071226up
多くのNGO主体のキャンペーンを成功に導いてこられたマエキタさん。
これから先、多くの人に9条のことをより考えてもらうためにしなければいけないことを、
具体的に指南していただきました。
マエキタミヤコ
1963年東京生まれ。コピーライター、クリエイティブディレクターとして、97年より、NGOの広告に取り組み、02年に広告メディアクリエイティブ[サステナ]を設立。女性向け月刊誌『エココロ』を通して、日々、世の中をエコシフトさせるために奔走中。「100万人のキャンドルナイト」呼びかけ人代表、HYPERLINK "http://www.hottokenai.jp/"「ほっとけない 世界のまずしさ」キャンペーンアドバイザー。上智大学、立教大学非常勤講師。
最近は、「フードマイレージ」キャンペーンや、「リスペクト・スリーアール」プロジェクトを手掛けている。
今年5月の通常国会では、衆議院の憲法調査特別委員会で国民投票法案が強行採決され、参議院でもそのわずか1ヶ月後にすんなりと採決されました。
参議院では特に、毎日のように委員会が開催され、メディアや市民団体もしっかりと内容を把握できないままに通されてしまった気がします。
参議院の委員会傍聴には、マエキタさんも駆けつけていらっしゃいましたが、そもそもこの問題を多くの人に訴えたいと思ったときに、中身が複雑すぎて、何がどう問題なのかを説明するのがすごくむずかしかったと思うのです。
それがこの問題に対する関心を低くしてしまったのではないでしょうか。
多くの人にとっては、そもそも国民投票法が憲法9条に関係がある、ということもわからなかったですよね。その一方で、問題意識を持って活動している人たちは焦るばかりで、とにかく落ち着け、落ち着け、というところからはじまりましたよね。
私が国民投票法でひっかかったのは、やはりまず広告のことです。
改憲案が発議されてから、国民投票が行われるまでの、国民投票運動期間中の憲法改正にかかわる意見広告は、結局全面禁止にはならなくて、直前2週間の禁止のみになりました。
全面禁止にすべきだ、という意見も多かったですね。言論がお金で買えてしまうからといって。
私はテレビで憲法改正についてのディスカッション番組が増えたりするのはいいことだと思いますよ。だけど広告というのは、お金を持っている人がコマーシャルを打てるわけです。
国民投票運動中のメディア規制については、明確にジャーナリズムとコマーシャリズムを分けることが必要になってきます。それに耐えうるジャーナリズムが日本にあるのか、それに耐えうるジャーナリズムにしなければいけませんよね、といいたいです。
これについては、やはり法案が通ってしまう前に、それこそマスメディアを巻き込んで、もっとみんなで議論すべきだったし、これからだってするべき問題ですよね。そういう意味ではこの問題はまだ終わっていない。
ところで、マエキタさんが編集主幹を務める女性向け月刊誌『エココロ』では、国民投票法案のことも取り上げたりしたのですか?
