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いとう・まこと 1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。著書に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)ほか多数。法学館憲法研究所所長。法学館のホームページはこちら。
*アマゾンにリンクしてます。日本にとって「地位協定」Status of Forces Agreement、(SOFA)といえば「日米地位協定」です。この不平等協定によって、基地の密集する地域、沖縄や横須賀では、様々な犯罪が見逃されてきましたし、犯罪も後を絶たないという現状があります。他人事ではないこの協定について、さらに考えていきましょう。
A21そのような趣旨の発言は、平成21年6月16日参議院外交防衛委員会において、民主党の白眞勲議員が、海賊対処法案に対する参考人質疑において行っています。
「・・・・、今後、アメリカに対して日米地位協定の改定というのを求めていったときに、このジブチ協定との関係で、おまえらダブルスタンダードではないかというふうに言われかねないのではないかな・・・・」
確かに、日本は不平等条約としての日米地位協定を押しつけられています。これはアメリカが日本の刑事司法を一人前として見ていないことに原因の一端があります。死刑を存置し、弁護士の立ち会いもない密室での取り調べで自白強要の危険もあるような、野蛮な日本の刑事司法制度を信頼できないというわけです。つまりアメリカは日本を刑事司法後進国と見ているわけです。
同じように日本がジブチ共和国を後進国と見ているために今回のような地位協定を締結したとはけっして言わないでしょうが、先進国としての上から目線でこうした地位協定締結を喜ばしいものと考えるとしたら、それは奢りです。またジブチは死刑廃止国ですが、この地位協定によって、自衛隊員は日本法で死刑になる可能性を持つようになります。
ただ、問題は先の発言のような外交戦術や犯罪を犯した場合にどちらが有利か、という問題にあるのではありません。地位協定の締結過程において、事実上でも、強制的・一方的要素があったとすれば、それはジブチの主権を侵害するのです。そのことこそが、国際協調主義、平和主義に照らして問題なのです。
A22日本政府がソマリア沖への派遣を考えているのは、海上自衛隊のようです。ソマリア沖に出没する海賊がもつ武装力、各国海軍との連係動作、またソマリアまでの巡航距離を考慮すれば、海自を出すしかないという判断です。
しかし、ソマリアの海賊掃討は、あくまで警察活動です。ですから、法的には、海上保安庁が担当することが正しいのです。海保の2,000tクラスの高速艇に、マラッカ海峡を越えていくほどの能力がないというのであれば、「だから海自を出す」という選択ではなく、「だから武力を派遣しない」という選択がなぜできないのでしょうか。海保の武装力や各国海軍との連携に不安があるという点についても同じことです。海保を出せる状況にないのであれば、およそ武力派遣をすべきではありません。
それどころか政府は、海上自衛隊を派遣するだけでは武力として十分ではないと考えています。そのため、海自のP3C哨戒機2機をジブチに向けて出発させました(2009年5月29日)。広範囲の哨戒を行い、情報収集を十分に尽くすことによって、不足している武力を補おうというのです。
海賊対処法は、「航行中の他の船舶に著しく接近し、若しくはつきまとい、又はその進行を妨げる行為」をした海賊船に対して、武器を使用することを認めています(6条、3条3項)。ということは、情報収集を目的に哨戒中のP3Cが、「たまたま」ミサイルを搭載していれば、海賊船にミサイルで爆撃し、沈めてしまうことができるということです。海賊対処法はそういう法律なのです。
しかし、武力を行使するしか国際貢献の方法がないわけではありません。ソマリア沖の海賊も、ソマリアの政治的不安を背景にした貧困問題に原因があるといわれています。それを解決するための外交努力や開発援助など、様々な国際貢献の方法がほかにあるはずです。
「ソマリア沖に海自を出すことが良いか悪いか」という近視眼的な問題のとらえ方ではなく、「憲法に則してソマリアを助けるにはどうすればよいか」という視点から考え、武力以外の国際貢献として何ができるかを議論すべきです。
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