戻る<<

雨宮処凛がゆく!:バックナンバーへ

雨宮処凛がゆく!

090624up

あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト

雨宮処凛の闘争ダイアリー
雨宮処凛の「生存革命」日記

※アマゾンにリンクしてます。

不自由な国。の巻

 数日前、ある人のセッティングで鳩山由紀夫氏と会った。湯浅さんと一緒にだ。鳩山由紀夫氏を前に貧困問題について緊張した様子もなく淡々と語る湯浅さんは、ジーパンに思い切り穴が開いていたのだった。素敵だ。そして鳩山氏が、私の本をパラパラと開いて「プレカリアート・・・」と呟いた時、「鳩山由紀夫が『プレカリアート』って言った!」とちょっと興奮したのだった。以上。あとはまあ、御想像にお任せしますってことで。

 さて、この連載がまた単行本になった。今回のタイトルは『雨宮処凛の「生存革命」日記 〜万国のプレカリアートよ、暴れろ!〜』。昨年3月から今年の3月までの活動の記録をまとめ、更に「雨宮さんに質問!」「『労働』素朴な疑問 Q&A」を加筆した。

※アマゾンにリンクしています

 まとめられたものを読み返してみると、なんだか一年前のことなのに、遥か昔のような気がする。昨年3月、ガソリスタンドユニオンが結成され、5月にはゴールデン・メーデー・ウィークがあり、その直後には秋葉原で無差別殺人事件が起こり、その後にG8キャンプ、10月には麻生邸ツアーで逮捕者が出て、そして年末年始の年越し派遣村。
 そうして少しは貧困問題への理解が進んだかと思っていたのだが、またしても餓死者が出たことが報道された。三重県で53歳の男性が「衰弱死」したのだ。昨年6月に失業し、8月から生活保護を受給していたという男性は、日雇いの仕事が見つかったという理由で生活保護を打ち切られていたという。日雇いの仕事では不安定極まりないだろうということは誰にでも予想がつく。そして今年2月、再び生活保護を受けることは可能だろうかという男性の電話に、担当者は「本当に駄目になったら相談に来てほしい」と伝えたらしい。そうして4月、男性は死体となって発見される(09/6/18 読売新聞)。

 私の手元に、日本弁護士連合会の「生活保護法改正要綱案一権利性が明確な『生活保障法』に一」という資料がある。そこには、日本の生活保護の「捕捉率」についての記述がある。捕捉率とは、生活保護を受けるべき人がどれだけ受けられているかということだ。それによると、日本の生活保護の捕捉率は9〜19・7%。1〜2割の人しか受けられていないというのが実態だ。ちなみに同資料によると、「ドイツでは稼動年齢層に対応する『失業手当』の捕捉率は85〜90%、イギリスの『所得補助』の捕捉率は87%と言われています」とのこと。更に日本では、どれくらいの人が生活保護基準以下で暮らしているかなどの「貧困率調査」自体をそもそもやっていない。40年以上、中断されたままなのだ。これではどれくらいの人にどれくらいの支援が必要なのか、まったく見えてこない。というか、政府はやりたくないんだろう。が、これでは根本的な解決には絶対に繋がらない。

 さて、最近、カナダの女性と会った。私と同じ年の彼女は、私の文章を翻訳してくれるということで、ちょうど来日していたことから一緒にお茶を飲んだのだ。そこで日本との違いについてなど、様々考えさせられた。まず、カナダは医療費が原則タダ。これを聞いただけでも驚きだが、医療費が原則無料の国はカナダだけでなく、イタリア、オランダ、ギリシャ、スペイン、デンマーク、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランド、トルコなどなど(しんぶん赤旗09/6/21)。それ以外にもカナダの女性と話していて、羨ましさのあまり何度も溜息が出た。それは彼女の経歴による。大学を出た後、彼女は若いうちはいろいろな国を旅し、様々な経験をしたいと思い、日本や韓国で暮らしながら英会話の先生をしていたのだという。そうして30歳を過ぎて帰国。日本であれば、20代のほとんどを海外で過ごし、突然帰国したところで受け入れてくれる職場はあまりにも少ない。が、カナダではそういった経歴は就職するにあたってまっ・・・たく関係ないということだった。日本と韓国で暮らした経験のある彼女は、いかにこのふたつの国が新卒至上主義的な価値観に縛られているか、いかに「特殊」な状況であるかを語ってくれたのだった。ヨーロッパの人なんかと話しても、30歳くらいまでいろんな経験をしてそれから就職を考える、なんて話を結構聞く。翻って日本とは言えば、多くの若者が新卒でどこかの会社に潜り込まないと大変なことになる、と脅迫されているような状況だ。そうして若いうちだからこそ経験できる様々なことをすべて犠牲にしろと迫られているのは、非常に不幸なことだと思うのだ。

 最近、ある大学で話をし、そこでアンケートをとった。質問内容は「あなたは将来自分がホームレスになる可能性があると思いますか」。私の手元に戻ってきた62枚のアンケート用紙のうち、実に37枚が「イエス」という回答だったのには驚いた。そこには「新卒で正社員として就職できなければ、良くてフリーター、悪くてホームレス」などのコメントが書き添えられていた。格差社会は金銭的な「格差」を産むだけでなく、「若いうちに何かに挑戦してみよう」という「若気の至り」的なチャレンジ精神すらも阻害する。最近、大阪である若者と話した時もそれを感じた。彼は「やりたいこと」があり、アルバイトしながら夢を追いたいと思っているが、現在のネットカフェ難民などの惨状を見るにつけ、とても迷っていることを話してくれた。私の周りでも、バイトしながら夢を追い大成功した人もいれば、ネットカフェ難民となってしまったり、或いは自ら命を絶ってしまった人もいる。本当に、残酷なほどに「天国」と「地獄」が分かれてしまうのだ。そうして「夢を追ってホームレスになりました」というような人に、この国の人々はものすごく冷酷だ。だけど、「やりたいこと」をやろうとするその時に、ある意味で「ホームレス化」まで覚悟しなければならないなんて、やっぱり異常なことではないのだろうか。

 そんなもろもろを、カナダの女性と話して思ったのだった。私たちはとても、いびつで残酷な国で生きている。

プライムニュースで御一緒したカンサンジュンさんと上田紀行さんと。

「新卒で就職するか、ホームレスか」。
そんな二択が、まるで脅迫のような形で突きつけられる。
多くの若者が訴える「生きづらさ」の理由は、
そんなところにもあるのかも。
皆さんのご意見もお寄せください。

ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条