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日本の憲法9条のこと、海外からはどう見られているのでしょう。
今回は、第2回で掲載したドイツの徴兵制の話を受けて、兵役を拒否し、
日本で社会奉仕活動をしているドイツの若者の声を、芳地隆之さんがレポートしてくれました。
日本ではあまり知られることがない彼らの生の声をとらえた、貴重なレポートです! 


第4回
ドイツ
日本で兵役外労働に就くドイツの若者たち その1

「兵役より社会奉仕活動の方がコストは安い」芳地隆之
ほうち たかゆき 1962年東京生まれ。
大学卒業後、会社勤めを経て、東ベルリン(当時)に留学。
東欧の激変、ベルリンの壁崩壊、ソ連解体などに遭遇する。
帰国後はシンクタンクの調査マン。
著書に『ぼくたちは革命の中にいた』(朝日新聞社)
『ハルビン学院と満洲国』(新潮社)など。
彼らが日本にやってきたわけ
ドイツでの兵役拒否の3人
写真左から
ダニエル・ザイデ(Daniel Seyde)1981年ベルリン生まれ
ガブリエル・クルーゼ(Gabriel Kruse)1985年リューベック生まれ
マルクス・ケーニヒシュタイン(Markus Koenigstein)1984年フランクフルト生まれ

 ドイツでの兵役を拒否したマルクス(20歳)とガブリエル(19歳)は、それに代わる社会奉仕活動として、現在、東京都町田市にある社会福祉法人「共働学舎」で働いています。
 日本とドイツの間でワーキングホリデー制度が導入された2000年に、共働学舎が日独平和フォーラムという団体からドイツの兵役拒否者の受け入れを頼まれたのが始まり。共働学舎は彼らに宿泊場所と食事を提供し、彼らは施設の仕事(障害者のケア、空き缶のリサイクリングなど)をして生活費を得る。これまで共働学舎で働いたドイツ人は20人近くになります。
 23歳のダニエルは数年前に協働学舎で兵役外労働についており、現在は電気工学を専攻する大学生。今回は来日中のダニエルを交えて、3人からドイツの兵役制度や平和の問題について話を聞きました。
――どうして日本で兵役外労働をしようと思ったの?

マルクス

日本に興味があって、12歳のときに
日本語の勉強を始めたんだ。それから7年続けていたけど、
一度も日本に行くチャンスがなかった。
そんなとき、兵役外労働を日本でできる制度を知って、
すぐに申し込んだ。
マルクス小さい頃から
日本に興味を持っていた
というマルクス
――基本的にどこの外国でも兵役外労働はやれるわけ?
マルクス ワーキングホリデー制度を結んでいる国ならね。
あとはその国に受け入れ機関があるかどうか。
ダニエル ドイツの兵役外労働を担当する局に、
ドイツ人の奉仕活動を求める外国のNGOやNPOから
申し込みがあるんだよ。
日本の場合、それが日独平和フォーラムだった。
いまは(日本でも)いくつかの団体が
受け入れているみたいだけど。
――兵役を拒否する際の手続きは?
ダニエル A4用紙2〜3枚に理由を書く。
たとえば「祖父が戦争で亡くなったから」とか、
その他いろいろと。
――拒否の理由を厳しく審査されることはない?
ダニエル いまは細かく問いただされることはないね。
たいてい認められる。
マルクス ぼくはそうでもなかった。
ダニエル どうして?
マルクス 書く枚数が少なすぎた(笑)。
――兵役を拒否すると就職に響くって聞いたことがあるけど。
ダニエル ない、ない。
マルクス むかしはあったかもしれないけど。
ダニエル 就職先の社長の好みはあるかもね。
軍隊好きの社長なら(良心的兵役拒否者は)
雇ってくれない(笑)。
普通は面接で
「ああ、兵役外労働を経験したんだね」っていう程度。
採否に影響することはない。
――どのくらいの若者が兵役についているの?
ダニエル 最新の統計は知らないけれど、
成年男子の30%くらいじゃないかな。
少ないのは、政府が兵役についた彼らにお金を払わなくちゃ
ならないという事情もある。宿泊施設や食事とか。
徴兵検査には
T1〜T4のレベル(甲乙丙丁のようなもの)があって、
ぼくのとき(2001年)はT3で合格だった。
いまではT2までが対象で、
T3以下は兵役(も兵役外労働も)免除。
T3だって、別にたいしてことじゃないんだよ。
ぼくの場合、ちょっと背骨が曲がっているという診断。
といっても、医者に行く必要もなかったしね。
ちなみにT1というのは空軍パイロット候補。
T1合格者は兵役につく者のうち2〜3%くらいかな。
――君たちが兵役を拒否した理由は?
ダニエル 社会奉仕活動を経験していた方が将来のためになるからさ。
軍隊にいるより、障害者のケアや
病院での補助の仕事の方が意味があるじゃない。
自分が平和主義者であることはもちろんだけど、
そもそも兵役で入隊してもあまりやることがないんだよ。
最初の2〜3カ月は基礎教育で、その後は
スポーツなどの身体訓練。
身体訓練はそれなりにきついけど、
それからは個別の部隊へ配属。
陸軍に配属されればやることは多いかもしれない。
でも、戦車整備部隊なら戦車の修理くらい。
それで9カ月が過ぎちゃう。
――射撃訓練はするでしょ?
ダニエル それは最初の基礎教育で(やる)。
その後の訓練は部隊によって違う。
今、ドイツでは兵役はなんのためにある?
――ドイツ政府はそれほど兵士が必要ないのかな?

