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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。「週刊金曜日」「BIG ISSUE」「群像」にてコラム連載。雨宮処凛公式サイト
本文とは関係ないが、高円寺でも「反乱」が。クリスマス粉砕デモ! 題して「スクープ! クリスマスはウソだった!」(08/12/24)。
新年そうそう、『フランス ジュネスの反乱 主張し行動する若者たち』(大月書店)の著者である山本三春さんと対談した。日本のプレカリアート的状況と、フランスの「プレカリテ(不安定性)」を巡る若者たちの闘い。その中で、なぜフランスの若者たちは「連帯」できるのに、日本では「連帯」自体が難しいのか、などを話し、とても貴重な対談となった。
06年、フランスでは初回雇用契約(CPE)が導入されようとした。26歳以下の若者を雇ったら、企業は社会保障負担を免除、実習期間は2年間に延長、その間は理由説明なしで解雇できる、という内容だ。一見、失業率の高い若者を「雇いやすくする」ような措置に見えるかもしれない。が、ル・モンドはこれを「前代未聞の労働市場規制緩和」と書いた。『フランス ジュネスの反乱』には以下のようにある。
「とりあえず若者を雇ってくれたら、企業負担は免除してあげる、しかも2年間はいつでも解雇してくれてかまわない、ということである」「企業は好きな者を好きなように短期で雇い、要らなくなったら使い捨てにしてよい、一方の労働者は捨てられたくなければ他人を足蹴にしてでも企業のために身を粉にして働き、理由不明でクビを宣告されたら文句を言わずに死になさい、ということである。/これはまるで、19世紀に逆戻りするようなものである。労働者が無権利で、奴隷のように働かされていた時代と変わらないのだ。/また、これはまるで、日本のようでもある。まともな契約書もないアルバイトや派遣労働で、休暇も保証されないまま昼も夜もこき使われ、ろくな給料ももらえず、要らなくなったらポイと捨てられる。いや、わざわざ企業が捨てなくても、労働者は勝手にすり切れて辞めるか、過労死や過労自殺で死んでいってくれる」。
異様に盛り上がるデモ。
そしてそれは、政府にとっても都合がいい。「短期であれ不安定であれ、とりあえず雇用の数さえ増えてくれれば、統計上の失業率は減るからである。"労働市場流動化"という看板の下に、不安定雇用と薄給に泣く"ワーキングプア"の群れが増大しようと、そんなことは知ったことではない。ついに失業を減らした、と誇ることができるわけである」。
まさにこの辺のことは、日本でも同じことが起こっていると言えるだろう。04年に製造派遣までが解禁され、その結果、ワーキングプアが増大し、不安定層が増えて、現在派遣切りでホームレス化が起こっているわけだが、規制緩和派は常に「失業よりはマシ」と、労働市場流動化を正当化し続けてきた。しかしその結果、今、私たちの目の前にあるのは働いているのに「失業以下」の生活実態、或いは不安定な働き方をすることによってホームレス化しやすくなっているという実情ではないのか。
吊るし上げられるサンタ。
が、フランスの若者は、CPEが導入されようとした時点で、そんな言い分に欺かれなかったのである。各地で百万人規模のデモが起こり、そこに労働者や教職員、父母も合流して、CPEを撤回させてしまったのだ。
詳しくは本を読んでほしいが、私がこの闘いにひどく感銘を受けたのは、フランスの「大人たち」が、ひどくマトモだということだ。例えば現在、日本でのプレカリアート運動に対して、「若者バッシング」的な視線を向ける上の世代は悲しいが少なくない。「フラフラしている」や「正社員になれ」的なものから「死ぬ気でやっているのか」的な精神論まで様々だが、フランスの大人たちは若者の闘いに「連帯」し、それが若者だけでなく自分たちの権利の問題だと深く理解している。連帯。一方、日本ではその反対の「分断」ばかりが進んでいるように見えて仕方ない。世代間の分断。また正規・非正規の分断。更に非正規内でも生存競争のもとに1人1人が分断されている。
パンクロッカー労働組合!!
山本さんとの対談中、フランスでは知らない人のいないという有名な格言を教えてもらった。それは「よりよく統治するためには分断せよ」という格言だ。ほとんどの人が「統治する側」ではなく「される側」だ。だからこそ、「分断」の「罠」にひっかかってはいけない。こんな皮肉を込めた格言が当たり前に知られている国と、「統治する側」が積極的に分断を煽り、本当にそれに煽られてしまうこの国。一体、何がフランスと日本でそれほど違うのかと尋ねてみると、「教育」という答えが返ってきた。あるフランス人は、日本の教育は「教育ではなく管理」だと言ったという。
そんな山本さんは年末年始、日本に帰国して「年越し派遣村」などを見て、いたく衝撃を受けたという。そうして彼女はフランスのある法律のことを教えてくれた。フランスでは、どんなに家賃を滞納していても、冬の間は追い出してはならない、という法律があるそうだ。普通の賃貸物件で家賃を滞納していても冬の間であれば堂々と居坐れるフランスと、会社の「寮」なのに、厳寒の中、放り出されてしまう日本。なんだか最近、本気で日本にいるのが嫌になってきた・・・。というか、日本で「自己責任」とか言うのが「普通」のことになってる人たちは、それだけいろいろなものを奪われているのかもしれない、と改めて思ったのだった。この十数年の間にあまりにも殺伐としてしまったこの国の空気に過剰適応している、というか。
ギリシャ騒乱! 高円寺騒乱!
今週の「この人に聞きたい」でも、
鎌田慧さんが「連帯」の必要性を指摘しています。
統治する側の思うつぼにはまって「分断」するのでなく、
立場の違いを超えて手をつなぐことが、
状況を変える一歩になるはずです。
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