ホームへ
もくじへ
今週のキイ

最新へ バックナンバー一覧へ
 今週は、怒りを込めてのキイ・ワード
「小さな政府」 と 「美しい国」


  自民党のデタラメぶりが、ここにきて際立っている。
 「郵政選挙造反組の復党問題」「道路特定財源の一般予算化」など、小泉改革の継承を旗印に掲げたはずの安倍晋三首相の腰砕けぶりはハンパじゃない。すべて、来年夏の参議院選挙の票集めのため。恥も外聞もかなぐり捨てての妥協の産物。

 特に、道路特定財源のガソリン税では、いわゆる道路族議員に押し切られて、「真に必要な道路は、これからも作り続ける」と書き込んでしまった。
 つまり、「これからは無駄な道路は作らず、ガソリン税などを道路予算に特定するのではなく、一般財源化して他の目的にも使う」ための改革だったはずなのだが、道路族議員の巻き返しにあい、「必要な道路は作り続ける」と表明してしまったわけだ。典型的な妥協の産物。
これを「改革の第一歩」などと強弁する安倍首相、恥ずかしくはないのだろうか。
 いったい誰が「真に必要かどうか」を判断するのか。地方出身議員の選挙エゴで判断は左右されることになるのは明らかだ。

 筆者の故郷は東北の田舎である。ここにも高速道路ができた。年に何度か里帰りした折に、この道路を車で走ってみる。前後にほとんど車がいない。対向車もポツリポツリ。この高速道、「真に必要な道路」だったのかどうか。
この道路に並行して一般国道が通っている。ここもあまり通行量は多くない。
 これをもう少し整備拡充すれば、高速道など不必要だったのだ、と地元の人たちさえ言うのだ。

 ではいったい誰が何のために必要としているのか。

 
 書く必要もあるまい。
 むろん、土建業者とその利権に群がる政治家どもだ。確かに道路や「ハコモノ」と呼ばれる巨大な施設(ろくに使われない市民会館やテーマパークなどがそのいい例だ)の建設中はそれなりの金が地元に落ちる。しかし、地元に落ちるのはほんのわずかで、大部分は中央に本社を持つゼネコンが吸い上げていく。そして、それを支えるのが「談合」。最近、連続して地方自治体の首長たちが逮捕された裏には、この構図が隠されていたわけだ。

 百歩譲って、多少でも短期間でも地元が潤うならそれもよしとしよう。しかし、ハコモノや道路が出来上がった後のメンテナンスの膨大な費用は、ツケとして地方に押し付けられる。結局、一時の金に目がくらんで、後々までのツケを背負い込むことになるだけ。それも、これらの建設には無関係だった一般住民がそのツケを負担せざるを得なくなるのだ。

 その典型的な例が、北海道夕張市だ。
 市は借金を重ねながら、多くのハコモノを作り続けた。それを作っている間は、それなりに地元業者は潤っただろう。だが、その結果がどうなったか。
 財政破綻自治体という政府の認定。その認定を基に、夕張市のあらゆる支出に政府がチェックを入れる。
 数百億円の借金を、住民がこれから数十年間にもわたって返済していかなければならない。
 すべての公共サービスの見直しや廃止、仮借ない増税、学校の統合と廃止、市営バス代や水道料金の大幅な値上げ。もう病院にも通えないと嘆く老人たち。逃げ出す若者たち。
 高齢化にさらに拍車がかかる。そうなれば税収が減るのは当たり前だ。それでも政府は、乾いたタオルからまだ水を搾り出そうとでもするように、締め付けを緩めない。

 まさに、住民に死ね、と言っているような「見せしめ」。それを総務省や財務省などの政府官僚が押し付けているのだ。
 この町から逃げ出すことができる人たちは、まだいい。逃げ出すためのお金や身寄りのない、それこそ死に直面せざるを得ないような最低生活に耐えなければならない老人や弱者が、置き去りだ。


 これが小泉改革の後遺症だし、それを受け継いで「小さな政府」を標榜する安倍内閣の政策なのだ。
 これまで国が責任を持って行ってきた多くの施策を、民間の力を活用する、という名目で切り捨てようとしている。それが「小さな政府」なのだという。その結果、「福祉関係項目」がねらい撃ちにされている。

 だが、その「小さい政府」にボロボロと綻びが見え始めている。
 障害者保護を謳った「障害者自立支援法」なる「美しい名前の法律」を覚えているだろうか。安倍首相のキャッチフレーズ「美しい国」を、まさに象徴するような法律だったはずだ。
 ところがこれが、当の障害者たちや彼らの通う施設の運営者たちから猛反発を受けたのだ。それまで、無料や低負担で済んでいた施設の使用料や食事代などを、受益者負担という名目で見直し、施設への補助金を大幅に削減、さらには食費や施設使用料などをアップさせたからだ。
 そのため、通所者が障害者施設で働いて得る賃金よりも負担金が高い、つまり、働けば働くほど持ち出しになってしまう、というメチャクチャな現象が生じてしまった。そうなれば、施設へ通えなくなる障害者が続出する。通所者が減れば、施設への補助金は激減する。
 こうして、いくつもの施設が危機を迎えてしまった。
 さすがにこの事態に、法律の適用を見直そうという動きが出てきた。悲惨な実態が現れなければ分からない、というのであれば、何のための行政か、お役所か、官僚か、と声を荒げたくもなる。