2007年8月号の「エココロ人物録」というページで若手弁護士の猿田佐世さんという方を取り上げたんですね。猿田さんは国民投票法案の問題点について、NGOの人たちと一緒になって熱心に活動していたのです。その記事で、衆議院の憲法特別調査委員会の自民党筆頭メンバーである船田元議員にも、コメントをもらったんですよ。
驚いたのは、とっても親切だったこと。電話口の対応もとてもていねいで、土日だろうが朝6時だろうが夜中だろうが、秘書が3人張り付いて、「今から読ませますから!」「校正いれましたから!」ってすごく熱心に対応してくれました。
その記事は猿田さんの話がメインで、船田さんの話はほんの少しだったんですけど(笑)。
あのときは成立前の過程が、メディアにほとんど取り上げられていませんでした。だから国民の真意を問う時間がなかったんですよね。それはメディアのせいで、メディアというとつまり私たち。まず私たちのところに情報が入ってくるのが遅かったんです。
「もっと早くから言ってよ!」と思ったけれど、でもそれも結局は私たちの責任でもある。そしてうかうかしていると、していなくてもかな?強行採決。いつ何が来るのかわからない。で、いきなり来られると、集中して取り組む人員が足りなかったりする。
自民党ってもう、ほんとにたくさん人手があるんですね……(苦笑)。
現実問題としてやはり、メディアが勉強不足に陥っていると思いますね。今、子どもの学力低下が叫ばれたりしていますけど、マスコミこそ学力が低下している。
私たちも急いで動いたんですが、結局『エココロ』でこの問題を掲載できたのは、国民投票法案の成立後でした。ごめんなさい。
今、真の情報や知りたい情報が、マスメディアからは得られなくなってきていることに、みんなそろそろ気づき始めてると思うんです。
それはもう、すごく気づいていると思いますね。だから、ミニメディアがチャンスなんです。それこそ『マガジン9条』や『エココロ』やインターネット新聞『JANJAN』の出番(笑)。
NGOが持っている情報は、これから鍵になってくると思うんです。
去年出版した『エコシフト 〜チャーミングに世界を変える方法』(講談社現代新書)では、NGOが主体となったエコロジームーブメントの成功を紹介していますが、たくさんの方から反響をいただいているんですね。
実際にそういうところを面白いと思う人が増えてるということは、NGOが信頼できるニュースを持っていることに気づき始めている証拠だと思います。
今、年金問題や薬害問題、前防衛次官の汚職問題で、政治に対する不信感はピークに達していますよね。これまでは巨大与党が数で押し切ってきたわけで、今がまさにリベラル派にとって追い風ですよ。体制派がフリーズしている状態だから、その間に私たちが踏ん張らないと。
最近の政治のゴタゴタで改憲の動きもストップしているように見えますが、「改憲を掲げていた安倍政権が倒れ、ああ、これでなんとか首の皮一枚でつながった……」と安心していてはいけないんですよね。
脱力してちゃダメダメ。うかうかしているうちにまんまと付け込まれて、気がついたときにはもう手遅れになってしまいますよ、絶対に。
では、私たちはここで何をしたらいいかというと、まず「自分の年金をたしかめましょうよ」と呼びかけること。「年金をたしかめよう」っていうのは、みのもんたさんが言っていたことなんですけどね。
だって、これだけ年金のことが問題になっているのに、国が「確認しましょう」と広報しないのは、選挙に不利だからですよ。
年金を確認しに行くと、自分の年金がどうなっているかわからないという事実に直面するらしい。そうすると当然「これはヤバイ、今の日本はマズイ」となる。そりゃあ今度の選挙に不利になるわけですよね。今、9条に取り組んでいる人やNGOの人たちはとにかく口コミで、「とりあえず年金を確認しに行こう」と呼びかけるべきです。
年金は生活に密接していると誰もが思いますよね。でも9条も、本当は私たちの毎日の暮らしと深く関わっているはずなのに、どうも生活と乖離しているもののように思いがちです。
乖離していましたね、過去には。でも、これまでのことと、これからのことを混ぜて話さずに、これからの建設的な話をする。焦点を絞っていくことが大事ですよね。
だって、やっぱり国民投票法や教育基本法改正の強行採決はくやしかったり、おかしいと思ったわけじゃないですか。
もう強行採決されたり、巨大与党の思惑で何でも押し切られたりしないようにするには、こんなのいやだよね、という気持ちを広めないといけない。
