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2013-07-10up
金繁典子/女性と政治と社会のリアルな関係〜スウェーデンの現場から〜
【第4回】スウェーデンの選挙制度にみる「平等」のあり方
日本では参議院選挙がたけなわ。同じ「選挙」でも、その仕組みや国会の事情はスウェーデンでは大きく異なる。
日本では国会議員に立候補するのに300~600万円の供託金(*供託金は、定められた得票数に満たない場合は没収される)が要求される。こんな高額のお金を集めなければ立候補できないのであれば、経済的基盤の弱い女性や若者らが立候補することは困難で、その立場を国会で代弁し、改善政策を実現することはほぼ期待できないだろう。
スウェーデンで出会った人たちにこの高額な日本の供託金制度について話すと、どの人もとてもびっくりしていた。「ありえない・・」と首を振る人も。スウェーデンでは供託金は不要。署名(1500人)を集めれば新しい政党を登録もできる(登録しなくても組織として選挙に出られる)。自分の考えを周りの人に話して、同意する人がその人を支持して政治的意思決定の場に送り込む。立候補の機会の平等、いわば民主主義社会として至極自然な姿ではないだろうか。
また、女性や若者、社会的弱者の声が政治に反映されにくい小選挙区制もなく、比例代表制だ。実際、スウェーデンの国会議員の平均年齢は47歳と、日本の51.8歳(衆議院議員)を約5歳も下回る(両数字とも選出時)。
そして各政党内で選挙名簿をほぼ男女交互にして国会でのジェンダーバランスを確保している(45%)。これを可能にしているのは、このコラムの第1回でもふれたように、党派を超えた女性の連帯だ(スウェーデンには法律としてのクオータ制はない)。
スウェーデンの現内閣(中道右派の連立内閣)における女性の割合は、54%と国会全体の割合(45%)を上回る。自由党の女性組織(Liberala kvinnor)メンバーであるアミー・クロンブラド(Amie Kronblad)さんによると、首相はじめ現内閣の財務大臣ほか自由党の閣僚は全員、自分はフェミニストだと公言しているという。
この、国会議員が自分をフェミニストと公言しているかどうかは、女性たちの注目を集める。ヨーテボリ大学のジェンダー研究所(Swedish Secretariat for Gender Research at University of Gothenburg)所長ケルスティン・アルネブラト(Kerstin Alnebratt)さんによると、「フェミニスト・ムーブメントがあった90年代後半には、ジャーナリストが議員に『あなたはフェミニストですか』と質問し、ほぼすべての議員が『イエス』と答えていた。その後2005年をピークに増減の波があるようだが」。
国会議員が「自分はフェミニストだ」と言ったかどうかを女性たちとメディアがモニターし、共有して議員の資質の判断資料のひとつにする。これもスウェーデン女性たちの連帯の強さの現れだろう。政治家に女性票を意識させることがしっかりとできているからだ。
●自分の人生と社会を形づくるために、
一人ひとりが平等な力を持てるように
スウェーデンのジェンダー平等の理由を探っていくと、女性だけでなく若者や子ども、高齢者、すべての人の平等と民主主義をしっかりと実現することに、市民、政治、行政が絶えず努力していることに行きつくように思う。
スウェーデン大使館二等書記官のスサン・ベール(Susan Beer)さんによると、スウェーデンでは皆が自分の人生を幸せに生きていくために、そして社会を形づくるために一人ひとりが平等な力をもつべきだとされている(Equal power to shape society and one's life)という。
そして教育の中で平等や民主主義をただ教えるだけでなく、実際に実践する。子どもの声は大人と同様に尊重され、子どもたちに関する事項の決定に関われるべきとされている。例えば、小学校から高校まで、学校において子どもたちによる選挙を実施して理事を選出し(もちろん子どもたちが理事だ)、理事会をつくる。理事会は学校のマネジメント(つまり校長など)に対し、学校や教育について改善すべき事を求めるという。もし学校側が理事会の求めに対処しない場合には、理事たちはメディアに呼びかけて記事にしてもらったりして改善していくという。自由で質の高い、オープンなメディアの存在も民主主義社会の健全性を担保するという。
スウェーデン内閣の閣僚たちの中には、このように学校で理事をしていた人がかなり高い割合でいるのではないかしら、と話してくれた。
スウェーデン大使館二等書記官のスサン・ベールさん
このようにスウェーデンの国会を構成する国会議員は、教育の無料制度による平等な教育の機会を得て、ジェンダー平等や民主主義について充分に学び体得し、市民との議論を通じて署名を集めることができたすべての人の中から、平等の立候補の機会を通じて選ばれている。つまり、普通の人が議員になり、大臣になっている。
何年か前、ボルボ・カーズやサーブ・オートモービルといった国のアイコンともいえる企業が破綻に追い込まれた時、そこで働いていた人たちのセーフティーネットを確保しつつも、破綻企業に公的資金を投入しなかったことも、この平等政策とつながる(*1)。企業が破綻するのは市場に必要とされなくなったから。しかしそこで働いていた人たちは、セーフティーネットと教育の充実により、新たな革新的な市場を将来に生みだす原動力となりうる。