 これが、「小さな政府」と「美しい国」の典型的な例である。


 こんな安倍流「美しい国」の例はたくさんある。

 たとえば、イラン人一家4人の特別在留許可の却下。もう17年間も日本に住んで税金も払い続け、長女は福祉の道に進みたいと短大に合格したばかりだった。何の問題もなく社会に溶け込み、友人などが「在留許可」を求めて署名運動までしてくれたというのに、日本政府は、拒絶した。
 長勢法務大臣は、冷たく言い放った。
「自分の国へお帰んなさい、ということです」
 すべての生活基盤は日本にあり、帰国しても暮らすあてがない、と分かっている人たちに対するこの仕打ち。
 このどこが「美しい国」なのか。この大臣や安倍首相に「美しい国」などと口走る資格があるのだろうか。人権を云々する資格など、とてもあるとは思えない。

 格差拡大政策、企業減税、それに伴う一般庶民への増税、中堅の労働者にサービス残業を強いてしまうことにつながる「ホワイトカラー・エグゼンプション制度」の導入、パート労働者、派遣労働者の正社員化に事実上の扉を閉ざす派遣労働者法の改定、健康保険料の改定(保険加入者の3割負担)、介護保険の値上げ、もう数え上げればきりがない。


 しかも、これを正面から支持するのが財界だ。

朝日新聞12月11日付夕刊に以下のような記事が載っていた。
(要約する)

 日本経団連の御手洗冨士夫会長による将来構想の原案「希望の国、日本」(通称・御手洗ビジョン)がこのほど明らかになった。その主な内容は、次のようなものだという。
◎イノベーション(技術革新)の推進
◎法人税実効税率の10%引き下げ
◎11年度までに消費税率2%引き上げ
◎2010年代初頭までに憲法改正
◎愛国心に根ざす公徳心の涵養
◎政治寄付を拡大するための法改正
◎業績などに応じた人事・報酬精度の整備
◎東アジア全域での経済連携協定の促進
◎15年度をめどに道州制を導入

  これはまさに、安倍内閣と一心同体で進む、という宣言である。縮めて読むと次のようになるだろう。

  まず、法人税の引き下げと消費税アップがセットになっている。すなわち、企業の税金は安くして、その分は広く大きく庶民からの税金で穴埋めする。その政策を推進してくれるよう、自民党には政治献金を増やしたい。
 すぐさまその要請に応じたのが銀行業界。
 まず先頭をきって、三菱東京UFJ銀行が政治献金再開を決定。当然のように、「自民党を中心に」献金を行っていくという。他のメガバンクも検討中だという。我々の預金にはひとたらしの利子しか払わず、そのおかげで史上最高の利益を計上しながら、儲けは預金者に還元せずに自民党へ献金する。ご立派としか言いようがない。
そして、安倍首相と歩調を合わせるように、改憲と愛国心の強調。
「業績に応じた人事・報酬制度」とは、労働者にはホワイトカラー・エグゼンプションでサービス残業の強要、派遣労働者の都合のいい使い捨て、などを意味する。
 ここまであからさまに打ち出してくるとは、本当に労働者も舐められたものだ。労働組合がまるで骨抜きになっていることの証明でもあるのだろう。
 
 これが、安倍首相のスローガン「美しい国」「小さな政府」の内実なのだ。
 しかしいくらなんでもひどすぎる。


 熱しやすく冷めやすいと言われる我が国民も、さすがに気づき始めているようで、各メディアの世論調査では、安倍内閣の支持率は急降下中だ。内閣発足からまだ3ヵ月だというのに、もう支持率40%台にまで落ちたという結果も出てきている。発足直後に比べると、30%もの支持率下落だ。これほど短期間に馬脚を現した政権も珍しい。

 知人の新聞記者からの情報によれば、首相官邸主導、つまり、安倍首相の仲良し取り巻きで固めた補佐官連中が政治を切り回す、という安倍手法はここに来て完全に行き詰っているらしい。自民党と官邸がバラバラになり、意見の摺り合わせがほとんどできない状況だという。
 特に、今週各社が発表した世論調査結果を前に、自民党幹部は来年夏の参議院選の惨敗を念頭に置いて、それ以降の政局を考え始めているのが現状だそうだ。

 それにしても、こんな人たちに憲法を弄り回してほしくはない。

 いまや、選挙が心配で「改憲」など考えている余裕もないでしょうから、せっせと「政局ごっこ」に精を出し続けていてもらいたいのです。
「改憲」など、忘れていただいてけっこうですから。

(今週のキイ選定委員会)
 
ご意見募集!
ぜひ、ご意見、ご感想をお寄せください。
このページのアタマへ