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2010-05-19up

フリーランスライター 畠山理仁の「永田町記者会見日記」~首相官邸への道~

第13回

2010年5月12日@亀井大臣オープン市民会見(南青山のカフェ)

「今日は記者会見でいつも嫌な質問ばっかりしている記者の皆さん方から、『もっとひどい質問をする人に会わせるから出て来い』ということでありまして、私も今日は覚悟をして参りました」
(亀井静香郵政改革・金融担当大臣)

 5月12日水曜日18時。前回告知した通り、亀井静香金融・郵政改革担当大臣を招いての「オープン市民会見」が東京・南青山のカフェで開かれた。
 この日、大臣に直接質問をぶつけた70名の参加者は、インターネットサイトやツイッター、専門紙などを通じて公募され、公正な抽選によって選ばれた一般市民。
 会見の主催者は、日ごろ「国民の知る権利」を振りかざしている記者クラブではない。亀井大臣主催の「第二記者会見」に参加している「記者クラブに所属しない」ジャーナリストやライター有志6名である。ちなみに私もその末席を汚しています。

 会見の冒頭、亀井大臣は上記の言葉で笑いをとると、「みなさん遠慮はいりません。もう、嫌がらせでも何でも結構ですから、ひとつ自由に聞いてください」と、参加者たちから自由な質問を受けることを約束してくれた。大臣の「覚悟して参りました」という言葉は、単なる冗談ではなかったと思う。
 実際、この日の会見では一般市民の参加者から「なぜ郵貯は米国債を買うのか」「官房機密費について野中広務元官房長官が発言していたが、情報開示すべきと考えるか」など、幅広いテーマで鋭い質問が飛んだ。なかには死刑廃止論者である亀井大臣から、「(死刑執行は)当分は行われないと思う」という、現職大臣としては異例の発言を引き出す参加者もいた。プロの記者たちも、一般市民がどのような情報を求めているのかを、もっと勉強していく必要がある。
 ちなみに今回、我々主催者は会見の参加者に対して、何一つ制限を設けず、「誰でも撮影可能」「何でも質問可能」「ネット中継も可能」とした。参加者にお願いしたのは「当選ハガキの提示」「身分証明書の確認」「常識の範囲内での言動」だけである。

 ここまでオープンな会見にこだわったのには理由がある。“権力を監視する同志”であるはずのフリー記者を“排除”し続ける記者クラブ側に「誰もが自由に参加できる会見は開催可能」という実績を示したかったからである。
 なお、当日の会場には、新聞、テレビ、通信社などの記者クラブメディアも十社以上取材に来てくれた。我々主催者は一社も断ってはいない。同じ報道を担う者として、取材を断る合理的な理由など、どこにもなかったからだ。
 なかには有志への問い合わせの際、「亀井大臣が変な発言をしたら使いたいんで、市民会見とやらに行ってもいいですか」と露骨に言う記者もいたという。
 しかし、フタを開ければ完全黙殺。残念なことに、彼らがこの日の会見を報じることは全くなかった。記者クラブにとって、この日の会見は「なかったこと」になっているのだ。

 それでも今回、あえて会見を主催する側に回ったことによって、一つ学んだことがある。それは「実際に会見を主催するのは大変だ」ということだ。
 大臣会見の主催権を持っている記者クラブの方々は、よくこんな大変なことを毎回やっているなあ、と私は心から感心……していない。
 なぜなら「会見の主催権」を主張する記者クラブの多くは、会見の場所、会見時間の設定など、実際の運用の多くを官庁側に“丸投げ”している実態があるからだ。なかには首相官邸のように、フリーランス記者の事前登録審査、セキュリティチェック、問い合わせへの対応までを事務方の官僚に丸投げした内閣記者会のような組織もある(3月26日にオープン化された首相官邸・鳩山由紀夫総理記者会見への参加にあたり、私が内閣記者会に連絡することは皆無だった)。

 いったい彼らの言う「主催権」とはなんなのか? 「知り合い以外は排除できる権利」なのか?
 そもそも彼らは都心の一等地である省庁内に、無料で記者室を提供されている。記者会見の場所も、省庁内の会見室か国会内である。もちろん使用料は無料だ。彼らはそこへフリーランスの記者が入ることをかたくなに拒む。でもその場所、税金で作られた建物のなかにあるんですけどぉ〜。
 長年にわたってこうした便宜供与を受けてきた彼らからすれば、新規参入してきたフリーランスの記者たちは「自らの既得権を脅かすもの」としか映らないのだろう。

 一般市民会見を「参加費無料」とするために、持ち出しやカンパで開催に奔走した有志たちの苦労など、全く理解できないのではないか(こちらは好きでやっているから別にいいけど)。
 もちろん現場で取材する記者のなかには、フリー記者の参加に賛同する人たちも少なからずいる。だが、彼らは記者であると同時に会社員でもある。社の方針に逆らってまで開放に賛同する者はほとんどいないし、それを彼らに期待するのは酷というものだろう。
 だから私は現場の記者さんたちに恨みはない。せめて話し合いには応じて欲しいなぁ、とは思うが、彼ら自身に最終的な決定権はない。最後は組織としての判断を仰がねばならないのだ。

