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教えて塾長!伊藤真の憲法Q&A

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いとう・まこと 1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。著書に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)ほか多数。法学館憲法研究所所長。法学館のホームページはこちら。

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第8回「海賊対処法」と「地位協定」

7月6日の午後、海上自衛隊の護衛艦が、ソマリア沖・アデン湾に向けて横須賀基地(神奈川県)と舞鶴基地(京都府)から出港しました。この第2次隊は、今国会で成立した海賊対処法が施行される7月24日ごろに現地に到着の予定。同法に基づき海賊対処にあたります。

Q20 今回のソマリア沖への自衛隊員、海保官派遣のために、アフリカのジブチ政府との間で「地位協定」が結ばれ、ジブチ国内で自衛隊員らが犯罪を犯した際の刑事裁判権が全面的に日本にゆだねられています。これは日本に有利な協定として歓迎すべきことなのでしょうか。

A20 日本政府は、海賊対処法に基づいて、ソマリア沖に自衛隊員等を派遣しました。その準備として、2009年4月3日、自衛隊員等の地位協定を、ジブチ政府との間で結びました。しかし、この地位協定には、現地で自衛隊員が犯した犯罪の裁判や、加害行為に関する損害賠償責任について、日本に極めて有利な内容が盛り込まれています。ジブチの人に自衛隊員が犯罪行為を行っても、それを裁くのは日本の裁判所です。ジブチの人に危害を加えたときに、自衛隊員に損害賠償責任を負わせるかどうかは、当事者や政府間の協議によって決めるというのです。

 ところで、日本国憲法は、前文で、国際協調主義を宣言しています。そして、国際協調主義こそが、「自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務である」としています(前文3項。ここでの「主権」とは、対外的独立性という意味です)。他国の主権を一方的に制約することを禁止しないと、強国が、力で小国を支配してしまうからです。これは、平和憲法である1946年フランス第4共和国憲法の前文で「相互主義の留保のもとで、フランスは平和の組織と防衛に必要な主権の制限を承諾する」というのと同じ趣旨です。

 中曽根外務大臣は、日本に有利な協定を結ぶことができたことを強調しましたが、協定を結ぶ過程で、一方的な要素が、事実上でもあったとすれば、この地位協定は、ジブチの主権を大きく制限するものとして、国際協調主義に違反する疑いがあります。

ジブチ政府との地位協定
(正式名称「ジブチ共和国における日本国の自衛隊等の地位に関する日本国政府とジブチ共和国政府との間の交換公文」)

 8 日本国の権限のある当局は、ジブチ共和国の領域内において、ジブチ共和国の権限のある当局と協力して、日本国の法令によって与えられたすべての刑事裁判権および懲戒上の権限をすべての要員について行使する権利を有する。

 9(a) 民間又は政府の財産の損害又は滅失に関する請求及び人の死亡又は傷害に関する請求は、当該請求の当事者間の協議を通じて友好的に解決する。
  (b) 友好的な解決に達することができない場合には、その紛争は、両政府による協議及び交渉を通じて解決する。

「地位協定」については、ほとんど報道されていませんが、 様々な問題がここにはあります。
引き続き、施行される「海賊対処法」について考えていきます。
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