この本の面白さは、今までの多くの「護憲本」とはかなり異質な議論を展開していることだ。
いわゆる「護憲本」の多くは、憲法九条をひたすら守ることによって平和を維持しよう、憲法九条さえ守れれば平和を守ることもできる、というある種の「憲法九条絶対主義」的な宗教じみた部分も持ち合わせていたような気がする。もちろん、すべての「護憲本」がそうだったというわけではない。しかし、改憲派からはそこを突かれて「護憲教」だとか「神学論争」だとか批判されてきたのも事実である。
ところがふたりは、日本国憲法の危うさや矛盾をきちんと認識した上で、「だからこそ、世界遺産として後世に遺し伝えていかなければならないのだ」と議論を発展させていく。
こんな「珍品の憲法」は世界にはない。だからこそ面白いのだ。そして、そんな面白いものを、簡単に手放していいわけがない、と対論は白熱する。
では、その「珍品憲法」が、なぜ成立したのか。それは、まさに奇蹟の一瞬、理想を信じたアメリカ人と、ふたたびの戦火を絶対に拒否しようとした日本人の、奇蹟の合作だったというのである。
そしてその背景には、アメリカ先住民や環太平洋の平和思想などが色濃く反映されている、と目からウロコの話が続く。
特筆すべきは、「幕間・桜の冒険」と題された、太田さんのエッセイ的な文章である。なぜ彼が憲法に、特に憲法九条にこだわるようになったのか、その心情の深いところが切なすぎるほどの筆致で述べられている。
太田光、只者ではない。
ほんの170ページほどの薄い本である。
しかし、読後感はずっしりと胸に迫ってくる。
掛け値なしの、オススメ本である。
この本、編集部の話によれば、発売10日間で増刷をかさね、すでに8万部に達しているという。このような本が売れる。まだこの国も捨てたものではないのかもしれない。 |