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40歳からの機動戦士ガンダム:バックナンバーへ

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40歳からの機動戦士ガンダム【第4回】「戦場では何もかもが『軍優先』になる」

 世間的には政権交代の話で持ちきりで、マガジン9条の他のコラムでも今週はその話題について書いている方が多いことでしょう。そんななか、ガンダムについて語るというのは、言ってみれば、投開票当日の夜、各局が選挙速報で盛り上がるなか、お笑いタレントのマラソン中継をした日本テレビのようで、「ズレてる感」満載ではありますが…。まあ、世間の流れに影響されることなく、とにかく今回も始めましょう。


ほんの数十秒のシーンに織り込まれる
戦時下ならではの「特殊な事情」

 前回は、独立を宣言したジオン軍と地球連邦軍の間での戦争がすでに8ヶ月経過していることや、主人公の少年アムロ(15歳)が暮らす「サイド7」にジオン軍の人型ロボット3体が侵入して攻撃を仕掛けてきたこと、それによって住民たちの中から被害者が続出したことなど、第1話「ガンダム大地に立つ」の約半分のエピソードについて触れました。今回は、第1話の残り約半分で描かれる「これぞガンダムならでは」とも思える場面について紹介したいと思います。

 アムロの父親テム・レイが連邦軍の軍事技術者だということは前回書きましたが、実は連邦軍の新兵器である人型ロボット「ガンダム」の開発者でもあります。テムの指揮のもとガンダムは「サイド7」で組み立てられ、他の場所へ移動させようとしていたところに、ジオン軍が攻撃を仕掛けてきたわけです。住民が逃げ惑うなか、父親テムと息子アムロとの間で、こんな会話のやりとりがあります。

テム「(連邦軍の軍人に向かって)避難民よりガンダム(を退避させること)が先だ」

アムロ「父さん、人間よりもモビルスーツ(ガンダム)のほうが大切なんですか!」

 時間にして20秒足らずのこんなシーンにも、「何事も軍優先」という戦時下ならではの事情が織り込まれています。また、冒頭から約5分の場面では、いずれもアムロの友人である少年と少女のこんな会話があります。

少年「アムロの親父さんみたいな軍事技術者がここ(サイド7)に来なけりゃ、僕ら…」

少女「研究施設を作るので立ち退きさせられたの、まだ恨んでるの?」

少年「そういうわけじゃないけど…」

 連邦軍の軍事施設を作るために住民が立ち退かされたことが、この短い会話から分かり、ここにも「軍優先」という事情が織り込まれています。

 このような、ほんの数十秒のシーンにも、戦時下ならではの「特殊な事情」がきっちりと描かれており、DVDボックスセットを購入し、第1話から見始めた私は、いちいちそれらのシーンに唸らされたのです。

 さらにもう一つ。劇場版を見たときは気づかなかったのですが、テレビ版第1話を何度か見るうちに、「おや?」と思ったシーンがあります。

 ジオン軍の人型ロボットの攻撃下、避難をしながらも父親の行方を捜すアムロは、途中で出会った連邦軍の兵士に父親の行方を尋ねます。ところが、そこにミサイルが飛んできて連邦軍の兵士たちは吹き飛ばされてしまいます。戦場なのですから、ある意味では「当たり前」の出来事かもしれません。でも、このシーンをよく見ると、そこに飛んできたのはジオン軍の人型ロボットに向けて発射された連邦軍のミサイルだということが分かります。つまり、アムロが父親の行く先を尋ねた連邦軍の兵士は、味方である連邦軍の攻撃によって命を落としたわけです。

 このシーンを見て私は、ベトナム戦争での「誤射」やアフガン紛争やイラク戦争での「誤爆」などを思い起こしました。私が記憶するそれまでの多くのロボットアニメでは、「味方がやられるのは敵の攻撃」というパターンが多かったと思います。ガンダムのこの場面が、30年前の制作当時にどこまで意図されて作られたのか分かりませんし、ファンの間でこれまでどのように語られてきたのか、または語られていないのかも私は知りません。しかし、味方の攻撃によって被害を受けるという「戦場のリアルな一面」を、わざわざ描いているところに、私はガンダムの「奥深さ」を感じてしまうのでした。


憲法も一般法も無視して、
「現場の判断」が最優先される戦場

 前回、私は「予告的」に書きましたが、第1話で最も印象に残ったシーンは実は別にあります。

 ジオン軍は3体の人型ロボットで「サイド7」に侵入しますが、その目的はあくまでも偵察。連邦軍の新型軍艦や秘密裏に開発されているらしい連邦軍の人型ロボットなどの情報を得ることが目的であり、攻撃は指示されていません。ところが、ジオン軍の人型ロボットに搭乗する1人の新米兵士は上官の制止を振り切って攻撃を仕掛けます。こんな場面です。