かたや日本の状況――立候補には多額の供託金、厳しく規制された選挙運動、当選後は公約違反もめずらしくない。女性やマイノリティーに不利な小選挙区制度…をみれば、平等で暮らしやすい社会への道のりは遠そうで、暗たんたる気持ちになりかける。
しかし、日本においては、女性の人口は男性よりもやや多いという現実もある。女性が連帯して女性票の影響力を高めれば、女性議員を増やすことは可能であり(共感する男性票も加わればさらにパワーアップ)、女性議員が増えれば社会は人にやさしい方向に変えられると希望を持っている。
3・11以降、ドイツを脱原発に導いたドイツ政府原発問題倫理委員会の委員をつとめ、昨年12月に来日して「脱原発世界会議」の女性と政治の講演会『原発ゼロへ 女たちが手をつなぐ―日常のモヤモヤから政治へ』に参加してくださったベルリン自由大学教授ミランダ・A・シュラーズ(Miranda A Schreurs)さんが、立教大学名誉教授五十嵐暁郎さんとの著書『女性が政治を変えるとき』(岩波書店)のなかで女性の政治と男性の政治の違いについて述べている。
女性の政治は環境、福祉、医療、教育、文化、人権、平和などの「ソフト」な政策が中心で、その中核にある価値は生活、生命、人生である。これらは脱工業化時代に典型的な政策で、コミュニティー全体の利益を増進する。対して男性の政治は公共事業などの「ハード」な政策が中心で、高度経済成長期の時代を背景とし、利益や利権を争奪、党派的な利害関係に根差す。
だからこそ、大災害からの復興や脱原発、エネルギー政策など、将来の社会にとって重要な課題を考えるときに、女性がリードする政治に注目すべきと。
それでも「女性議員が増えればいいというものではない、中身は男性と同じような女性議員がいる」という声が聞こえてきそうだ。たしかにそのような議員は存在する。しかし、上智大学教授三浦まりさんが指摘されるように、女性議員の割合が20%に達するまでは「地獄の数字」と言って、女性同士がライバルになったり、批判されたりして、女性の力をなかなか発揮できない。まずは20%を超えることが肝要だ。(*2)
シュラーズさんが指摘する女性と男性の政治の違いは、日本で国会議員が国会でどんな分野の政策について質問しているかを男女別に調べた調査結果にも如実に表れている。「子育て支援」(女性が男性に比し40ポイント以上多い)、「男女共同参画」(同30ポイント以上)、「年金、医療」(同20ポイント以上)(*3)。
生まれてきた一人ひとりが平等に、幸せに生きていける社会の実現は、女性の政治参加にかかっているのではないだろうか。そのためには、まずは選挙に行くことが大事になる。だから、選挙に行こう! 自分の意思で投票しよう。
*1)平等政策とともに、自由取引と構造改革政策に基づく( free trade and structural reforms )
*2)三浦まり氏講演「なぜ女性議員を増やすべきか」(主催:(公財)市川房枝記念会 女性と政治センター)より
*3)『国会議員の政治意識と政策志向調査報告書』2013年3月政治家と政策研究会より。
ストックホルムから船で3時間、飛行機で40分のほどのところにあるゴットランド島。ここで毎年7月に1週間、首相はじめ全国から多数の政治家、ロビイスト、ジャーナリスト、市民、NGOらが自主的に集い(政府主催ではない)、政治について語り合うAlmedalen Weekが催される。今年の参加者は約20,000人。1,000の各団体、市民が2,285のイベントを催し、700人のジャーナリストが参加。1968年、当時のパルメ首相の呼びかけではじまったこの政治週間は、人と人が党派も超えてつながってネットワークをつくる重要な機会にもなっている。「スウェーデンの議員は、議員でない人たちと身近に交流できることを望み、市民の側も政治家から直接意見を聞いて話し、政治を評価するよい機会になっているのでは」とベール二等書記官。http://www.almedalsveckan.info/1100
スウェーデン大使館二等書記官のスサン・ベールさんへのインタビューの終わりに、「スウェーデンの人たちが大切にしている理念は何でしょうか?」と質問したところ、「平等」という答えがかえってきました。なるほどと納得しつつ、私たち日本人に同じ質問を海外の方からされたら何と答えるか? 胸をはって「平和」と答えたいところですが…。
次回はいよいよ最終回。金繁さんがスウェーデン滞在中に出会った、市民団体やNGOの方たちのインタビューから、彼らが考える「豊かさ」について。そして、私たちが目指す「豊かさ」への実現に向けたヒントを探ります。お楽しみに!
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金繁典子さんプロフィール
金繁典子(かなしげ・のりこ)
1963年愛媛県生まれ。生態系豊かな自然のもとで、昔ながらの無農薬農業を営む地域に生まれ育っていたが、農薬や合成洗剤が使用されはじめて川や森の生態系が急速に失われていくのを目の当たりに。同時に農業と家事・子育てに大変な農家の「嫁」たちから、女性が自立する大切さを伝授される。男女平等にもっとも近く、高福祉社会のひとつであるスウェーデンで、それを達成した市民の意識を知るため2012年夏に滞在。NGOや市民にインタビュー。国際NGO職員。