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今週のキイ

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 年末に来て、ついに教育基本法が改定されてしまった。ドサクサ紛れについでの駄賃、防衛庁までが省に昇格。振り返れば、なんと酷い1年だったことか。

 泥沼へ足を踏み込み始めたようなこの年を、苦痛とともに思い返す。それにしても、この2006年という年は、すべてが暗転し始めたその元年として、後世に記憶されるのではないか。
 そして、その種を撒いた小泉純一郎と安倍晋三もまた、暗がりの中の人物として名を残すに違いない。
2006年の回顧

●「いざなぎ超え」の好景気

 戦後最長の好景気だそうだ。ほうっ? それって、どこの国の話だい?
 そんな実感を持っている人など、ほんの一握りだろう。
 国会周辺に巣食う連中と、ヒルズとかいう現代の虚栄の塔の住人たち。そして、天下り先を確保できる高級官僚と、低金利のうまみを満喫して史上最高の利益を生み、そのお礼にと自民党への政治献金を再開する銀行屋さんたち。ほかに、景気回復の恩恵で浮かれている人なんかに出会ったことがない。
 「いざなぎ景気(1965年〜70年にわたって続いた好景気を指す)を超える長期間の好景気」などとバカな発表を繰り返す日銀や政府の言うことなど信用できない。なぜか?
 いざなぎ景気の際には、労働者の実質賃金は平均で2.5倍に増えたのだが、現在の「好景気」の期間中にはどうなのか。なんと、この間に平均賃金は0.9倍と、むしろ減っているのだ。消費が伸びるわけがない。
 これで、好景気なんぞとは、やはり私たちの庶民感情と政府や財界の方たちとの感覚は、ズレているとしか思えない。


●格差社会

 その好景気という掛け声の裏で、深刻な事態が進行している。
 企業は正社員を減らしパートや臨時、派遣社員など、つまりいつでも馘を切れる非正規社員を増やすことで収益を上げてきたのだ。
 かくて、格差は拡大し、生活保護所帯は急増し、学童補助を受けざるを得ない家庭も激増している。
 特に生活保護所帯は14年間連続して増加しており、2005年の統計によれば、その数は104万1508所帯となり、1951年に統計を取り出してから初めて100万所帯を超えてしまったのだ。
 こんな状況の中で、9年(1998年〜)連続自殺者3万人超という悲惨な事態が報告されている(2005年は32,552人。今年2006年も3万人超は確実視されている)。
 この3万人の中で、経済的事情から死を選ぶ人の率も伸びている。確認されただけで約7,800人。原因不明の人も多いから、本当は経済的原因で死を選んだ人はもっと多いに違いない(ほぼ3割ぐらいと推測する研究者もいる)。
 格差社会は拡大の一途なのである。


●ワーキングプア

 嫌な言葉が、2006年の流行語の一つになった。
 ワーキング(働いても)プア(貧困)から抜け出せない層、どれほど懸命に働いても、食べることさえおぼつかない人たちを指す言葉である。
 つまり、いくら働いても生活保護水準以下の収入しか得らない人たちで、「働く貧困層」と訳される。
 なんとこの層が、この日本で、すでに700万所帯を超えているというのだ。盛んに好景気を言い立てる政府や日銀のまやかしを、この現実が暴いていることになる。
 それに対し、ある政治家はこう言い放った。
 「食うに困れば、もっと懸命に働くようになるはずだ」
 これが、政権を握る政治家たちの本音なのだ。政治家が、遊び暮らしている自分のドラ息子たちにそう言うのであれば納得もできる。しかし、懸命に働いても明日が見えない人たちへ向けて言う言葉か。
 こういう連中が政治を牛耳っている限り、この国に未来はない。