兵士「(連邦軍の人型ロボットを)叩くなら今しかありません」

上官「われわれは偵察が任務だ。(中略)手柄のないのを焦ることはない」

兵士「シャア少佐(ジオン軍の英雄)だって、戦場の戦いで勝って出世したんだ(と人型ロボットに乗り込む)」

上官「貴様、命令違反を犯すのか」

兵士「ふん、手柄を立てちまえば、こっちのものよ」

 この場面について、「単なる一兵士の軽率な行動」と思う人もいれば、「現実であれば、命令違反で軍法会議にかけられるよ。だから子ども向けアニメはダメなんだよなあ」なんて思う人もいることでしょう。

 私は、このシーンを見たとき、ある人の発言を思い出しました。

 自民党参議院議員の佐藤正久氏(48歳)は04年1月、イラク先遣隊長・復興業務支援隊初代隊長としてイラクのサマワに派遣されました。「ヒゲの隊長」としてメディアにもよく登場したので、ご存知の方も多いでしょう。その約3年半後の07年8月10日、TBSの報道番組に出演した佐藤氏は、イラク派遣当時を振り返って、次のようなことを言います。

「(自衛隊を警護していたオランダ軍が攻撃を受ければ)情報収集の名目で駆けつけ、あえて巻き込まれる(意思があった)」

「巻き込まれない限りは正当防衛・緊急避難の状況は作れませんから。目の前で苦しんでいる仲間がいる。普通に手を差し伸べるべきだという時は(警護に)行ったと思う」

※発言は、07年8月23日付『東京新聞』、07年9月20日付『朝日新聞』から引用。

 自衛隊は憲法9条等の制約から、「正当防衛」や「緊急避難」の要件がない限り武器使用が禁止されています。当時、サマワの治安維持はオランダ軍が担当していましたが、もしオランダ軍が攻撃されたら、自衛隊もわざわざそこに行って巻き込まれ、正当防衛等を主張して戦闘に参加する意思があったと佐藤氏は言っているわけです。

 幸いそのような事態にならなかったことは皆さんご存知のとおりですし、佐藤氏も、あの発言は自衛隊の組織的な方針ではなく、「個人の思い」だったと後に釈明しています。しかし、オランダ軍への攻撃がもしあったならばと想像すると、背筋が寒くなります。現実に佐藤氏が「駆けつけ警護」という行動に出たかどうかということよりも、憲法や法律などでいくら「縛り」をかけても、本国から遠く離れた戦場においては、軍人(軍隊)の行動を制約できない、そんなことに改めてゾッとさせられるのです。

 前述のガンダムにおける「一兵士の軽率な行動」と、佐藤氏の発言やその動機には、もちろん大きな違いがあります。しかし、戦場での「現場の独自判断」を止めることが、いかに難しいかということが、この2人の言動からよく分かります。戦場という「現場」で、いったん既成事実が作られてしまえば、中央政府の指示を無視した作戦がさらに展開されていくことは、張作霖爆殺事件(1928年)や満州事変(1931年)などで独断専行した関東軍の例をあげるまでもありません。

 ガンダム第1話の中で描かれた「一兵士の軽率な行動」は、戦場における軍人(軍隊)の思考性について、改めて考えさせてくれました。

 さて、今週もそろそろ終わりです。次回も物語を追って解説していこうと思っていましたが、方針変更です。先日、「解釈等は面白いのだけど、どうしても人型ロボットという点で、興味が半減してしまう」というメールを知人からもらいました。「あの人型ロボットは武器なんだという設定はよく分かるけど、逆に言えば別に人型でなくてもいいのでは?」とも書かれていました。そういう方、実は多いことでしょう(私もそうでしたから)が、これは大きな問題です。いくらストーリーや設定に興味を持ってもらっても、「人型ロボット」が出てくるという点で引かれてしまっては、元も子もありません。そこで次週は、「人型でなくてはならない理由」について、じっくり解説したいと思います。

(氷高優)

 2009年の夏は「政権交代の夏」として後世に語り継がれることでしょうが、「お台場に等身大ガンダムが出現した夏」だったということも、ぜひ多くの方に記憶していただきたいものです。7月11日から8月31日まで公開された等身大ガンダムを見に、400万人以上がお台場を訪れたそうです。最終日も、台風だったにもかかわらず多くの人が駆けつけたようで、その夜の報道番組では、強風の中、ずぶ濡れにりなりながら等身大ガンダムに触れる親子の姿が映し出されました。結局、見に行けなかったという方のためにも、本連載では今後も等身大ガンダムの写真を掲載していく予定です。

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