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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト

雨宮処凛の闘争ダイアリー
雨宮処凛の「生存革命」日記

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韓国・徴兵制なんて嫌だ!
ある若者の闘い。(その1)

 今回から、この「雨宮処凛がゆく!」内で、勝手に「連載」を始めさせて頂く。
 何回になるかはわからないけど、どうしても書いておきたいことなのでぜひ読んでほしい。
 きっかけは、韓国の徴兵制反対運動にかかわりながら、現在日本に留学中のキム・ソンハ君(25歳、某大学在籍)との出会いだ。
 御存知の通り、韓国では徴兵制が導入されている。一般的には18歳くらいで身体検査を受け、就職との兼ね合いから大学2年生の終わりに徴兵に応じることが多いらしい。徴兵期間は陸軍、海軍によって違いはあるがだいたい2年2〜3ヵ月。そこから大学に戻り、就職するというコースが一般的ということだ。身体的な問題があって徴兵が免除されない限り、韓国の男性はほぼ100%の確率で徴兵される。それが「韓流スター」であっても関係ないことは報道などで御存知だろう。そんな徴兵を拒否したらどうなるのか? 一年半の刑務所暮らしが待っている。
 更に問題なのは、「徴兵拒否・忌避」が「社会的な死」を意味するということだ。徴兵経験がない人間は、公務員にはまず間違いなくなれない。正社員になろうとしても、面接で落とされてしまう。「就職」そのものから弾かれてしまう。場合によってはコンビニバイトでも断られることもあるという。韓国社会では「徴兵拒否・忌避」はそれほどのタブーなのだ。

 私は昨年夏、韓国で徴兵拒否をし、1年4ヵ月を刑務所で過ごした若者に話を聞いた。「戦争のない世界」という団体で活動する彼は、平和主義というスタンスから「戦争の悪循環を絶つために自分にできることは、軍事技術や殺戮のための技術を学ばないこと」と思い、徴兵を拒否。そんな彼は、日本の9条を評価しながらも、「9条の影の部分が韓国の兵役拒否ではないか」という問題提起をしてくれた。9条が維持しえた理由は、東アジアの反共ラインが韓国に設定されているからではないか、そのために韓国では徴兵制が維持され、日本は軽武装で済んでいるのではないか、という指摘だ。だから韓国の兵役拒否の問題を、他の国の、自分には関係ないこととして考えないでほしい。彼はそう言った。

 その言葉が、ずっと私の中に残っていた。
 韓国では、08年に軍隊内で134人が死亡。うち75人が「自殺」だという。今年5月までの時点では31人が軍隊内で自殺。また、入営前に徴兵が嫌で自殺する若者も少なくないという。09年7月には、24歳の男性が入営日前日に農薬を飲んで自殺。少し前には「死ぬよりも徴兵が嫌だ」という理由でネットで知り合った若者たちが集団自殺事件を起こしたそうだ。更に数日前、徴兵令状が来た若者が、入営日の前日に飛び降り自殺したことが報じられた。自殺だけでなく、徴兵からなんとか逃れようと自分の身体を傷つける若者もいる。数日前、韓国では30人ほどが逮捕された。逮捕の理由は「医者に頼んで機械で肩を脱臼させてレントゲンを撮影した」ということ。そうすれば障害者ということで徴兵が免除されるため、多くの若者がものすごい痛みに耐えて特殊な機械で腕を脱臼させたのだ。

 日本では、韓国の若者がこれほど徴兵制に苦しんでいることなどまったくと言っていいほど知られていない。それどころか、自分が徴兵されたこともないオッサンなんかが偉そうに「韓国の若者は徴兵制があるから立派」で、「日本の若者を叩き直すためには徴兵制の導入を」なんてことをおぬかしになったりしている。じゃあお前が行け。

 ここで韓国の兵役拒否の歴史を振り返ると、初めての兵役拒否者は「エホバの証人」などの宗教者だった。「良心的兵役拒否」として、宗教者の観点から人殺しはできないという理由で拒否したのだ。その後韓国では、00年あたりから宗教者以外の兵役拒否者が登場する。「平和主義」や「軍の廃止」を掲げての兵役拒否だ。また、イラク戦争の際には、「イラク戦争に参戦する韓国軍には入らない」と軍人だった人が脱走して兵役拒否。00年代、こうした兵役拒否者たちが登場し、運動としても注目されるようになっていく。これが「第一波の韓国の兵役拒否者」たち。

 そして今回の主人公、キム・ソンハ君はとうとう登場した「第二波」だ。彼は「政治的なことはわからない」という。平和主義とか、軍の廃止などの「大義」を掲げているわけでもない。また、徴兵拒否者だけではなく、忌避する人の気持ちも重要だと言う。そんなキム君の見た目はというと、もう典型的な「もやし」系。色白で華奢で、「徴兵」とか「軍」とかの言葉の対極の印象。この人がもし徴兵されたら足手まといもいいとこだ、と誰もが確信するような軟弱系ボーイなのだ。
 そんなキム・ソンハ君が徴兵に反対する大きな理由は「バンドがやりたい!」。
 ちなみに彼は今、日本で念願のバンドを結成、ライヴはまだだがスタジオで練習を始めている。バンド名は「長崎中央郵便局」。韓国人とノルウェー人と日本人のバンドらしいのだが、バンド名の決め手は「長崎中央郵便局って、響きがカッコいいじゃないですか! 英語にしたらNAGASAKI CENTRAL POST OFFICEですよ! 超カッコいいじゃないですか!」と力説する。ごめん、そのセンス、私にはまったくわからない・・・。

 ここで「バンドやりたくて徴兵反対かよ」と思った全日本人に問いたい。
 若者がバンドがしたいのにできない、という状況にこそ「政治」があるのではないか?

 キム君は言った。
 「日本人が徴兵行けって言われたら嫌でしょ? そういう気持ちですよ。政治的な思想があるというよりは、バンドがやりたいとかそういうこと。だって韓国ではバンドのメンバー集めたら、必ず1人は徴兵に取られる。そっから始まってるんですよ。バンドが続かない。日本の映画とか見てて、一番うらやましかったのはバンドができるってことですね。あと、徴兵の話が出てこない」

 そんなキム・ソンハ君に、じっくり話を聞いた。乞う御期待!
(以下、次号)

キム君がかかわっている「韓国の徴兵制について考える」グループ「PANDA」のサイトはこちら。
http://panda1panda2.web.fc2.com/

「韓流スターが兵役へ」のニュースは伝えられても、
その「兵役」の実態については、ほとんど知ることのない私たち。
「徴兵制がある」ということは、ごく普通の人たちが、
「やりたいことをやる」自由を奪われるということでもある。
それは決して、「他人事」ではないはずです。
「その2」もご期待ください!

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