性を認めているような基地だ。そんな危険な基地なら、まず即時閉鎖から考える、ということが議論の出発点でなければおかしいだろう。それを移転先の選定などと絡ませるから、ややこしいことになるんだ。閉鎖論がなぜ出てこないのか。必要論が大前提では、結局アメリカの手のひらの上の議論になってしまう。さっきのフィリピンの例を考えれば、まず“閉鎖”というところから議論を始めたって、ちっともおかしいとは思えない。

マガ そうか、“基地閉鎖論”というのは気づかない発想だったな。僕自身もアメリカの勝手なリクツの上でものを考えさせられていたってことだな。発想の転換が必要だったんだ。

ジン もし大議論の上で“基地移転”ということに納得のいく結論が出たなら、そこから再出発したっていいじゃないか。

マガ その移転先についてだけど、こんなことを言ったら、めちゃくちゃ怒られるだろうけど、言ってもいいかな?

ジン おお、「いいとも!」だよ。

マガ JAL(日本航空)の再建問題でも明らかになったように、日本国内には「なんでこんなところに空港が?」っていうような、ほとんど使われていない空港がものすごくたくさんあるよね。特に、最近ムリヤリ開港した静岡空港なんか、赤字確実だと言われている。1日に1往復しか飛行機の離着陸がないなどという空港が、全国にたくさんあるという。どうしてもアメリカがヘリコプター基地を欲しがるなら、各地の“幽霊空港”へ分散移転させてあげるってのはどう? 静岡空港に20機、神戸空港に15機、茨城空港に10機…という具合。機数が少なきゃ騒音被害もそれほどじゃない。使い道のない空港に100人くらいずつの米兵や家族が常駐する。少人数なら犯罪も起こしづらいだろうから、治安面でもそう問題にはならない。どうですかね、この案は?

ジン うーん、バカバカしいような、素晴らしいような………。

(放光院+α)

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