第四章 日米同盟の構図
この章に、安倍氏の政治的スタンスが鮮明に表れている。すなわち、憲法九条の改定と集団的自衛権の行使、自衛隊の国軍化。
でもその中身もそうとうに困りものだ。
「たとえば日本を攻撃するために、東京湾に、大量破壊兵器を積んだテロリストの工作船がやってきても、向こうから何らかの攻撃がないかぎり、こちらから武力を行使して、相手を排除することはできないのだ」(133〜134ページ)
少しは調べて書けよゴーストさん、と言いたくなる。
たとえば、2001年12月の北朝鮮不審船撃沈事件。これを安倍氏ほどの大政治家が知らないはずがない。
このとき、日本の領海内(これも排他的経済水域からさえ出た後だった、という説もある)に入ったという理由で、北朝鮮の工作船とされた不審船は、日本の海上保安庁の6時間にも及ぶ追跡と威嚇射撃の後に撃沈され、乗組員全員が死亡した。
つまり、東京湾どころか日本の領海かどうかさえはっきりしない海域で、テロリストかどうかもはっきりしない段階で、もちろん大量破壊兵器を積んでいるかどうかなどまるでわからないのに、この不審船は攻撃され、海に沈められたのだ。
この事件での日本の対応が良かったのか悪かったのかをここで評価するつもりはない。それはさておき、これが大きなニュースとしてメディアに流れたのは、紛れもない事実だ。
とすれば、安倍氏の言い分はまったくおかしい。
すでに「相手を排除」した事例があるではないか。結果として「大量破壊兵器」など積んでいなかったにもかかわらず。
もし、安倍氏が「あのときの政府の対応は間違っていた。日本はあんなことをしてはいけなかったのだ」と言うのなら、安倍氏の文章も分からないことはない。しかし、安倍氏がそんなことを言ったとは聞いたことがない。
ダメですよ、事実を隠しちゃ。
イラク問題にしても、アメリカ・ブッシュ大統領の言い分を繰り返すだけ。それが日本の国益にかなうのだという。よく読むと(適当に読んでも)それ以外のことは、ほとんど言っていない。
「第二に、日本は、エネルギー資源である原油の八五%を中東地域にたよっている。しかもイラクの原油の埋蔵量は、サウジアラビアについで世界第二位。この地域の平和と安定を回復するということは、まさに日本の国益にかなうのである」(133ページ)
しかし、その後の中東情勢はどうなっているか。アメリカの思惑など、とうの昔に消し飛んでいる。混迷を深めるイラクに、「この地域の平和と安定を回復」したなどと、口が裂けたって言えるわけがない。
この本とは直接関係ないが、今回のイスラエルのレバノン空爆によって、どれほどの市民が殺されているか。そのイスラエルへの非難決議にさえ、アメリカは反対の姿勢である。日本の態度はまるで見えてこない。ここでも安倍氏はアメリカ追随なのだろうか。
ダブル・スタンダードはほとんどアメリカのお家芸になってしまっている。安倍氏は、その跡を忠実になぞっているようにしか見えないのだ。
もう、かなり書くのが苦痛になってきた。
しかし最後に安倍氏の「再チャレンジ」なる言葉の虚しさだけには触れておきたい。 |