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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト
イ・ミョンバクが大嫌いでキャンドルデモに参加していた大分KCIAが「徴兵」に反抗しようと思い立ったのは、意外なことに日本に来たことがきっかけだったという。
「韓国にいる時は嫌だけど残念ながら行くしかないと思ってたんですよ。だけど日本に来て、日本人の友達と親しくなって、あいつらは自由に遊んだりしてるのになんで俺は・・・って。自由がないなーと」
韓国にいた時には出てこなかった発想だった。
「逆に韓国では徴兵に行くのが当然って感じなんですよね。でも、なんで徴兵に行くことを当然だと思うのかなって。行かないのが普通でしょ、ほんとは。逆ですよね」
そんな時、大分KCIAはあるサイトを発見する。カン・イソクという若者のサイトだった。86年生まれのカン・イソクは徴兵に反対し、韓国で様々な活動をしている人である。08年10月1日の「国軍の日」には軍事パレードの最中、全裸で戦車の前に立ちはだかるという抗議行動をして話題となった。そんなカン・イソクのサイトで文章を書いていたのがキム君だったのだ。キム君は言う。
「そこでは日本のこととかいろいろ書いたりしたんです。例えば今の日本では徴兵とかとんでもないことだって歴史認識もあるし、お前ら(韓国で徴兵を当然だと思っている人々)は明治時代の考え方に近いかも知れない、みたいなこと」
キム君の文章を読んだ大分KCIAは「日本にこういう人がいるんだ!」と感銘を受け、すぐにキム君にメールする。「私は日本の私立大学に通ってます。徴兵に行きたくないです。助けて下さい。どうすればいいですか」という内容のメールだった。それを読んだキム君は「PANDA」のサイトのアドレスを伝える。と、そのサイトを見た大分KCIAは「すごいハイテンション」になり、1週間後には大分から東京に飛んできたのだという。
しかし、メールのやり取りだけでいきなり「大分から会いに来る」という若者をキム君は当初、警戒した。もしかして「KCIAでは?」とまで思ったという。キム君は言う。
「でも大分って結構田舎らしいからKCIAではないだろうと(笑)。だけど、民間の保守メディアの人間かもしれないって周りの人と話して。それで名前も知らないから、とりあえずみんなで『大分KCIA』って呼ぼうってことになったんです(笑)」
本当にどうでもいいことだが、これが彼のハンドルネーム「大分KCIA」の由来である。ちなみに、日本への留学を考えていた大分KCIAはなんでわざわざ大分に行くことになったのだろうか。
「何らかの理由で、海外からの留学生誘致に熱心な学校が何ヶ所かあるんですね。それを韓国に業者がいて、その日本の大学を紹介してくれる。留学紹介所はそういう、学校を専門的に紹介する塾です。で、簡単な受験で、ほぼ自動的に行けるんですよ」
そんな大学に留学生を送り込むのが「留学紹介所」なのである。そういうのがビジネスとして成立してることを私はこれまで知らなかった。
そうして「九州の大分県、大分市の人口は50万人でワールドカップのスタジアムがあり、隣の別府市は温泉が有名」という情報しかないままに(自分でネットで調べたらしい)、大分KCIAは単身大分にやってくる。その2ヶ月後、キム君に「KCIAでは?」と疑われていることなど何も知らない彼はバスで17時間かけて東京にやってきた。キム君に会うために。
「レゴのTシャツを着ている19歳です」。それが大分KCIAがキム君に伝えた目印だった。そうして韓国から遠く離れた東京で、「徴兵が嫌だ」という思いを抱えた若者2人が出会ったのである。2人はすぐに意気投合。しかし、キム君は「危ないのが来たな(笑)」と思ったという。
「だって一緒に新宿歩いてたら、いきなり『俺はイ・ミョンバクを殺すべきだと思うんです』って言い出して(笑)。危ない発言ですねって言ったら、『あいつは民衆裁判で石を投げつけるべきです』って(笑)。びっくりしました(笑)」
