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2011-08-31up
イラク派兵差止訴訟弁護団・川口創弁護士の「憲法はこう使え!」
【第5回】自治の破壊に抗う
6月末、被災地である宮城県の石巻、南三陸、気仙沼、そして岩手県の陸前高田、大船渡に足を運んできた。
石巻では、5月に400足の長靴を送った湊小学校に立ち寄り、ボランティア「チーム神戸」の金田さんから話を伺った。僕は神戸の震災後にも何度か足を運んだが、神戸のイメージとはスケールや、津波の被害という点で全く違うということを痛感した。
被災したところ全般で感じたことであるが、被災した地域とそうで無い地域とで完全に街が分断されている。被災した地域は、環境がどんどん劣悪化していくなかで、切り捨てられつつある。少なくとも被災した人達はそう実感している。
南三陸町や陸前高田は、海沿いの街全体が根こそぎ奪われてしまった状態だった。ここで多くの人命が奪われ、故郷が奪われたかと思うと、がれきが積み上げられている光景に言葉がなかった。かなり内陸まで船も運ばれて、そのまま放置されていた。友人が4月に行ったときの映像を見せてもらっていたが、震災から100日経って、光景があまり変わっていないことに正直愕然とした。
海沿いの集落は、車で通る人達と、細々と活動するわずかな警察官たちしか、目に入らなかった。戦後復興時の映像でよく見る、「焼け野原にプレハブが建ち並ぶ」という映像と比較し、この被災地のあまりの静けさが、とても悲しく感じた。
気仙沼は、火災で焼けてしまった地域が広がっていた。夜食事をした居酒屋で、地元の人達が、津波で人を見捨ててしまった経験を話し、「地獄だね。一生引きずっていくんだね」と話していた。言葉も無かった。
陸前高田の隣の大船渡市も、市街地は壊滅的な状況で放置されたまま、という印象を受けた。知人である大船渡の市役所の職員から、詳細な現状を伺うことが出来た。
国は、高台への移転を進めるとしているが、ただ、「高台移転」を言うだけ。かといって自分の土地も住むな、使うなと言う。高台移転の費用もなく、自分の土地も使えないとなれば、がれきの撤去すらする気にもならないのは当然だ、と仰っていた。また、TPPに加え、漁業特区までやられては、被災地はさらに壊滅的打撃を受ける、さらに被災地を追い詰めるのか、と静かな憤りをもって語ってくれた。
印象的だったのは「これだけの大震災で、多くの人が命を落としても、国は全然本気になっていない。この国は一体どれだけ人が死ねば、本気になるのだろう」という言葉だ。 テレビではとりわけ美談が映されがちで、「がんばろうニッポン」が連呼されているが、現実には全然「オールジャパン」になっていないことを痛感した。
とりわけ、東電福島第一原発の事故に関心が向かい、それ以外の被災地に対する関心が薄れているということを、現地の方たちは感じ取っていた。
被災地は、例えば、大船渡市とその隣の陸前高田市とでも、全然被害状況が違う。当然対策も異なってくるし、復旧、復興のビジョンも変わってくる。
その中で、上からの「復興」によって、地域がさらに分断され、破壊されてしまいかねない状況が生まれている。ここでの「上」は、「国」だけでなく、「県」でもある。宮城県知事は、被災地から遠く離れた東京で復興の会議を行い、漁港の集約化などを進めようとしている。
しかし、漁業権の問題など、大企業的な発想で「復興」を進めていっては、地域はそれこそ立ち上がることが出来なくなる。
それぞれの被災地が立ち直っていくためには、それぞれの地元の状況に応じ、地元の声を集約しながら、「住民本位の小さな地域」を作っていくことが必要だ。今回そのことを痛感した。
「地方自治の本旨」(憲法92条)は、「地方の政治や行政がその地方の住民の意思に基づいて行われる」という「住民自治」が第一である。そして次に「地方が1つの団体として独立した法人格を持ち、自律権を有する」という「団体自治」がある。この2つが「地方自治の本旨」である。
しかし、特に石巻周辺では、「平成の大合併」で小さな市町村の合併が進み、行政機能が失われ、公務員も削減された。そのため、震災時、地域によっては住民救出の拠点が作れず、また、手足となるべき公務員も不足していた。住民の被害の情報集約も遅れ、被災者救済の大きな障害となった。
震災前にすでに、住民自治の機能も、団体自治の機能も、大きく奪われていた、その中での震災により、被害が拡大していった面があるという点を直視する必要があるのではないか。
被災地の復興には、「自分たちの地域をどうしていくのか」を自らの手で議論し、決していくという「住民自治」のプロセスが重要である。
2004年の中越地震の後、新潟県の山古志村は「山古志復興新ビジョン研究会」を立ち上げ、全村を挙げて将来どんな村にしていきたいかを徹底的に議論し、村を作り上げていった。
まさに、「住民自治」を徹底的に実践し、住民本位の村を作り上げようとしている。
今、被災地は、被災地毎に、「住民本位の地域」をつくり、「強い地方自治」を創ることが大事である。復興のプロセスとしての「住民自治」の実践と、上からの押しつけを拒む自律機能を強化する「団体自治」を強める必要がある。市町村単位の地方自治の機能を強めていくことなくして、住民本位の復興はなしえない。
上からの「復興」の押しつけに抗い、自分たちで議論し、「住民本位の強い小さな地域」を創り上げていくために、憲法の「地方自治の本旨」を最大限活用していくことが、今、とても大事である、と感じている。
被災地の市町村の首長も、職員も、住民も、上からの押しつけに抗う際に、「地方自治の本旨」を正面から訴えてほしい。
なお、ここでの「住民本位の地域」とは、総務省が進めている、国民の生活を守るための様々な基準を緩和する方向での「地方分権」とは全く方向性が異なることは言うまでもない。
また、「住民本位の、強い小さな地域」を創るためには、お金が大事である。
そのためにできることがある。それは「ふるさと納税」である。「ふるさと納税」を最大限活用し、被災地の市町村に資金の支えをしていく。私たちに出来る被災地の「地方自治の本旨」の実現のための支援の1つであろう。
*
社会が抱えていたさまざまな問題を、
改めて顕在化させることにもなった大震災。
住民自治や団体自治の崩壊も、
震災前からすでに始まっていた問題なのかもしれません。
上からの押し付けではない、「住民本位」の復興を後押しする。
復興支援を考えるときに、絶対に必要な視点だと感じます。
川口創さんプロフィール
川口創(かわぐち・はじめ)
1972年埼玉県生まれ。2000年司法試験合格。実務修習地の名古屋で、2002年より弁護士としてスタート。 2004年2月にイラク派兵差止訴訟を提訴。同弁護団事務局長として4年間、多くの原告、支援者、学者、弁護士らとともに奮闘。2008年4月17日に、名古屋高裁において、「航空自衛隊のイラクでの活動は憲法9条1項に違反」との画期的違憲判決を得る。刑事弁護にも取り組み、無罪判決も3件獲得している。2006年1月「季刊刑事弁護」誌上において、第3回刑事弁護最優秀新人賞受賞。現在は「一人一票実現訴訟」にも積極的参加。
公式HP、ツイッターでも日々発信中。@kahajime
著書に『「自衛隊のイラク派兵差止訴訟」判決文を読む』(大塚英志との共著・角川グループパブリッシング)