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世界から見た今のニッポン

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第41回

米国下院で、日本政府に「従軍慰安婦」に関する公式謝罪を求める決議案が通過。
そのころ、もう一つの「敗戦国」ドイツでは、
こんなことが起こっていました。。

環日本海経済圏と日本(芳地隆之)

芳地 隆之(ほうち たかゆき) 1962年東京生まれ。 大学卒業後、会社勤めを経て、東ベルリン(当時)に留学。 東欧の激変、ベルリンの壁崩壊、ソ連解体などに遭遇する。 帰国後はシンクタンクの調査マン。 著書に『ぼくたちは革命の中にいた』(朝日新聞社) 『ハルビン学院と満洲国』(新潮社)など。

 6月12日、ベルリンの大統領府で、戦時中のドイツによる強制労働被害者への補償金完済を記念する式典が行われました。
http://www.tagesschau.de/aktuell/meldungen/0,,OID6909538_REF1,00.html

第2次大戦中のドイツ国内、もしくはアウシュヴィツなど国外の強制収容所で労働を強いられた人々の数は約1,000万人に上ります。その多くは旧ソ連諸国の出身者。彼(女)らはドイツの軍需産業のために最低賃金で働かされました。

こうした過去を償うことを目的に財団が設立されたのは2000年のことです。1990年代後半、当時の被害者が相次いでアメリカの裁判所に集団訴訟を起こしたのがきっかけでした。訴訟相手は、フォルクスワーゲン(自動車)、AEG(家電)、ジーメンス(電機・通信)など。世界に名だたるドイツの大企業が強制労働に関与していたことが明らかになったのです。ドイツの産業界はこれに対して、ドイツ政府とともに50億マルクを拠出し、財団「記憶、責任、未来」を立ち上げました。

過去6年の間に補償金が支払われた被害者の数は約170万人。その額は被害の種類によって2,500~7,500ユーロに分けられ、総額で43億7,000万ユーロに達しました。

財団が設立された当初から、それ以前に亡くなった被害者の家族などが補償の対象とされていないことなどへの批判がありました。それに対して、元ドイツ自由民主党党首で、財団の理事会副会長を務めてきたオットー・ラムスドルフは「これはあくまでも被害者本人に支払われるものであり、遺産のような扱いはできない」との立場をとっています。

理事会内のポーランド代表(財団理事会にはポーランドやアメリカなど、外国の理事もいます)、マリウス・ムチンスキは、財団の活動におおむね満足しているが、金銭的な補償はあくまで象徴的なものに過ぎないと言います。ムチンスキは、50万人に上るポーランド人の強制労働被害者のうち、最高額の7,500ユーロを受け取ったのはわずか4万3,000人だったことを指摘し、「財団の残りのお金(約3,000万ユーロ)は人道的なプロジェクトに使われるべきである。われわれは急がなくてはならない。そうしないと被害者たちはみな亡くなってしまう」
http://www.spiegel.de/politik/deutschland/0,1518,487831,00.html

ドイツ政府は今後、財団設立法を改定し、評議会をスリム化する考えのようですが、財団は強制労働に関する研究プロジェクトを続けていくといいます。

ケーラー・ドイツ連邦大統領は、大統領府で行われた式典の開会挨拶の最後で、平和と和解への道は「苦々しくも避けては通れない」ものだったとし、 「(過去の)苦しみは償いうるものではない。(ナチスドイツによる)犯罪の被害者がお金によって本当に報われることはありえないだろう」と述べました。そして、こう強調します。 「しかし、苦しみを苦しみとして認めたことが財団の成果だったのではないか」

ケーラー大統領の言葉には、加害国として過去と向き合おうとする意思、そして過去の行いを忘却することは許されないという自覚が感じられます。

歴史に対する謙虚な姿勢をもち続けてきたからこそ、ドイツは隣国からの信頼を得てきたのでしょう。旧東欧諸国をメンバーに加えた拡大EUのなかで政治的にも経済的にも中心的な役割を果たしているのは、この国が自らの歴史観を世界に向かって表明してきた「成果」だともいえます。

「過去に目をつむる者は未来に対して盲目になる」と語ったのはヴァイツゼッカ―元ドイツ連邦大統領でした。

トップの言葉はときに国内外に向けた重要なメッセージになります。

日本も1995年に女性に貯めのアジア平和国民基金を設立し、元従軍慰安婦の方々への補償を行ってきました。ところが、基金の活動が終わろうとしたとき、「従軍慰安婦が日本軍に強制されたという証拠はなかった」と国のトップが言いました。それに対してアメリカから非難の声が上がると態度を一転、あわてて謝罪するという一幕つきです。

しかも、話はそれで収まらず、6月に入ると、与野党の国会議員約40人がワシントン・ポスト紙に、決議案は「現実の意図的な歪曲」と反論する意見広告を掲載しました。

これでは安倍首相が何のために謝罪したのかわからない。結局、同月26日、米下院の外交委員会は旧日本軍の慰安婦問題についての決議案を可決しました。これに関して、安倍首相自身はノーコメント。

諸外国の信頼を著しく損ねる一連のドタバタ劇はいったい何なのでしょうか。 敗戦国でありながら奇蹟の復興を果たした――こういわれ続けた日独両国ですが、戦後60年以上が過ぎた現在、日本の先を行くドイツの背中がまた小さくなったような気がします。

「加害者」としての過去と向き合おうとするドイツ、
そこから目をそらし、否定し続けようとする日本。
国際社会からの信頼を得られるのは、果たしてどちらの姿勢なのか。
皆さんのご意見をお待ちしています。

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