大分KCIAは「冗談です(笑)」と否定するが、徹底したイ・ミョンバク嫌いであることだけは確かだ。ちなみに、彼から来るメールには、必ずと言っていいほど最後に「すべてはイ・ミョンバクのせいです」と書いてある。全然関係ないことまでイ・ミョンバクの責任になっているのだ。
そうしてキム君と会った6月、彼は韓国の徴兵制について考えるグループ「PANDA」(活動拠点は日本)に参加する。次に2人が会ったのは8月15日、一緒に靖国神社に行ったというから驚きだ。初めて靖国に行った大分KCIAは衝撃を受けたという。
「戦争が起こったのに、靖国に行くと当時の戦争をテーマにした色んな商品があるじゃないですか。売り物。それを見たら、うわー、今の時代までそんなの売りながら当時の戦争を美化しているな…こんな所なんだなって。」
ちなみに毎年靖国でマクドナルドを食べるというキム君は、靖国の自販機で「コーラを買おうとしたら売り切れだった(笑)」ことにもある種の衝撃を受けたようである。キム君は言う。
「参拝しに行くのではない、別に参拝客に失礼なことをするつもりもない。あの日はいろいろ集会があって靖国神社周辺はかなり危ないらしいです。靖国神社の敷地内が一番安全です。中には博物館とかもあって8月15日はいろいろイベントもやってるのでみるだけです。お互いアメリカナイズされたんだからコーラは自販機があるから買おうとしたけど売り切れでした。当時の日本軍に徴兵された人々がどういうふうに語られているかに関心があったんです。一般的に靖国神社に訪れた韓国人には『支配の歴史』を語らざる得ない立場がありますが、もちろんそれは重要です。ただ私は特に愛国者でもないし、それよりは『徴兵に行くのが当たり前だ』と思わざるを得なかった人々へ対するものを感じたんです。私みたいな人も当時いたはずでしょう。これは一応私個人の史観としていうことですが、かつて朝鮮人も徴用していた日本が今は徴兵のない国であります。韓国軍の徴兵論理は日本軍の徴兵論理と繋がっています。だから今日の日本を可能にした人々は少なくともその矛盾を知っているはずだから韓国軍の矛盾も分かってくれるのではないかと。で、私たちへの協力を個人レベルで試みるんです。『国際連帯』とかじゃなくてこれは私個人が今の状況においてできることを考え続けて至った結果です。例えば、雨宮さんが今私たちのことを取材して日本社会に知らせようとすることこそ、戦後責任の一つの形であるかも知れません。つまりこれは日本のためでもある作業でしょう」
大分KCIAもキム君の横でその言葉に頷いている。
そんな大分KCIAは、将来的には日本に住みたいと考えているという。
「日本って経済的にも人口的にも結構規模が大きい国じゃないですか。そんな国の中で、憲法に交戦権がないじゃないですか。それが非常に気に入ってるんですよ。韓国の憲法には兵役の義務が書いてあります。それに一応、戦争できる国じゃないですか。イラクとかアフガニスタンに派兵してるし。で、行かされてる人は、徴兵の中から志願者を募集するんですよ。お前ら給料もたくさんあげるからイラクに行ってくれって、徴兵された人の中から志願者を募って」
大分KCIAがさらっと言った一言に、「徴兵制がある国」の現実を垣間見た気がした。そして彼らは、まぎれもなくそんな現実の当事者なのだ。
(つづく)
●キム君がかかわっている「韓国の徴兵制について考える」グループ「PANDA」のサイトはこちら
●また、韓国の徴兵拒否者・忌避者に手紙やメールを出したい人、もしくはPANDAの活動に参加したい方はこちら 「翻訳配達担当、大分KCIA」まで。
※3月26日、キャバクラユニオンが歌舞伎町でデモをします! 18時に新宿東口駅前広場出発! みんな集合してね! 詳しくはこちらで。
※3月28日、「検証! 公設派遣村」というシンポジウムに出演します。13:30から四谷地域センター。来てね。詳しくはこちらで。
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