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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト
長妻大臣と山井議員と、「ナショナルミニマム研究会」の委員のみなさんと。私と湯浅さんは後列。
今回の原稿は、「マガジン9条」では今年最後のものになる。
ということで、09年を振り返りたい。
が、振り返る前にちょっと報告を。
12月20日、フリーター全般労働組合の組合員となりました!
「え、前から組合員じゃなかったっけ?」と思う方もいるかもですが、今までの立場は「賛助会員」だったのだ。賛助会員と組合員は、おそらく「責任」の重さが違う。日々、自らが貧乏で不安定なのにまったくのボランティアで組合活動に走り回る組合員たちの姿を見て「すごいな・・・。でも、自分にはできない・・・」と尻込みしつつ申し訳なさを感じていたのだが、今回、覚悟を決めて組合員にさせて頂いたのだ。で、フリーター労組の忘年会で加入申請書を出し、無事承認された。
きっかけは、先週まで連載してきた「ネットカフェからのSOS」だ。あの時、あまりにも鮮やかに対処し、カップル二人の生活立て直しに奔走してくれた組合員たちの姿に、何か激しく感動したのだ。同時に、カップル二人の笑顔がものすごく嬉しかった。労働/生存運動にかかわる人の中には、そんな瞬間が「病みつきになる」と言う人が多いのだが、私も何か「病みつき」になってしまったのだ。一回限りで終わらせたくない。自分もノウハウを知り、それを誰かの「生存」のために生かしたい。今、「死」まで追い詰められている人に対して、何かがしたい。そんな思いから、組合員となったのである。
で、そんな思いを抱えている人って実は多いと思うのだ。だけど「何かそういうこと始めると、生活全部を犠牲にしなくちゃいけないんじゃないの?」という思いで一歩を踏み切れないでいると思う。が、決してそんなことはない。私は今まで2件の申請に同行したが、普通は1日でなんとかなる。例えば月にたった1日、困っている誰かのために時間を使うことって、意外と多くの人にとって可能だし、現実味があることだと思うのだ。誰もが「24時間活動家」みたいになるのって無理だし、私は性格的に絶対になれないことがわかり切っているので自分のペースで活動できればと思っている。でも、なんかそういう「支援活動」への敷居の高さって絶対あるよね。で、そういう活動するんだったら「清く正しく美しく」みたいな、そんな人じゃないといけないんじゃないかみたいな。だけど、この数年フリーター労組とかいろんな支援者・活動家たちとかかわってきて、全然そうじゃないことがよくわかった。結果、「自分の様々な欲望を一切我慢する気のない」私でもできると思ったのだ。どのくらい欲望を我慢できないかと言えば、今月だけでヴィジュアル系バンドのライヴに5回くらい行っちゃってる、という事実を見て頂ければわかると思う。「仕事」も大切だし、「活動」も大切だが、私にとっては「遊び」や「睡眠」や「猫」が人生でもっとも大切なことである。そんな人間でもこうして支援活動とかにかかわれる、ということは、今、迷っている人の背中を押すはずだ。ちなみにネットカフェからSOSをくれたA君だが、先ほど「仕事が決まりました!」との喜びに満ち溢れまくったメールが来た! 本当に、本当に良かった!