●再チャレンジ

 そこで登場したのが、安倍晋三首相の素晴らしい「再チャレンジ」政策。これが本気の政策だったら期待もできよう。
 しかし、ここで言う「再チャレンジ」とはどういうことか。
 これは「失敗した者にもう一度チャンスを与えよう」ということらしい。
 だが、よく考えてみて欲しい。「失敗した者」とは、この場合「起業してうまくいかなかった者」という意味だ。つまり、それなりにお金を持ち、自分で起業できる層なのだ。
 しかし本当の弱者とは、そんなチャンスさえ持てない人たちではないか。ほとんど明日の食事さえ困っているような人たちに「再チャレンジ」などという美しい言葉を投げかけてどうなるというのか。
 この「再チャレンジ」とは、決して本当に困っている人たちに向けた政策ではなかったのだ。
 その証拠がある。「再チャレンジ政策」の目玉として打ち出したのが、公務員の中途採用制度だった。これは「就職氷河期」などといわれた時期に、うまく就職できなかった主に大卒の人たちを、これから各省庁が採用する、といものだった。
 ところがその採用予定者数を聞いて、ぶっ飛んだ! 
 なんと、その予定者数たったの100人! これが目玉政策のその目玉だというのだから呆れる。しかも、しかもですよ。フリーターや就職待機者の定義がよく分からない、とい理由で取りやめになったという。要するに、やる気なんか最初からなかったんじゃないか。


●ホワイトカラー・エグゼンプション

 またも、よく訳のわからない横文字の登場だ。なにか胡散臭いことをやろうとするときに、その後ろめたさを隠すために、政府がよくやる手である。
 さて、これはどんな内容なのか。
 いわゆる「ホワイトカラー労働者」、つまり大学卒で正社員、そして中間管理職的な仕事をこなしている、いうなれば会社内での主力の人たちの労働条件を、抜本から改めようという試みだ。
 つまり、この人たちの勤務時間の拘束をなくし、出勤も退社も個人の裁量。その代わり、残業時間をゼロとするという制度。
 何時に出社しても、何時に退社しても自由。まさにいいことずくめのような気がする。しかしここに、やっぱり落とし穴。
 なぜなら、この勤務体系を年収400万円クラスの社員から始めようというのだ。このクラスは、まあ、いいところ係長。ほとんどが残業に追いまくられて、息つく暇もない人たち。この人たちが、出退社自由といわれても、自由になんかできるわけがない。仕事のノルマを果たすために、ただでさえサービス残業でしのいでいるのが現状だ。
 結局は、このクラスは仕事が終わるまで残業し続けるしかない。それなのに、その人たちから残業代を取り上げしまうことになる制度だ。
 企業にとってまことには美味しい。これをあの経団連の御手洗会長がぶち上げ、それを安倍内閣が後押しする。
 パートや臨時労働者で儲けるだけでは足りず、今度は正社員からまで搾り取ろうとする。
 年収400万円程度で「ホワイトカラー」などとおだてられ、まんまとこんな策謀に乗ってはいけませんよ、みなさん!


●経済改革

 財政再建こそが安倍政権の最重要課題だろう。
 しかし安倍首相、とにかく経済では成長重視。そのためには、まず大企業優先の政策に走る。
 企業税(法人税)の減税がそれだ。
 「まず企業が儲けて景気を拡大すれば、その次に社員にその恩恵は回り、全体として景気は拡大していく」というのが、お決まりの論理だ。
 だがその通りに私たち労働者の懐に恩恵は回ってきたか?
 9年間の実感が、それを明白に否定しているではないか。


●政府税調

 正式には政府税制調査会という。官邸主導型政治を標榜する安倍内閣の目玉ともいうべき委員会の一つである。この政府税調の会長は、これまで石弘光氏が勤めていたが、この人は増税路線での財政改革派だった。これでは選挙が戦えないと見た安倍首相は、企業減税で経済成長を図ろうという、いわゆる「新自由主義」の本間正明大阪大学教授を、新たな会長に任命した。まあ、財界寄りで、自分のいうことをきちんと聞いてくれる学者を選んだわけだ。
 ところがこれが大失敗。本間さん、大阪に実家があるにもかかわらず、そして妻がそこに住んでいるにもかかわらず、東京の豪華な公務員宿舎に愛人とともに暮らしていたことが判明。
 しどろもどろの弁明に、与党内部からも辞任を求める声が噴出。それでも安倍首相、自分が任命責任を取りたくないものだから、必死に本間氏を庇い続けている。しかし、これもいつまでもつことやら。


