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この人に聞きたい

080319up

明石昇二郎さんに聞いた(その2)

原発は、本気の情報公開を!

原発と活断層をめぐる事実関係の綿密な取材を通じて、
「新潟県中越沖地震で原発の大事故が起こらなかったのは、
たまたま運がよかっただけに過ぎない」と断言する明石さん。
日本の原発事故に対する危機管理体制について、
さらにお話を伺いました。

あかし・しょうじろう
東京生まれ。87年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の核燃料サイクル基地計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。以後『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』などで執筆活動。94年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。著書に『ニュークリア・レインのあとに』(白水社)、『六ヶ所「核燃」村長選』(野草社)、『黒い赤ちゃん カネミ油症34年の空白』(講談社)、『原発崩壊 誰も想定したくないその日』(金曜日)ほか多数

原発事故における危機管理の問題

編集部

 (その1)では、ずさんな国の原子力安全委員会のあり様についてお聞きし、不安というか恐怖を感じてしまいました。しかし、さすがに国も地震と原発の関係には不安を感じ始めたようで、原発の耐震指針を見直しましたよね。

明石

 そうですね。2006年ですか。でもね、だからと言って現在稼動中の原発で、その新耐震指針に従っているものなんか1基もないんですよ。

編集部

 えっ! そうなんですか。

明石

 稼働中の原発は、すべて新指針ができる前に運転を始めていますし、新指針に沿って補強されたものもないわけですから。これから建てるものについては、その新指針を適用しようというだけです。  

編集部

 では、もし東海大地震などが起きたら、いまのままでは耐えられない?

明石

 そうなりますよね。特に、静岡の浜岡原発なんか、大地震の想定震源域のど真ん中に建っていますし。しかも、この30年以内にマグニチュード7以上の大地震がこの地域で起きる可能性は80%以上だともいわれています。どうしてそこに、思いをはせないんでしょうね。裁判所だって、この前の浜岡原発訴訟でお分かりのように、国や電力会社の言い分を追認するだけですし。  

編集部

 原発事故に対する危機管理体制にも、問題は多いようですね。

明石

 それはひどいもんだと思います。とにかく、国や電力会社の情報操作がひどすぎます。情報を、ほんとうに細切れに出す。それも、真偽のほどが定かじゃない。一度出した情報を、すぐに訂正する。発表内容がくるくる変わる。その矛盾を突かれると、何とかごまかそうとして、よけいわけが分からなくなる。先日の、柏崎刈羽の地震による原発火災のときの対応なんて、どうしようもなかったですよね。あれが、運よく暴走事故にまでつながらなかったからよかったようなものの、もし、チェルノブイリのような炉心溶融にまで至っていたら、それこそ、地震で被災した地元住民はほとんど全滅です。風の向きによっては、東京や大阪、名古屋なんかの大都市も壊滅です。『原発崩壊』の中の、第3章をお読みいただければ、納得してもらえると思うんですけどね。

編集部

 ほんとうに、あれは怖かった。あれは確か休日でしたね。私は、テレビで黒煙を上げる原発を見ながら、どうすればいいのか、離れて暮らす娘たちにはどう連絡しようか、なんて真剣に考えていましたからね。

放射能被害の怖さをわかっていない
この国のリーダー

明石

 危機管理の面からいえば、あのときの安倍首相の対応もひどかったです。安倍さんは、事故当日、ヘリで現地入りしています。これはどう考えても、救援活動の最高指揮官としてとるべき行動ではない。新潟県の泉田知事は、住民の避難を考えていたほどだったんですよ。東電から送られてくるはずの環境放射能データが、モニタリングポストのダウンで、まるで入らない。これも問題ですけどね。事故のときにダウンする機器なんか、何の役にも立たない。
 JCO事故の際、東海村の村長が住民を避難させましたが、新潟県知事は、それと同じことを考えたんですね。情報がないのなら、最高責任者が決断するしかない。そういう状況の中では、まず住民の安全を考えるのが行政です。
 ところが、支持率低下で苦しんでいた安倍さんは、パフォーマンスとして現地に乗り込んだ。このとき、微量とはいえ、放射能漏れが始まっていたんです。それを承知で現地入りしたとするなら、その勇気はリッパと言えないこともないけど、しかし、指揮官が放射能に晒されて指揮できなくなったらどうするんですか。この辺が、安倍さんはまったく分かっていなかった。支持率の低下で、正常な判断ができなかったかもしれませんが。
 でも、放射能漏れの情報は安倍さんには届いていなかった可能性もある。東電の情報は、なかなか届かなかったようですから。それならば、まず情報を確かめてから現地入りかどうかを決定するべきでしょう。そんなことさえアドバイスできる側近がいなかったとすれば、低レベルな能力の政府だと言わざるを得ませんね。

