このようなあやふやな状態の中で、金正日が何を目指して「核実験」に踏み込んだのかは定かではないが、実は相当に追い込まれているというのは事実のようだ。
アメリカの金融制裁に続いて、今年7月の大洪水による被害が、凄まじい飢餓状況をこの国に及ぼしている。そのため、軍隊にまで食糧が回らず、軍部の不満はかなり抜き差しならぬところまで来ているという。
そのため、軍部と金正日周辺との間に軋轢が生まれ、今回の「核実験」が軍部主導で行われ、金正日の意思が無視されたのではないか、との観測がある。それとはまったく逆に、軍部の躊躇を押し切って金正日が強行した、という説もある。
いずれにせよ、北朝鮮という国家の内部で、二重権力に近い状況が生まれつつある、という観測には信憑性がある。
ここで、日本など周辺各国(アメリカも含む)の役割が重要になる。
とにかくこの国へ情報を伝えることだ。もはや「鎖国」に近い状態にあると思われる北朝鮮だが、脱北者がこれだけ増えているというのは、ある程度、情報が国民に伝わっていることの証左である。
むろん、政治レベルでは様々な駆け引きや、脅し、制裁、国際的包囲網なども必要ではあろうが、それと並行してこの国へ、この国の国民へ「正しい情報」を送り込むことが何よりも必要なことだろう。
情報によって国民の目を開かせること、それは迂遠な策に見えるかもしれないが、軍事的政策で多くの人命を失うよりは、時間はかかっても賢い政策であるはずだ。
冷戦が終わってから、私たちは余りに多くの血が流れるのを見た。
冷戦終結によって、大地の血は乾くだろうとの期待は、何度も繰り返し裏切られた。
その轍をまたしても踏もうというのか、アメリカよ。
どうあっても、軍事制裁に頼ることだけは避けなければならない。先制攻撃などしようものなら、北朝鮮が脅しの常套文句として使っている「ソウルを火の海にする」という言葉が現実になりかねない。
そんな地獄絵図を現出させてはならない。
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