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今週のキイ

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 日本が危ない。そう思いませんか? 

 北朝鮮の核実験で日本の安全が脅かされているのは事実だ。しかし、その脅威に対する私たちの国の反応が、なんだかもっと危うく感じられて仕方ない。
 明日にでも日本に核弾頭を積んだ北朝鮮のミサイルが撃ち込まれそうな報道ぶり。それが東京や大阪に命中すれば、百数十万人の死者が出るだろう、などと扇情的に叫ぶ新聞、雑誌、そしてテレビ。

 なぜこんな状態になったのか、この危機を脱するにはどうすればいいのか、このままアメリカとともに強硬策に出るのが正しい選択か。北朝鮮がいま、私たちの国を攻撃する理由とは何か。どんな目的がそこに存在するというのか。
 そんな当たり前のことを問う冷静な報道には、まったくといっていいほどお目にかかれない。

 一方的な報道で国が一色に染め上げられたときの危険性を、戦後60年ですっかり忘れてしまったのか。

 アメリカでさえ、ようやくこれまでの北朝鮮政策の誤りを指摘する報道がかなり出てきているというのに、私たちの国は過激な扇情報道の一色刷り。ほかの色がまるで見えない。

 「冷静になれ」といっただけの人に、「お前は北朝鮮の味方か、そんなヤツは北朝鮮へ帰れ!」などと薄汚い罵声が飛んでくる。
 何の責任も罪もない在日韓国朝鮮人の子どもたちを、暴行や暴言の嵐が襲う。それがナショナリズムというのなら、あまりに情けない。
 当然のように、その報道ぶりや感情の高まりに便乗する政治家が出てくる。そのときに発する便乗政治家の言葉が、これだ

周辺事態
 


 「周辺事態法」、正式には「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」という法律の第一条は、「目的」として次のように定めている。

 (目的)
  第一条
 この法律は、そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(以下「周辺事態」という。)に対応して我が国が実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項を定め、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。

 まあ、例によって長ったらしく分かりにくい条文だが、要するに、日本が他国からの攻撃の危機にさらされたとき、アメリカと協力して日本を守る、といっているわけだ。
 しかし、この法律が制定されたときにも問題になったのだが「どんな時、どんな状況をもって周辺事態と定義するのか」という、最も基本的なことが何も決められていなかったのは、読んでお分かりのとおりだ。その第一条からして、どうとでも解釈できる、いい加減な条文ではないか。

 当然、この法律の制定時、与野党が激しく対立して国会でも論戦になったのだが、こんな危険な法律の場合はいつでもそうだったように、とにかく多数の力で与党が押し切り、「あとはそんな事態が起きたときに、改めてじっくり論議すればいい」などという無責任な論法で逃げたのだ。

 無責任のツケは、いつでも重い。

 自民党の強硬派は今回の核実験に(腹の中では大喜びかもしれないが)、早速、「周辺事態法の適用を考えるべきだ」と大声で叫び始めた。
 せっかくもらったけどまだ使ったことのないオモチャを、やっと使えるんだ!とはしゃいでいるわけだ。


 だが、よく考えて欲しい。
 この危険極まりない法律でさえキチンと規定できていない「事態」に、いまの私たちの国は、ほんとうに追い込まれているのか。
 もちろん、北朝鮮の核実験というとんでもない暴挙を、許すわけにはいかない。「先軍政治」などと国民を省みない政治を行う金正日には、早々に消えて欲しいと思う。
 だが、だからといってなぜ北朝鮮がいま、日本を攻撃(それも核攻撃)しなければならないのか。そんな差し迫った脅威を、日本が北朝鮮に与えているというのか。日本からの脅威がないにもかかわらず、北朝鮮が一方的に日本を攻撃するという根拠はどこにあるのか。
 納得できる回答を、聞いたことがない。

 あの国は何をするか分からない「狂気の国」だから、などというのは答えになっていない。
それでは、酒場での酔っ払いオヤジたちの議論の域を出ていない。決して国を預かる政治家たちが口にしていい言葉ではない。ところがいまの自民党若手強硬派から漏れてくる議論は、まるでそのレベル。
 その程度のレベルの政治家であるなら、「ではなぜ、インドやパキスタンの核実験の際には今回のような強硬な制裁を行わず、我が国の実験にのみ、かくも激しい制裁を科すのか?」という北朝鮮の反発に、きちんと答えることもできまい。

 「周辺事態」を定義できず、北朝鮮がなぜこんな暴挙に出たかも解明せず、北朝鮮からの「ダブルスタンダード(二重基準)批判」にまともに答えることもできないで、ひたすら強硬論を叫ぶばかり。

 ここでもう一度、周辺事態法発動を叫ぶ方々に尋ねておきたい。

 「周辺事態」とは具体的にどんな状態を指すのですか?
 そして、いまがその状態にあるのですか?
 北朝鮮は、どんな理由で日本を攻撃するのですか


 そして、

日本核武装論

 そんな政治家たちが目立つ中、やはりこの人が躍り出てきた。
 中川昭一自民党政調会長である。

 安倍首相の盟友であり、二人してNHKの番組に圧力をかけたことでも有名な仲良し小鳩組(?)。
 その右寄りぶりとお酒好きは党内でも際立っている方だが、ついに「日本も核保有の議論は必要である」と、吠えたのだ。
 「日本も核保有すべき」というのは、中川氏のかねてからの持論だ。しかし、同様の持論をいままで振りかざしていた仲良しの安倍首相が、さすがに「首相の立場ではヤバイ」と思ったのだろう、「かねてからの政府の立場を踏襲し、非核三原則は堅持する」と、あっさりと(小さな核を持つのは憲法上も許される、というこれまでの)持論を引っ込めてしまった。

(靖国参拝、歴史認識、従軍慰安婦、村山談話と、安倍首相は前言訂正のオンパレード。まさに、このコラムでかつて命名したとおり「前言撤回首相」「訂正首相」の面目躍如の「闘う政治家」ではあるが、それはさておき)

 安倍首相の変節で、持論を主張しづらい立場になっていた中川政調会長だが、さすがに機を見るに敏なのが持ち味、いまなら北朝鮮憎しでナショナリズム高揚中、何をいっても許されると思ったのか、こんな発言をした。

「核を持っていれば、攻められる可能性が低くなる、という論理はあるのだから、核保有についての議論はあっていい」(10月15日)

 持って回った言い方だが、要するに核武装していれば攻められない。だから核を持とうよ、ということでしかない。
 日本が痛苦な記憶と共に遠の昔に捨て去ったはず「核抑止力論」が、埃を振り払ってまたぞろその醜い顔をのぞかせたのだ。


  かつて有力政治家からもしこんな議論が出てきたなら、その政治家は地位はおろか政治生命すら失くしかねなかったほどの「暴言・妄言」なのだが、いまやこれが新聞やテレビのトップニュースにはならない、という状況になってしまった。
 日本の悲願である「核不拡散」「核廃絶」の祈りにも似た政策を、こんなにも簡単に投げ捨てようとする政治家を、私たちは許しておいていいものだろうか。
少なくとも、「日本核武装論」につながるこの発言だけは、絶対に認めるわけにはいかない。

 中川昭一自民党政務調査会長殿、
 広島・長崎の原爆被害者たちは「犬死」だったというのですか?

 
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