●道路特定財源

 さて、その財政再建の一つの手法として、揮発油税(ガソリン税など)の道路特定財源の一般財源化を、安倍首相は進めようとした。これは、かつて田中角栄首相時代、全国に高速道路網を張り巡らせようとして、ガソリンなどに40%にものぼる高額な税金をかけて、その税金を道路建設のためだけに使うとした法律だ。
 当時はまだインフラ整備が遅れていて、この方式にも一定程度の理解は得られた。だが、時代は流れる。
 すでに多くの地方で道路網はほぼ完備され、もうそれほど緊急に造らなければならない道路も多くはない。だから、この財源を道路だけではなく、一般予算に組み入れて他のことにも使いたい、というのが揮発油税の一般財源化、というわけだ。
 すでにその役割を終えたのならば、課税をやめてガソリンを元の値段(現在の4割安になる)に戻すのが筋だろうが、財政逼迫の折から、とりあえず他でも使わせて欲しい、という気持ちも分からなくはない。
 ところがここで、自民党道路族の凄まじい巻き返しが始まる。
 地方出身議員たちが、「おらが地方へ金をばら撒け!」と大反撃。
 途端に腰砕けの安倍首相。「真に必要な道路はこれからも造り続ける」と、まったくの白旗降参。それでも「今まで手付かずできた分野に初めて改革のメスが入った」と、安倍首相はムリヤリ自画自賛しているが、どうにも白々しい。
 あのステキな著書『美しい国へ』(文春新書)でお書きになった「闘う政治家」というキャッチフレーズは、どうやら霧の彼方へ消えてしまったようだ。


●余人をもって替えがたい

 暮れも押しつまってから、突如、流行りだしたのがこのフレーズ。年末恒例の「流行語大賞」の発表がもう少し遅ければ、きっと大賞に輝いていたに違いない。ご存知、石原慎太郎東京都知事のご発言。
 四男の石原延啓氏を、都の公費で特別枠を急に作り、ヨーロッパなどに数回にわたり出張させていたことが判明し、それを批判された時の弁明だ。
 「息子は立派な芸術家。その彼は余人をもって替えがたいから使ったのだ」と言う。だが、自分の息子を「立派な芸術家」と誉めちゃうなど、少なくとも文学者を自認する方が言うセリフだろうか。身内に甘いただの親バカである。
 ある美術評論家は「まあ、数百人ほどいる若手芸術家のうちの一人、というところでしょうか」とこの四男を評した。つまり、替えられる「余人」など数百人ほどもいたのである。
 さらに石原知事自身の豪華出張も問題化。一泊13万円のホテルやら、豪華クルーザーでの視察に名を借りた遊び旅行など、次々に出てくるわ出てくるわ。15回の出張で、総額2億4千万円、一回約1,600万円平均の税金が使われた勘定になる。
 まあ、こんなことにあまり目くじらたてたくはないけれど、この人が監修して最近出版された本のタイトルが『もう、税金の無駄遣いは許さない!』だったと聞けば、呆れるのを通り越して、悪い冗談としか思えない。


●五輪招致と都知事選

 この石原知事、財政事情厳しき中で、オリンピック招致に血道をあげ、その実現のために次の知事選にも出馬するという。
 しかし、この「東京オリンピック」、招致に成功する可能性はとても低いと言われている。アジアでは北京五輪が2008年に行われるから、アジア枠はしばらく無理というのが、スポーツ記者たちのほぼ一致した観測である。
 それを承知の上で、知事選の目玉にしようというのだ。オリンピックを選挙の道具にしようとしている、と批判されても仕方ないではないか。
 そして極め付きは次の発言。記者会見でオリンピックについて質問されて、「ここにオリンピック反対という人がいたら手を挙げてもらいたい。そんなヤツはぶったたけばいいんだ」
 まあ、この人の発言の品の悪さについては、いまさら何を言っても始まらないけれど、「反対するヤツはぶったたけ」とは何事か。自分に反対する者の発言は許さないということだ。民主主義のイロハさえ否定してかかる都知事とは、一体どんな存在なのだろう。
 こんな知事の下だから、東京都教育委員会のような強権的な「日の丸君が代」の押し付けや処分が罷り通るのだ。
 次回の都知事選挙での都民の良識に期待するしかないのだが。


 なんだか、書いていてとても辛くなるけれど、これが私たちの国の現在の状況なのだ。とりあえず、今回はここまでにしよう。

(今週のキイ選定委員会)
 
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