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フリーランスライター 畠山理仁の「永田町記者会見日記」~首相官邸への道~【第8回】

畠山理仁●はたけやま みちよし/1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。

2010年3月26日12時@携帯電話

「やっと手続きが終わりました。大丈夫ですので、本日16時からの総理会見にぜひお越し下さい」
(内閣総理大臣官邸報道室)

 2010年3月26日金曜日。ついに首相官邸での総理大臣会見がフリーランスの記者にも“開放”された。
 これまで官邸での首相会見は、基本的に記者クラブ(内閣記者会)に加盟する記者以外には参加が認められてこなかった。たとえ時の総理が“開放”を望んだとしてもダメだった。理由はハッキリしている。首相の記者会見を主催する記者クラブ側が激しく抵抗してきたからだ。あ、時々、官房長官も。
 その会見に、私もついに参加できることになった。当然ながら、自分史上初。しかし、記者クラブを組織する新聞やテレビがこの歴史的大ニュースを積極的に「正しく」報じることはあまりなかった。目立ったのは、一面の中程に囲み記事を掲載した東京新聞ぐらいだろう。
 もちろん「報道の自由」があるから文句は言わない。だが、読売新聞の「首相会見要旨」からは、フリーランス記者との質疑がすっぽり抜けていた。まさか“記者クラブ問題を不可視化”することに腐心したとは思いたくないが、これは事実として記録しておきたい。
 そうは言っても、実際に首相会見が“開放”された事実は消せない。「国民の知る権利」「情報公開」の観点から言って、小さいけれど重要な第一歩だ。
 この日の会見で、10年以上記者クラブ問題に取り組んできたフリージャーナリストの上杉隆さんはこう発言した。

「戦後65年、これまで国民の知る権利、情報公開の立場、会見のオープン化に向けて努力をしてきたすべての人々、それから世界中のジャーナリストに代わって御礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。質問はありません」

 この発言を受け、Twitterをはじめとするインターネット上では、「なぜ質問しないんだ?」という批判的な声が出た。現実社会でも「誉めちゃダメ。サクラの季節ですね」という皮肉をたびたび聞いた。
 しかし、私は上杉さんの発言には意味があったと思っている。「質問なし? あれっ?」と思わせることで、これまで記者クラブ問題を知らなかった国民に対しても「これまで会見がオープンにされてこなかったことの異常さ」を知らせることができたのではないか。国民の大多数は「記者クラブ問題」など知らないのが現実なのだから。
 鳩山総理もこの会見の冒頭、

「ぶら下がりという今までの慣習的なやり方よりも、もっと多くの皆様方に開かれた記者会見をより多く開かせていただくことの方が望ましいのではないかと考えております」

 と発言した。これはぶら下がり取材の機会が、依然として記者クラブに独占されていることを指しているのだ。
 最後に一言だけ言わせてほしい。本来ならば記者クラブの側が率先してやらなければならない「会見のオープン化」を、今回、政治の側がリードする形で実現してしまった。このことの恥ずかしさを、記者クラブメディアの皆様方には、よ〜く、お考えいただきたいと思う。

『週刊朝日 談[DAN]』では、上杉隆さん本人が「会見で質問しなかった理由」について語っています。

2010年3月26日@首相官邸

「政治が混迷する大きな原因の一つに官邸の調整能力のなさがあります。個人の能力を超えたことを平野官房長官に要求するのも酷であります。国民にとっては更に悲劇です。官房長官をチェンジするということも視野にはございませんでしょうか」
(日本インターネット新聞・田中龍作記者)

※官邸会見室の写真が無人なのは、会見時間前に撮ったものだから。会見中の撮影は「代表取材」と決まっており、フリーランスは撮影不可。記者席からの撮影は全員不可ですが、クラブ側の席では撮っていた人も。

 この質問をした田中記者は、昨年12月24日に都内のホテルで開かれた“鳩山由紀夫衆議院議員”の記者会見で、「この先、総理がいくら綺麗な言葉を並べても、世の中は『あっ、また鳩山さんが嘘をついてる』としか思わない。総理ご自身の言葉の軽さについてお答えください」と質問した人物。記者クラブには加盟していない記者である。
 そのクリスマスイブの会見から3カ月あまり。初めて“一部オープン化”が実現した3月26日の鳩山総理記者会見には、平野博文官房長官も同席していた。面と向かっての痛烈な批判を受け、平野官房長官はどんな反応を示すのか。怒りをあらわにするのか。それとも…。
 そう思って会見場に座る平野官房長官のほうを見てみると、なんと、平野官房長官は体を大きく前後に揺すって大爆笑していた。
 質問が終わった後、平野官房長官は田中記者の方を向き、2度、3度と頭を下げた。田中記者も黙礼。遠慮せずに言いたいことは言う、聞きたいことは聞く。本来の記者会見の姿を見た気がする。
 ちなみに田中記者の質問に対する鳩山総理の回答は次の通り。

