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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。「週刊金曜日」「BIG ISSUE」「群像」にてコラム連載。雨宮処凛公式サイトhttp://www3.tokai.or.jp/amamiya/

生きさせろ!
雨宮処凛の闘争ダイアリー

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現代を読み解く素晴らしき漫画の世界。 の巻

ビッグイシュー5周年記念パーティーで生田武志さんと。
ビッグイシューではずっと「世界の当事者になる」という連載をしてます。

 最近、最新号が発売された「小説トリッパー」にて、「漫画が描きだす若者の残酷な『現実』」という原稿を書いた。

 この原稿のため、本当に様々な漫画を読んだ。
 『僕の小規模な失敗』『僕の小規模な生活』『ソラニン』『闇金ウシジマくん』『わにとかげぎす』『シガテラ』『ヒメアノ〜ル』などなど。

 これらの漫画に共通するのは、基本的に金がない上に友達もいなくてもちろん恋人もいない上、更に仕事もない(あっても使い捨て系の不安定雇用)モテない男が悶々と悩んでいる、という、まぁ、聞いただけで某無差別殺人者の顔が浮かんできそうな、そんなストーリーが多いという点だろう。

 怖かったのはやはり「闇金ウシジマくん」の「フリーターくん」だ。30代、時々日雇い派遣。日給6700円。建設現場などで働くが、派遣先では「フリーターだかなんだか知らねーが、税金納めてねー奴はよ、堂々と公道歩くんじゃねェーよ!」と罵倒される。
 同級生は既に結婚して子どもを持ち、家のローンに追われる日々。が、30代で、今さらどうすればいい?

 「働き口はどうせ不安定なキツイ単純労働。コキ使われて擦り切れて、いらなくなったら捨てられる。何をやっても無意味に思える」
 そんな「フリーターくん」は気がつけばネットカフェ暮らしに。が、日雇い派遣で腰をいため、働けなくなる。所持金が尽き、ホームレスの炊き出しに並ぶ「フリーターくん」。野宿すれば少年たちにカツアゲされる。家族はと言えば母親はヤミ金に手を出し、実家は既に人手に渡っている。引っ越した先の団地に帰りたくても親に暴力をふるってしまったので帰れない。

 なんだか書きながら凹んできた・・・。が、現代の漫画には、こんな厳しい現実を描いたものがあり、それがものすごーく沢山の若者に読まれているというわけだ。
 先に名前を出した漫画の主人公は大抵、傷つきたくないからできるだけ他人とかかわらず、「のし上がる」系の競争にははじめから不参加、「夢」を持ったところでそれは試されることはなく、底なしに自信はないくせにプライドだけが高く聳えたち、それを自分自身で持て余している。他人も社会も働くことも何もかもが怖くて、「傷つけられること」を何よりも恐れている彼らの、不発な青春の物語。

 で、この原稿を書いて以来、すっかりそんな不発系漫画にハマり、毎週のように男性漫画週刊誌を買っている。なんというか、反「課長島耕作」ぶりが素晴らしいのだ。って、島耕作、読んだことないけど。でも、経済成長世代が勇気づけられる島耕作って、一言で言えば、たぶん仕事バリバリして夜の街でブイブイ言わせて、みたいな話なんでしょ? 不発系漫画は、その真逆を行く不発ぶり! こういう断絶を見るにつけ、「最近の若者には、何糞! という気持ちが足りない」なんて説教には、外国の天気予報くらいの価値しかないことを再確認する。とりあえず、これらの漫画の主人公の誰1人として、絶対に麻生と対談などしない(させてもらえない)ということだけは断言できる。

 さて、そんな不発感を描く男性漫画に比べて、女性漫画の方はというと、なかなか「厳しい現実」を描いたものは発見できなかった。どうやらまだ女子の世界では、現実が厳しいからこそ、「恋愛」→「結婚」=「アガリ」的な物語が物語として機能しているっぽい。が、一部投稿系実話漫画には、あまりにもリアルな女子の世界が広がってもいる。この辺、詳しくは「トリッパー」を読んでほしいのだが、元ネットカフェ難民の夫婦からの投稿、なんてのもあるのだからすごい。

 さて、そんな女子漫画でも、『臨死!! 江古田ちゃん』の世界はリアルだ。私は江古田ちゃんの以前からの愛読者なのだが、24歳の地方出身者で非正規雇用者である江古田ちゃんの日常には、いたるところに非正規雇用者の悲哀が滲む。例えば、派遣会社の登録会の筆記テスト。テスト内容は「おおいたけん」を漢字で書きなさい、などのトンマなもの。正社員のサクセスストーリーを延々と聞かされ「おじぎの練習」をさせられるという「自尊心殲滅プログラム」を受ける。日雇い派遣では講演会の設営の仕事をするが、その講演会は「日雇い派遣・ワーキングプアを考える ゲスト ○村○蔵議員」・・・。あまりにもリアルだ・・・。

 そんなふうに、現代の漫画を「プレカリアート」的視点から読むのも面白い。最近嬉しかったのは、『ヤングマガジン』で連載されている「ユキポンのお仕事」という漫画にデモの描写があり、そのデモのプラカードには「自由と生存」という言葉があったり、鉢巻きには「プレカリ」の文字があったりしたこと。デモ隊の若者たちは「金払え」「生きさせろ」なんて叫んでいる。賃上げ交渉に失敗した主人公の猫は、それを見て「いいなぁー」と呟くのだ。漫画の世界にプレカリアート運動が描かれることはなんとなく、嬉しい。

 さて、9月19日に発売される「週刊金曜日」に、8月、韓国で取材してきたモロモロを書いた。トリッパーと合わせて、こちらもぜひ読んでほしい。

雨宮さんが挙げている「不発系」漫画の数々、
「リアル」「共感できた」という読者の声が多いのも、共通点の一つかもしれません。
漫画はふだん読まないという方も、一度手に取ってみてはどうでしょう。

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