じゃあどうしたらいいか。それは、次の衆院選の準備をどうすればいいかを考えることですよね。国民投票法案の強行採決は、結局多くの人がどんなことになっているか気づかないうちに押し切られてしまった。でもそれは、着々と改憲を押し進めようとしている側の思惑に気づかなかった自分たちの責任でもあるわけです。
だから、次の衆院選に向けて、たとえば『JANJAN』の「ザ・選挙」みたいに、ごくふつうの人たちに対して、自分の思いを選挙に生かせる情報が提供できるツールを作る。それと、年金のチェックに行こうとみんなに言う。
すでに自分の身に降りかかってることなのに、まだみんな気が付いてないから、「ちゃんと候補者を選ばないと本当にひどい目にあう時代になってきたよ」としっかり伝えないといけないと思うんです。
このふたつは、すぐにでもできますよね。
あきらめる必要なんて全然ないし、まだ負け戦じゃないんですよ、始まってないんですから。
ってちょっと説教くさくなっちゃったかな(笑)。
いえ、とても身につまされることばです(笑)。ただ、ご著書『エコシフト』でも「クリエイティブを社会のインフラに」と書かれてましたが、それはどういうことでしょうか?「クリエイティブな手段で伝える」ことが大切というのは、わかるようなわからないような・・・
表現というのは、自由に使えるととたんに可能性が広がるものです。
むずかしくていいづらいとか、わかってもらえないという思い込みを超えることができるんです。モノは言いようというのはその通りで、同じことを伝えるのだって、相手を怒らせることも、楽しくさせることもできますよね。
それは「だます」ということではなくて、とりあえず自分の中の怒りを抑え、相手の気持ちを尊重して、「どうしてあなたはそう思うの?」と聞き出した上で意見を交換すれば、たいていのことは解決するはず。
今、解決していない物事の多くは、お互い固定観念ができあがっていて、それが対立基軸を生み出してしまうからでしょう。その固定観念や対立基軸を溶かしていけるのが、クリエイティブの力だと思いますし、そこを溶かすことができるんだという確信があれば、みんなもっと落ち着いて暮らせるのではないでしょうか。
国民投票法案にしても、市民団体はあれだけ必死だったけれども、思いが一方通行だったようにも思います。そして疲弊し、あきらめとなってしまう。
疲弊しないようにするのは大事ですよ。ときどきおやすみして英気を養わないと。そのためには人を増やして手分けをしないといけないですよね。
今年の参院選では、あちこちのNGOの人たちと一緒に川田龍平くんを応援したんですが、彼はまさに市民の力で当選しました。川田龍平くんみたいな人が政治家になると、言い方はよくないかもしれないですけど、世の中の人たちが「政治家ってなかなか使えるものだな」というのがわかるようになるんですね。
国会議員というのは、大臣に会おうと思えば会えるし、「これはどうなっているんですか」と直接問いただせるし、大臣もちゃんとそれを受け止めないとといけない。そして国会議員は、主権者の思いをちゃんと吸い上げて、国政に反映させる義務がある。
多くの人が政治はヒエラルキーだと思っているけれど、ちゃんと主権在民になるために循環する仕組みになっている。だから多くの人がかわるがわるでいいから、政治家に声を届け続けないと。国会議員をもっと身近な存在と認識できる川田くんのような政治家が、衆院選ではもっと増えてほしいですよね。
そしてもちろん、そういう政治家を選ぶのは私たち自身です。
そうですね。来年、2008年は必ず総選挙があると言われています。議員たちもすでに浮き足だってる感じにも見えますが、これからの日本をどんな社会にしていくのかを決める本当に大切な選挙になるはずです。憲法改正や9条にとっても、そのあり方が問われる選挙になるでしょう。
「マガ9」のような小さな独立メディアや市民活動、そしてマエキタさんのようなキャンペーンのプロが手を結べば、新しい「選挙」の戦い方ができるような気がしますが・・・
2008年はチャンスです、日本がぐっと大人になるための。民主主義が、主権在民が、市民活動が、国際社会が、日本に大接近します。しっかりつかまえて、自分たちのものにしてしまいましょう。あきらめないで、しぶとくいきましょう。
今年最後に、2008年が明るくなるような提言をありがとうございました!
主権者である私たちが大人になって
ひとり一人、政治にコミットしていきましょう。
ご意見募集