ダニエル

ないと思う。
マルクス でも、兵役外労働がなくなったら政府が困るんじゃないか?
社会福祉の仕事はいつも人手不足。
それを兵役外労働で補っているんだから。
ぼくたちだったら安いコストで済むし。
ダニエル だから「徴兵制ではなくて社会貢献活動制度に変えよう」
という話が毎年出ている。
ただ、すぐにはなくならないだろうね。
マルクス そうなったら(社会貢献活動制度が導入)されたら、
女性にも義務づけないとフェアじゃない。
ダニエル マルクスの持論だよね。
この問題については男女同権じゃなければ
いけないっていう。
ガブリエル (兵役義務期間が)どんどん短くなっている。
むかしは13カ月、それが12カ月になり、
いまじゃ9カ月(国外で兵役外労働に就く場合は11カ月)。
さらに6カ月にするという話もあるんだ。
ダニエル 9カ月より短くすると兵役の意味が
なくなっちゃうんじゃないか。
ガブリエル 兵役はいらないという意見もあるけど、たとえば
兵役義務のないアメリカだと、兵士になりたくないけど、
それ以外に仕事がないから、軍隊に入隊する人がいる。
ドイツでは学校の成績が優秀なやつだって兵役の義務がある。
どっちがいいんだろう?
ガブリエル19歳ながら、
世界の情勢を敏感に
とらえているガブリエル
――マイケル・ムーア監督もそんなこと言ってたよね。
ダニエル 『華氏911』でしょ。
――彼はあの映画で「イラク戦争に行くのは貧しい階層の人間ばかりで、
  国会議員の息子で出兵しているのはたった1人。
  もしアメリカに兵役義務を導入すれば、
  政治家も戦争についてもっと慎重に考えるんじゃないか」と。
ダニエル 自分の子供を戦場に行かせたくないというのはわかる。
だけど、そういう人に、戦争に関わる決定をしてほしくない。
開戦を決める立場の人間なら、
子供を戦地に送ることを誇りに思うべきだ。
「息子はお国のためにイラクに行っている」って。
でも、実際は違う。
ダニエル協働学舎での
兵役外労働を終え、
今はドイツの大学で
学んでいるダニエル
――ドイツは兵役についてどう考えているの?
ダニエル ドイツでは戦後、軍隊をもつ際に
「職業軍人だけだと同じような考え方の人間が
集まって閉鎖的な集団になる。
だからいろいろな人間を軍隊に入れるべきだ」と考えた。
それで兵役制度をつくったんだと思う。
(軍隊が)社会とかけ離れた存在にすると危険なので、
常に新しい人間を入れようということ。
つづく・・・
ざっくばらんに語る彼らのことばからは、ドイツの今がリアルに伝わってきます。
次回は、「兵役義務」という制度に直面してきた彼らの目から見た、
今の日本や憲法9条について、引き続き語っていただきます!
 お楽しみに!!
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