「官房長官は、私は大変頑張ってくれていると思っております」

 平野官房長官、ぜひ、もうひと頑張りして、記者クラブが独占している1日2回の官房長官会見もオープンなものにしてください。オープン化された暁には、私も官房長官に面と向かってツッコミを入れたいと思います。どうか官房長官が再び大爆笑する場面も国民に対してオープンにして下さい。

2010年3月30日@総務省会見室

「官房長官はD」
(原口一博総務大臣)

 この日、原口大臣は各府省で開かれる記者会見のオープン化状況についての調査結果を発表した(総務省行政管理局調べ)。
 実はこの調査、私が2月9日の会見で「東京地検の記者会見はオープンではない」と質問した際、大臣が「全組織について、誰がどのように会見をやっているのか一回調査を検討させてみたい」と表明したことを受けてのもの。
 今回、その調査結果はA〜Dの4つに分類された。
 Aは、フリーランス記者等も一定の手続きを経て質問権を持って参加できる記者会見(岡田外相、亀井金融相、原口総務相、枝野行政刷新相、直嶋経産相、鳩山内閣総理大臣、小沢環境相など14府省庁)。
 Bは、質問権のない参加が可能な記者会見(国交省など4府省庁)。
 Cは、日本新聞協会加盟社の記者等が一定の手続きを経て参加できる記者会見(内閣府中井大臣、国家公安委員会、防衛省など3府省庁)。
 Dは、記者クラブ加盟社の記者のみが参加できる記者会見(官房長官、宮内庁、法務省の中の地方検察庁・矯正管区の3府省)。
 原口大臣が「Aが一番いいとか、ABCDに価値はないんですよ」と付け加えたように、Aといっても十分にオープンというわけではない。依然として国会内での会見にフリー記者は参加できないなどの問題もある。
 また、Aに分類された14府省庁の中には、「本当にAでいいの?」と思うようなところも含まれていた。建前上はAでも、私が経験してきた実態とはちょっと違う。それとも私の知らない間に記者クラブの規約が変わったのかな?
 たとえばAに分類された総理会見も、フルオープンというには不十分。官邸HP上で突然、事前登録の開始が発表され、締切まではわずか9時間半。その上、自分が寄稿や出演する媒体からの「推薦状」の提出も求められた。この条件を前に、何人ものフリーランス記者が参加登録を諦めた。ちなみに私が官邸報道室に送った書類は、なんと28枚にもなりました。
 平野官房長官の会見は、そんな状況の中でのD。かなり「閉ざされた会見」だということですね。平野官房長官、ここでも目立ってます。

2010年3月31日@Twitter

「首相官邸への道、なんとか実現。
この連載の存続を問う。なう。」
(フリーランスライター・畠山理仁)

 皆様からの励ましもいただき、連載8回目にして「首相官邸で開かれる総理大臣会見に出席する」という目標は達成できました。
 会見当日、私はずっと手を挙げていましたが、1時間の会見に140名近い記者(そのうち、純然たるフリーランス記者は6名)が参加していたため、残念ながら質問することはかないませんでした。それでも小さな一歩を踏み出せたこと、心からお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
 ただ、世界標準の記者会見、という点では、まだまだ問題があります。今回、総理の会見は一部オープン化されましたが、総理大臣会見が開かれることは、実は年に何回もないのです。次はいつ開かれるか、いまのところ、まったく予想がつきません。
 また、官房長官の記者会見も閉ざされたままです。鳩山総理が毎日応じている官邸での「ぶら下がり会見」も、記者クラブしか参加できません。本当の意味での「会見オープン化」は、日本ではまだまだ道半ばです。
 しかし、連載のサブタイトルに「官邸への道」とつけてしまった以上、一度はこの連載を終わるべきなのかもしれません。
 そこで、この連載をお読みいただいた皆様に、「存続か、終了か」のご意見をうかがいたいと思っています。もしよろしければ、編集部へのご意見、Twitter(@hatakezo)などを通じてお知らせいただければ幸いです。
 ひょっとしたら、このまま終わってしまうかもしれないので先に言っておきます。これまでお支えいただき、本当にありがとうございました。日本の民主主義の夜明けとなる瞬間を、皆様と共有できたことを心より感謝いたします。
 それでは、またどこかでお会いしましょう。早ければ来週です(笑)。

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みなさん既にご存知の通り、首相の記者会見が「セミオープン」になり、
畠山記者も無事、官邸の門をくぐることができました!
しかしまだまだ本当の意味での「オープン化」には至っておらず、
官房長官の会見も記者クラブのみです。
この現状をどう思われますか?
そしてこの連載はどうなる?
ということで、みなさまからのご意見、ご要望どんどん送ってください。
お待ちしております!

畠山さんの「つぶやき」も読んでね!

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