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今週のキイ

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 安倍政権がグラグラ、末期症状に喘いでいる。

 柳沢厚労相の「女性は産む機械」発言の余波が収まらないというのに、今度は伊吹文科相が「人権メタボリック症候群」などと、まるで人権を無視せよといわんばかりの発言。
 野党に対して、どんどん追求の材料を提供している。いったい何を考えているのだろう、安倍内閣の閣僚たちは。

 さらに、中川自民党幹事長がまたもや「閣僚は首相にもっと絶対的忠誠心を持て」と繰り返す。まるで安倍首相を閣僚たちがないがしろにしていることを公的に認めるような言い回しを続けている。これには、さすがに安倍首相「どうぞ、ご自由に発言いただきたい」と、もう勝手にしろといわんばかりの不快感を表した。
 きわめつけは、郵政民営化に反対した落選議員の衛藤晟一氏の復党問題だ。衛藤氏は、安倍首相の仲良しグループの一員。だからどうあっても衛藤氏を自民党に復党させ、この夏の参院選に出馬させたいのが安倍首相の意向だ。
 これには、「絶対に復党は認めない」と言い続けてきた中川幹事長も大困惑。記者団に問い詰められてシドロモドロ。政府と与党との間のギクシャクぶりが、ますますあからさまになってきている。
 党内からは不平不満の嵐だ。舛添要一参議院議員などは「百害あって一利なし。参議院は衆議院で落ちた奴の姥捨て山じゃない!」と大激怒。
もう一貫性も何もあったもんじゃない。とにかく行き当たりばったりの思いつき。これほどひどい内閣も久しぶりである。

 朝日新聞、読売新聞に続いて、毎日新聞も世論調査結果を発表したが、それによると、安倍内閣の支持率は36%、不支持が41%と、ここでもまた支持不支持が逆転。支持率は危険水域の30%台に突入。特に目立ったのが、今まで比較的高かった女性の支持率が急速に下がってきたこと。
 何度も繰り返すようだが、もはや政権末期の様相そのものだ。


  しかし、そんな安倍内閣にも強力な応援団が存在する。
 今回は、その応援団を考えてみたい。

キィワード「財界」

 御手洗冨士夫経団連会長が、2月26日の記者会見で、次のようなことを言っている。
 「現在約40%の法人実効税率を、30%程度の水準にまで引き下げるよう求めているが、その財源として現在5%の消費税を2011年までに2%、15年までに3%ぐらい引き上げたい」
 法人税率を10%下げるには約4兆円以上の財源が必要になる。それを、消費税アップでまかなおうというわけだ。企業減税と庶民への消費税アップをセットでやろうということである。
 この10年間で、一般従業員の年収は3〜5%ほど落ち込んでいる。それに対し、役員報酬は約180%、株主配当にいたっては約3倍に増えているという。にもかかわらず、これから先、もっと会社の儲けを増やし、役員給与や株主配当を手づかみにしようというわけだ。
 これが、いわゆる「財界」のトップが目論むビジョン、「御手洗ビジョン」なのである。

 御手洗会長は、キャノンの会長でもある。そのキャノンが「偽装請負疑惑」で問題になっている。国会で、キャノンで働く派遣労働者がその勤務体系を告発したのだ。
それに関しての御手洗会長の発言もすごい。
 「派遣、請負の分野ができ、会社が一人一人に声をかけなくても大量に雇えるようになった」(朝日新聞2月27日付)
 自社の労働者派遣法違反に、まるで反省の色などない。とにかく非正規労働者を簡単に雇えるようになってありがたい、働く者の待遇などは省みるつもりもない、ということなのである。


 さて、この「偽装請負」とはどういうことか。
 「請負」とは、請負会社がメーカーなどから仕事の発注を受け、独立して仕事をこなしてメーカーへ納品する、というものだ。いわゆる下請け会社や孫請け会社などがこれにあたる。
 これに対し「派遣労働」とは、派遣会社からメーカーに派遣された労働者が、メーカーの社員の指揮下で仕事をするということ。
 ところが、キャノンでは、「請負」と偽って「派遣労働」と同じようにメーカーの指揮下で仕事をさせていたという。これでは使用者責任が不明確になり、労働者派遣法に違反することになる。本来なら、3年間同じ会社で派遣労働すれば、その人に対し雇った側は正社員への道を開かなくてはならない。しかし、「請負」であれば、請負会社の所属ということだから、メーカー側は正社員化への義務を負わずにすむ。
 だから、この請負と派遣労働が3年の間に交互に繰り返されれば、いつまで経ってもこの派遣労働者に正社員化への道は開けない。「3年間継続した派遣労働」に該当しないからだ。
 もちろん、給与は同じ労働をしていても、正社員の半分以下だ。このきわめて明確な違法行為が、キャノンでは長い間行われていたのだ。
 その実態を、キャノン宇都宮工場で働く大野秀之さんという方が、国会の予算委員会公聴会で証言した。その証言を知っていながら、御手洗会長は前記のような発言をしたのだ。


 しかも御手洗会長は、政府の経済財政諮問会議の委員でもある。財界の意志を、そのまま政策に反映させられるわけだ。結局、政府が財界の言いなりになっていると思われても仕方ない。政治献金という餌に、自民党は食らいついてしまっている。
 御手洗会長が安倍首相の熱烈な応援団になるのも、理解できる。思ったとおりに動いてくれるのだから、こんなに御しやすい首相もいないと思っているのだろう。

