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今週のキイ

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 今回は、「人物」に焦点をあてて、「今週のキイ・パーソン」を考えてみたいと思います。そこで、
 
共謀罪
 です。
「YKK」なんて、もう死語だと思っていらっしゃる方も多いでしょう。でもこの御三方、現在も元気モリモリ。政治家っていうのは凄いパワーをもっていると、つくづく感心させられます。

 もうそんなの忘れちゃったよ、とおっしゃる方に一応の説明をしておきましょう。
 かつて、自民党の中の若手でこれから首相の座を狙おうという生きのいい人たちがいて、そのうちの有望株三人が派閥の枠を超えて勉強をしながら友情を育んでいた。その三人をイニシャルで「YKK」と呼んだというお話。
 で、その「Y」が山崎拓氏、「K」のお二人が加藤紘一氏と今をときめく小泉純一郎首相でありました。それが時を経て、現在のようになりました。

しかし、なんでそんな古い人たちが、今更「今週のキイ・パーソン」なの?という疑問は当然です。
 実は、面白い新聞記事を見つけたのがキッカケです。

5月12日の毎日新聞「記者の目」というコラムに、ちょっと驚きました。
(このコラムは、現役記者が署名&顔写真つきで、思ったことを率直に書くということでかなり人気のコラムです)
 そこに、伊藤智永(政治部)という記者が、次のような厳しいことを書いていたのです。以下、出だしの部分の引用です。

小泉改革とは何だったのか
決断、単純化、そして号令
それに応えた「私」たち


5年前、小泉純一郎首相が自民党総裁に選ばれることが確実になった前夜、山崎拓前副総裁から聞いた小泉評は忘れがたい(もう時効と考え、山崎氏にはオフレコ解禁をお許しいただこう)。
 「いいか、君たちびっくりするぞ。30年も国会議員をやっているのに、彼は政策のことをほとんど知らん。驚くべき無知ですよ」
 すぐにそれは証明された。記者会見や国会審議で、小泉首相は集団的自衛権とは何か、理解していないことが露見したのだ。憲法を変えるの変えないのと迷走し、陰で家庭教師役の山崎氏は四苦八苦していた。
 戦後日本の平和がよって立ってきた安全保障の基礎にまったく無関心だった小泉首相が、その3年後、自衛隊を初めて海外の戦地に派遣した。「不戦の誓い」を口にして毎年、靖国神社を参拝した。派遣の判断基準は「常識」、参拝の理由は「心の問題」と言い張って。私は5年たった今も、首相は集団的自衛権を説明できないのではと疑っている。これらが外交・安保における小泉改革だった。(以下略)


 このあとも伊藤記者は、小泉改革の内政におけるいい加減さや無知ぶりを、かなりキツーク指摘しています。  
 現場でずっと小泉首相を見続けてきた記者が書いたものだけに、相当の迫力です。そして、読みながら肌が粟立つ気がしました。
 そういえば、筆者の知人のベテラン政治記者(伊藤氏ではありません)も似たような話をしていました。
「YKKはよく一緒に酒を飲んでいた。酒席では、加藤さんと山崎さんがかなり熱の入った政策論議をしていたが、小泉さんはほとんど議論には加わらず、ひとり手酌で酒を飲んでばかりだった」
 友人として付き合ってはいても、山崎さんも加藤さんも、小泉さんの空っぽな中身はしっかり知っていたのです。
でも、友人二人が「日本の将来」などについて、口角泡を飛ばしながら議論をしている間、議論にも加われず、ひとりポツンと酒を飲んでいる。想像すれば、それはそれで切ない情景です。ちょっと、小泉さんに同情したい気分にはなります。

 しかし、冷静に考えてみると、実に恐ろしい。
 政策にとんと無知な人が、何の弾みか首相という最高権力者にまで上り詰めてしまった。 そして、ブッシュ大統領に気に入ってもらいたい、というただそれだけのために、「ブッシュの戦争」に世界中のどこの国の指導者よりも早く賛成。その上で、「集団的自衛権」のなんたるかも知らないまま、「自衛隊海外派兵」を可能にするための数々の法律を作り、さらにはそれを恒久化するための「憲法改定」にまで踏み込もうとしている---。
 まさに、真っ黒なギャグです。

 考えない首相は、自民党タカ派がやろうとしてさすがに実現できずにいたキナ臭い政策を、事実、ほとんど深く考えることなく、タカ派議員や官僚たちに担がれたまま次々に法制化してきました。
 自分を支持してくれるのなら、それがタカだろうがハトだろうが、この人にとっては関係ないらしい。とりあえず、御輿の担ぎ手が多いほうへなびいてしまうのです。
 
 「テロ対策特別措置法」から始まり「自衛隊法改定」「武力攻撃事態法」などの「有事関連三法」、そして「イラク特措法」など-----。
 さらには、「教育基本法改定」「共謀罪」「憲法改定のための国民投票法」「沖縄の米軍基地再編に伴う特別立法」と、危ない法案は続きます。9月の辞任を睨み、とにかくまだ人気があるうちに何でもかんでも懸案の政策・立法は片付けておこうということなのでしょう。
 そして究極の「小泉改革」こそ「憲法改定」への道筋です。
 
 「無知な人」がその無知ゆえに、中身のないワンフレーズを連発する。当然、長くしゃべれば無知が露呈するのだから、ワンフレーズにならざるをえません。それを、テレビは「映りがいいし、短時間にピッタリはまる」というだけの理由で、連日繰り返し放送する。
 有権者への「刷り込み」です。

 さすがに、これはマズイと思ったのでしょう。加藤氏は高村正彦元外相らとともに、「第二次大戦をめぐる歴史認識やアジア外交の改善」などをテーマに会合を開いたりしています。このどこまでも突き進む小泉首相の危うさに、一定の歯止めをかけたいとの思惑のようです。
 また、山崎氏も「総裁選への出馬」に含みを持たせる発言を繰り返しています。これも、小泉さんへの牽制球とみていいでしょう。
 ややリベラルな加藤氏、改憲論者ではあるがアジア外交に一家言ある山崎氏、かつての盟友たちは、ここにきて、すっかり小泉氏を見限ったようです。
 
 それにしても、盟友であったはずの山崎氏に「無知」とまで酷評された首相が5年間もその椅子に座り続け、この国の「戦後を総否定」して、アッケラカンと去っていく。
 この5年間を振り返ってみると、その恐ろしい足跡が不気味に将来へつながっているのが見えます。
どこかでその歩みを断ち切らなければ---。
 
 例えば沖縄の基地問題のように、中身もよく吟味しないまま「うまくまとめといてよ」と外相や防衛庁長官、官僚たちに適当な指示のみを出して、あとは知らん顔。ツケは沖縄の人々と後継首相に押し付けてグッドバイ。
 あの小泉首相と会ったときの稲嶺沖縄県知事の苦渋に満ちた顔と、それと対照的な薄ら笑いの小泉首相のツーショット写真が、何よりも雄弁にこの事実を物語っているとは思いませんか。
 いまさらながら、腹が立ちます。
 
 「言っとくけど、首相なんてなってみるとそんなにいいもんじゃないよ。苦労ばっかりだし」なんて、最近のどこかのパーティーで能天気に述べていました。相変わらずのテレビ向け発言。
 
 ならば、ならないで欲しかった!

(今週のキイ選定委員会)
 
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