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伊藤真のけんぽう手習い塾

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いよいよ参院選挙です。
憲法のゆくえにも大きな影響を与えるこの選挙を前に、
衆参二つの議院が存在することの意味を、改めておさらいしてみます。

いとう・まこと1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。近著に『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)。法学館憲法研究所所長。法学館のホームページはこちら「伊藤真のけんぽう手習い塾」から生まれた本です。
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第49回:参議院通常選挙を考える

「国民が政治を変えられる」ことの幸せ

いよいよ参議院選挙です。このマガジン9条を読んでくださっている方の中には、選挙に行ったって何も変わらないと考える人などいないと思います。ですが、世の中には誰が政治家になったって変わらないよ、選挙なんて意味なし、などと言う人もいます。

ですが、それでは他人に決めてもらったことに従うだけの生き方を選ぶことになります。私はそれを「奴隷の幸せ」と呼んでいます。不満を言いながら、人に従うだけの人生の方がお気楽でいいのかもしれませんが、それではいいようにされて終わりです。

世界には国民が政治を変えたいと思っても変えられない国はまだまだたくさんあります。日本は、制度として国民が政治を変えることができる幸せな国です。そのことに感謝しながら、国民に与えられているこのチャンスを最大限活用して、より幸せになる道を自ら選択するべきだと思っています。

参議院の存在意義とは何か

 さて、今回は参議院選挙です。参議院には独自の存在意義があります。それを踏まえて投票することが必要です。ここで確認しておきましょう。

フランス革命(1789年)のときに、シイエスという革命主導者が「上院は、下院と一致するなら無用であり、下院と対立するなら有害だ」という有名な言葉を残しました。貴族院や世襲制の議院を置いたり、アメリカのように連邦制をとって連邦の代表としての第二院というのなら別ですが、民主的な議院にするのであれば、何も二つも置く必要はないのではないかという主張にも一理あります。

しかし、そこにはやはり意味があると考えるべきでしょう。連邦制をとらない国における二院制は、立法権という権力を分散させ、その暴走を防ぐという権力分立の要請だけでなく、民意を多角的に反映するところにその存在意義があると言われます。任期や選挙制度を変えることによって、国民の中に存する複雑多様な民意をできるだけ議会に反映させようとするというわけです。

現在の衆議院は小選挙区制(定数1人)のため、少数派政党が選挙区で議席を得ることは難しくなっていますが、参議院は大選挙区制(定数2人以上)といえるところも多く、少数派政党も議席を得やすくなっています。比例区も衆議院のようなブロックがなく全国での得票に比例するため、比較的、少数派政党にも議席が配分されやすくなっています。

こうして衆議院とは異なったかたちで民意を反映させ、参議院に独自性を発揮させることが憲法上も期待されているのです。

そして、法案について衆議院と異なる独自の判断をすることによって、争点や問題点を明確にし、次の選挙の際に有権者が適切な判断をする材料を提供するという役割も果たすことができます。衆議院の判断をただ追認するだけの参議院ではその存在意義を疑われても仕方がありません。私たちは参議院の独自の機能を発揮できる人材を選挙で選ばなければなりません。

3年後に後悔しないために

明治憲法自体の第二院は貴族院で、私たち国民は関与できませんでした。それに対して現行憲法は、非民主的な貴族院ではなく、民主的な第二院として参議院を置いたのです。もともとマッカーサー草案では一院制でした。それを私たち日本国民の意思で二院制にしたのです。

この二院制に意味を持たせることができるかどうか、それとも単なる衆議院のコピーに過ぎず税金の無駄遣いの組織にしてしまうか、それを決定するのも国民です。

今回の選挙は、これまでの自公政権を支持するかどうか、このまま政権を担当させてよいのかどうか、その信任投票としての側面を持つだけでなく、国会として憲法改正を発議する際の参議院議員となる可能性のある人たちを選ぶという特別の意味を持ちます。これはこれまでの選挙とは決定的に違う点です。

現在、争点として年金が強調されていますが、私たちは候補者の憲法に対する基本的なスタンスを確認して投票しなければなりません。この点をうやむやにしてしまうと、3年後に大いなる後悔をする危険性があります。

郵政選挙と言われた2005年の衆議院総選挙の結果、そこで争点とされた郵政問題とはまったく別の問題に関する法案もことごとく強行採決されてしまいました。将来、年金問題とはまったく別の争点である改憲問題が国会で浮上してきたときに、自分の意思を反映してくれる候補者をしっかり選んでおかなければなりません。それは主権者たる国民の責任でもあります。

年金問題に話題が集中する一方、憲法に関する論議があまり聞かれなくなった今回の選挙戦。
しかし、今誰を選ぶかが、「3年後」を大きく左右するのです。
候補者の「9条改憲をどう考えているか」についての主張を、
しっかりと見極める必要があるでしょう。伊藤塾長、ありがとうございました。


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