 「偽装請負」が、急増している。
 厚労省の発表によれば、「偽装請負」に絡んで人材会社など請負事業者を文書指導(違反があったということ)した件数は、06年4月〜12月のたった9ヶ月間で、05年度の616件に比べ、1403件と倍以上に増えていたという。
 法律の裏をくぐって違法な労働条件を押し付け、それによって史上空前の利益を得ている、というのが現在の「財界」のお偉方たちなのだ。

 かつて、このコラムで「御手洗氏が会長を退きキャノンと縁を切るまで、キャノン製品は買わない」と書いた。その気持ちは、最近のキャノンについての報道を見ていていっそう強くなっている。

 


 御手洗会長だけではない。もっと凄まじい人がいる。
奥谷禮子氏だ。彼女は、ザ・アールという人材派遣会社の社長
である。派遣労働で利益を上げている会社だ。
 「週刊ポスト」3月9日号が、詳しく奥谷氏のことを報じているので、その中から彼女の驚くべき発言を引用してみよう。

 「労働者を甘やかしすぎたと思います」(06年10月24日・厚労相の諮問機関・労働政策審議会の労働条件分科会での発言)
 「過労死を含めて、これは自己管理だと私は思います」(「週刊東洋経済」07年1月13日号)
 「祝日もいっさいなくすべきです。24時間365日を自主的に判断して、まとめて働いたらまとめて休むというように、個別に決めていく社会にかわっていくべきだと思いますよ」(同)
 「労働基準監督署も不要です。個別企業の労使が契約で決めていけばいいこと。『残業が多すぎる。不当だ』と思えば、労働者が訴えれば民法で済むこと」(同)
 「中高年の雇用維持と引き換えに、若者の新規採用を抑える構図になっているというわけである。これは横から眺めれば、親子で職の奪い合いをしている姿で、決して見栄えのいいものではない。親は子を思う生き物であれば、賃下げも解雇も涙を飲んで認めたらどうか」(「PHP ほんとうの時代」01年3月号)
失業者については、
 「あれこれとえり好みするところに発生する一種のぜいたく失業だと思う」(産経新聞02年1月31日付)

 どうですか?
 ムラムラと、はらわたが煮えくり返ってきませんか?


 過労死は自己責任だという。
誰が死ぬまで働きたいものか。そうせざるを得ないように追い込まれて、仕方なく長時間労働に耐えているだけではないか。
 不当だったら会社を訴えろ、と言う。
 しかし、リストラをしようと虎視眈々と狙っている企業を、社員が訴えることなど可能だろうか。すぐにリストラ対象者名簿のトップにリストアップされるだけではないか。できないことを百も承知で、弱い立場の労働者に一方的に責任を押し付けている。
 親子の職の奪い合いだって?
 親は子どものために死ね、と言っているに等しい。企業は、年齢の高い(給料が比較的高い)社員を切り、若い(給料の安い)社員に置き換え、それだけで経費節減を達成できる。一石二鳥である。経営者にとってはなんとも都合のいい理屈だ。
 ぜいたく失業、という言い方もひどすぎる。
 いわゆる「ワーキング・プア」の実態を知らないはずがない。知った上で、彼らの上前をはねておいて、こんなことを言う。あなたの会社の派遣労働者たちはどうなのかと、問い詰めてみたくなる。

 奥谷氏は、残業代ゼロ法案として大批判を浴びた例の「ホワイトカラー・エグゼンプション」のもっとも強硬な推進論者でもある。これらの発言から考えて、残業代を出したくない経営者たちからもてはやされるのは当然だ。「財界のマドンナ」と呼ばれ、財界のお年寄りたちに可愛がられるわけである。
 また彼女は、林真理子氏らとともに小泉首相の女性ブレーンの一人として、政界にも太いパイプを持っている。「小泉改革を踏襲する」という安倍晋三首相が、奥谷氏を大事にしないわけがない。

 


 こんな人たちが牛耳る「財界」だから、このところの政治的な右傾化は激しい。憲法改定は言うに及ばず、武器輸出三原則まで踏みにじろうとしている。グローバル化する経済において国際競争力を付けるには、どうしても法人税率の引き下げが必要だと強調する。そのためにも、あらゆる規制を取り払って、武器のアメリカとの共同開発や輸出も認めるべきだというのだ。

 ネオコンに支配されたアメリカに追随して、日本版ネオコンが大量発生している自民党は、「財界」にはとても可愛く見えているに違いない。

 かつて、絶頂期にあった堤清二氏にインタビューしたことがある。そのとき「堤さんは財界人として、この件について----」と問いかけると、堤氏はこちらの質問を遮ってこう言った。
 「私は経済人ではありますが、財界人なんかではありません」と。
 つまり、財界などという「業界」に所属しているつもりはない。経済活動をしている一経営者にすぎない、ということだったと思う。

 もはや、こんな大企業経営者は珍しい存在になってしまった。「財界」という名の「業界人」ばかりだ。業界人は、自分の属する業界の利益にしか目を向けない。
 国家の経済をどう運営していくのか、自分の企業で働く従業員にどうやって利益を還元するのか、さらにはこの国全体のために、経営者としての自分に何ができるか。そんな問いかけを忘れた「財界人」ばかりが幅を利かせる。
 私たち国民はいま、とてもひどい政府を持つ不幸の中にいるが、同時にそれ以上にひどい財界という足枷をも嵌められている気がしてならない。

今週のキイ選定委員会
 
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