 なお、今回は初めての試みであったため、セキュリティ確保の観点から、会場は当選者だけにハガキでお知らせすることとなった。本当はもっと多くの方々に参加してもらいたかったが、会場の安全確保のために参加できなかった方々がいらしたことを、この場を借りてお詫びしたいと思います。
 また、当日の運用も、素人ばかりだったために、いろいろとご不便をおかけしたかと思います。記者クラブメディアの皆様、電源をわかりやすいところに準備しておかず、大変失礼いたしました。
 そして「真剣勝負の場」に臆することなく足を運んでくださった亀井大臣をはじめとする関係者のみなさま。「オープン市民会見」に興味を持ってくださり、ご応募、ご参加いただいたみなさま。本当にありがとうございました。有志の一人として、心から御礼を申し上げたいと思います。

 最後に自戒を込めて一つ。公務多忙な大臣の時間は、記者会見に参加している記者のためにあるのではない。すべての日本国民のためにあるのだ、と。

2010年5月14日金曜日@金融庁大臣室

「一般のマスコミ陣、日刊紙の記者なんかみたいに、間違った考え、先入観みたいなものが脳の奥までまだ刷り込まれていません。だから、わりと、ちゃんと説明すれば素直に理解してもらえるというところが非常に強かったですね」
(亀井静香郵政改革・金融担当大臣)

 5月12日の「オープン市民会見」から2日。私は14日の会見で、「オープン市民会見」を終えての所感を大臣に尋ねた。記者クラブの会見とは、どこがどう違ったか。質問の質や大臣を追求する姿勢などに違いは感じたか、と。
 それに対する答えが上記のもの。大臣は続けてこうも言った。
「16階の記者会見(記者クラブの会見)でいくらしゃべったってさあ、これこそ化石だよ。“時間の無駄だ”と感じることが多いんだけどねぇ。それは社の立場ということがあるからそうなるんだろう。個々の記者の考えは違うのでしょうけれども」
 うわ! 化石! こないだまでは「頭が硬い」「石頭」だったのに、さらに硬くなってしまったようだ。
 そこで私は続けてこう質問した。
「頭の硬い記者クラブの方々に、頭を柔らかくするアドバイスがあれば教えていただけますか(笑)」
 亀井大臣はふざけることなく、真剣な表情で語った。
「それぞれの社がひっくり返りそうになればそうなるかもしれません。『家貧しくして孝子出ず』と言うんだよな。良い給料に安住してさぁ、上から下を見るような目で取材していては駄目ですよ。今のマスコミの目線は、上から下を見ているでしょ。だから無理もねえんだって。上から下を見ようにも、自分たちが上ではなくなったら、否応なしに下から見るようになるんだよ。なぁ(笑)」

 記者クラブの皆様方。ご参考まで。

2010年5月18日@「会見開放を求める会」の記者会見

「申し入れ先は合計231社。回答を寄せたのは合計55社。回答率は23.8%」
(記者会見・記者室の完全開放を求める会)

 先月発足した「記者会見・記者室の完全開放を求める会」(代表世話人・野中章弘氏)。目指すところがずばり名称。非常にわかりやすい。
 私自身は記者室を使いたいと思っているわけではないが、記者会見の完全開放は求めている。そのことを知る「呼びかけ人」の一人からお声がかかり、僭越ながら私も70人の「呼びかけ人」の一人として名を連ねることになった。
 同会は先月半ば、全国の新聞社(95社、全国紙の地域本社等を含む)、通信社(4社)、放送局(132社)に対し、記者会見と記者室の開放を求める申し入れを行った(回答期限は4月22日)。この日記者会見が開かれたのは、その集計を発表するためだ(なぜか私も前に出て話すことになり、冷や汗をかいた)。
 回答を寄せた55社のうち、記者会見については48社がおおむねオープン化に肯定的。立場が明確でない4社を除くと、消極的な社は3社あった。記者室については55社のうち、39社が「開放」と回答していた。
 全体で23・8%という回答率は決して高いとは言えないが、なかには“熱い思い”を回答する社も。まだまだ新聞社も捨てたものではない。とくに目を引いたのが、熊本日日新聞社の「会見開放」に関する回答。

「逆に、一地方紙としては、過去に永田町の記者クラブで非加盟社としての“悲哀”を味わったこともある。本省詰めの記者たちの高慢さに辟易した経験だ。ああなってはいけないと『反面教師』的に思っている点では、貴会の思いに通じる部分もあるのではないか、とも思いますが」

 ちなみに5月18日現在までに回答がない社は、おそらく開放に「消極的」と考えてもいいのではないか。具体例を挙げると、読売新聞社、産経新聞社は回答を寄せていない。
 同会のホームページには、報道各社からの回答一覧PDFへのアドレスも載っている。ご自身が購読や視聴している報道機関が、どんな回答を寄せているか、一度ご覧になってみてはいかがでしょうか?

→記者会見・記者室の完全開放を求める会HP

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記者会見のオープン化を求め、各省庁に働きかけるだけでなく
「大臣のオープン市民会見」の主催や、
全国規模の「会見開放を求める会」の呼びかけ人となるなど、
まさに身体をはった行動を続けている畠山さん。
手弁当でかけまわるフリーランス記者の心意気と使命感を見よ! 
「マガ9」は、全面的に支持したいと思います。

畠山さんの「つぶやき」も読んでね!

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畠山理仁さんプロフィール

はたけやま みちよし1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。

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