また、組合員になったことには、前回も報告した通り、厚生労働省のナショナルミニマム研究会の委員になったことも影響している。どれくらいの期間この立場でいるのかまだはっきりしていないのだが、そういう立場にいる間、できるだけ「現場」の状況を伝えたいのだ。
で、ナショナルミニマム研究会の方なのだが、既に2回の会議を持った。が、これがまた高レベルすぎるというか、ある意味で「マニアック」すぎる議論の場なので、まだまだついていくだけで精一杯、という状態だ。が、リアルタイムにいろいろなことが「動いて」いる瞬間を目撃している。
さて、今年の大きな出来事と言えば、やはり多くの人がそうであるように「政権交代」だ。
しかし、それでプレカリアート・貧困の現場は変わったのかと問われれば、実態はやはりひどくなっているとしか言いようがない。
先月、大阪でビッグイシュー主催の「ホームレス会議」に出席したのだが、そこで衝撃的な話を聞いた。ホームレス経験がある元販売員の22歳の男性から聞いたのだが、東京の公園にいたところ、「黒服の男3人組」に「臓器を売らないか」と声をかけられたのだという。「取れるだけ取って1000万はカタい」などと言われたそうで、もちろん彼は断ったというのだが、もう応じてしまったら、果たして生還できるのだろうか・・・。
と、なんだか「どこか貧しく遠い国の話」だと思っていたことが、どんどん足元にひたひたと押し寄せている。この前も生活保護申請に同行したら(カップルとは別の件)、隣の窓口にいる若者と職員の話が聞こえてきて、どうやら「結核の恐れがある」ということだった。窓口にいた若者は恐らくホームレス状態。検査の結果結核だと判明したら、どこかに「隔離」されるのだという。
生活保護の申請絡みでは、最近、トンデモない事件も起きた。
11月16日、大阪で生活保護申請の様子をビデオカメラに収めた男性が、「職務強要」容疑で逮捕されてしまったのだ。御存知の通り、生活保護の現場では「水際作戦」が今もまかり通っている。それに対する自衛策として、やむにやまれずカメラを持参したことが「職務強要」罪とされてしまったのだ。しかも、その男性は今も拘置所に収容され、起訴までされてしまったのだという。男性は、インディーズメーデーなどを一緒にやってきた「ユニオンぼちぼち」の組合員。詳しくはこちらを御覧頂きたいが、フリーター労組の組合員となり、これから生活保護申請に同行する、という活動をやろうとしている私としても、とても他人事ではない話である。あまりにひどい対応に取材用のテープレコーダーなんかを回したら「職務強要罪」で逮捕、なんてことが自分の身に起こり得るかもしれないのだ。
ひどい話はまだ続く。12月18日、私は最高裁にある裁判の判決を聞きに行った。パナソニックプラズマディスプレイで偽装請負状態で働いていた吉岡力さんが起こした裁判だ。私と同じ年の彼は偽装請負を告発し、不安定労働問題が注目される大きなきっかけを作った人でもある。彼へのインタビューは私の本『プレカリアートの憂鬱』(講談社)に掲載されているのでそちらも御覧頂きたいが、正社員以外には健康診断もなく(仕事で鉛などを使うため、特殊健康診断が欠かせないのに正社員しか受けられない状態だった)、お父さんが亡くなって仕事を休めば時給を100円下げられ、偽装請負を告発すると一人だけ職場の片隅のテントに隔離されて「しゃもじ」とか「竹串」で作業させられる、というひどい扱いを受け続けた果てに起こした裁判である。08年には大阪高裁で「全面勝訴」と言える判決が出たものの、この日の最高裁の判決はがっくりくるものだった。
判決は、吉岡さんとパナソニックプラズマディスプレイの間には「雇用関係がない」という判断を下したのだ。判決直後、最高裁から出てきた吉岡さんは、最高裁に向かって大声で「こんな判決を出していいと思ってるのか!」と叫んだ。
判決文などについてはこちらhttp://www.yoshiokakai.org/で読めるので読んでほしいが、この判決は、偽装請負という違法行為や人間の「使い捨て」を容認するようなものではないだろうか。この数年、吉岡さんだけでなく多くの当事者が立ち上がり、裁判という形で今も闘い、不安定雇用の問題が注目されてきたわけだが、何かそんな時代の流れに逆行しまくるような判決。それは、私にとってもショックだったのだ。
と、「今年を振り返る」とか言いながら暗い話ばかりで申し訳ないのだが、最後に明るい話題を。12月、フリーター労組の「分会」として「キャバクラユニオン」が結成された!
113号の回でもキャバクラ争議に触れたが、当事者たちがとうとう組合を結成したのである。今まで、相談窓口も何もなかったキャバ嬢たちの「力になりたい」と、ここでも「困ってる誰か」のために動き始めた人がいる。
さて、そろそろ年末が迫ってきた。「今年は派遣村をしなくていいように」ということを新政権に求めてきたわけだが、どうなるだろうか。みんなも注視していてほしい。
※ 12月26日、築地本願寺の第二伝道会館にて「ガザ攻撃から1年 パレスチナに生命の光を!」と題されたイベントに出演します。午後2時から。問い合わせ先はアムネスティ・インターナショナル日本(03‐3518‐6777)。
臓器売買に結核、不当逮捕…
まさに「どこの国の話?」が現実として進行中。
2010年、状況を少しずつでも変えるのは、
「困ってる誰か」を助けたい、
そんな小さな思いなのかもしれません。
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