編集部

 まあ、最近の自衛隊のありさまを見ても、そういう危機管理の緩みは、電力会社や政府中枢だけではないことが分かりますけどね。

明石

 僕は数多くの原発関連の取材をしていますが、事故後すぐに現地入りするなんてことは、絶対にしませんね。まず情報を精査してから行動する。原子力事故は、ほかの重大事故とは、まったく質が違うんです。放射能は目に見えません。どこからどういうふうに襲ってくるか、匂いもなければ痛みも感じない。そんな危険があるところへ、確かな情報もないまま突撃するなんて、決してやってはいけないことですよ。たとえ、「現地報告」を書くルポライターであっても。
 だから、今回も柏崎へ入ったのは、事故後3日目でした。

本当のことを知らせ、
知っていくことから始まる

編集部

 事故が起きて、原発が停まるような事態になると、必ず電力不足が騒がれます。実際、昨年の夏は猛暑でした。電力会社はしきりに電力不足を言い立て、省エネを宣伝しました。でも、結局は電力不足による停電は発生しなかったですね。

明石

 まあ、いろんな手当てをして、何とか乗り切ったというのが真相でしょうね。原発のような集中型電源は、普通に考えるとデメリットが多いんですよ。事故なんかがあってひとつがダウンしてしまったら、ポッカリ穴が開いちゃう。大きな穴だから、なかなか補充が利かない。だから、分散型にするべきなんですよ。要するに、石油や原子力にだけ頼るんじゃなく、分散型電源を考えるべきときにきているってことですよ。
 僕はそのいい例が、燃料電池だと思っているんです。発電機を、家庭に一つずつ据え付ければいいんです。一つがダウンしたって、街中が停電することもない。それに、大都市から離れたところに造られている原発と違って送電ロスもない。僕は、次第にそういう技術が浸透していくと思いますよ。
 コジェネレーション技術、ガスタービン発電、どんどん技術革新が進んでいます。例えば、原発の場合は発生させた熱のせいぜい3割しか発電には使っていない。あとの7割は捨てているんです。もったいないでしょ。その上、例えば新潟や福島から東京まで送電するわけだから、膨大な送電ロスが生じます。ものすごく効率が悪い技術なんです。ところが現在のガスタービン技術では、60〜70%の効率に達していると言われています。
 こう考えていくと、なんでそんなに原発に国や電力会社が固執しているのか、どうもよく分からない。まあ、その建設には巨大な資金が投入されますから、そのカネをめぐる噂なんか、取材しているといろいろ聞きますから、そんなことも影響しているのかなあ、なんて。

編集部

 もしそういうことで、利権やカネが絡んでいるとしたら、悲しい話ですね。

明石

 ほんとうに、最後は政治の問題に行き着かざるを得ない。だから、僕はとにかく懸命に取材して、情報や真実を掘り起こして伝えることで、それが政治の場で議論されるための材料になればいいと思っているんです。それは、与党とか野党とかという次元の問題ではなく、僕も含めて国民の生命の安全に関わることなんですから。そのためにも、みんなに本当のことを知ってほしい。すべてはそこから始まるんです。だから、国も電力会社も、本気で情報公開に取り組んで欲しい。

編集部

 それがまず第一ですね。私たち『マガジン9条』も、人間の命がもっともだいじだと思っています。その意味で、これからも原発の問題には関心を持ち続けたいと思います。
 今日は長い時間、ありがとうございました。

首相をはじめとする政治家たち自身が、
放射能の危険性を充分に認識していないのだとしたら、
これほど恐ろしいことはありません。
安全性・危険性に関する情報公開を徹底させた上で、
「原発以外」の可能性も含めた充分な議論がされるべきでしょう。
明石さん、ありがとうございました!

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