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2013-05-22up

「マガ9学校 第27回」

2013年5月11日(土)13:00~16:00
@カタログハウス本社 地下2階セミナーホール

「オッサン政治にもの申す! 全日本おばちゃん党、参上!」講師:谷口真由美さん ゲスト:雨宮処凛さん、想田和弘さん

女性手帳だ、労働市場への女性活用だと、自民党政権は女性に関連する政策を矢継ぎ早に打ち出しています。一見、女性思いのように受け取れるかもしれませんが、本当にそうなのでしょうか? また、次の参議院選挙の争点となる改憲問題で、私たちの生活はどうなるのでしょうか? 男性中心の政治の世界で何が行われようとしているのか、法学者で「全日本おばちゃん党」代表代行の谷口真由美さんと一緒に"女性目線"で考えました。

谷口真由美●たにぐち・まゆみ 法学者。大阪国際大学准教授。(公財)世界人権問題研究センター研究第4部(女性の人権)部長。「全日本おばちゃん党」代表代行。小1から高1までの多感な時期、花園ラグビー場の中で、マッチョな男の中で揉まれて育つ。専門分野は国際人権法、ジェンダー法など。大阪大学では講師として、憲法の授業も担当し「DJマユミの恋愛相談」で人気を博している。著書に『新・資料で考える憲法』(共編著、法律文化社)、『リプロダクティブ・ライツとリプロダクティブ・ヘルス』(信山社)、『レクチャー ジェンダー法』(共著、法律文化社)など。

雨宮処凛●あまみや・かりん 作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『生きさせろ! 難民化する若者たち』(ちくま文庫)、『反撃カルチャー プレカリアートの豊かな世界』(角川学芸出版)、『14歳からの原発問題』(河出書房新社)など著書多数。「マガジン9」では『雨宮処凛がゆく!』を連載中。オフィシャルブログ「雨宮日記」

想田和弘●そうだ・かずひろ 映画作家。ニューヨーク在住。台本やナレーションを使わないドキュメンタリー「観察映画」作品に『選挙』(07年)、『精神』(08年)、『Peace』(11年)、『演劇1』『演劇2』(12年)がある。最新作『選挙2』を13年夏の参院選にぶつけて劇場公開予定。著書に『精神病とモザイク』(中央法規出版)、『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)、『演劇 vs. 映画』(岩波書店)がある。「マガジン9」では『映画作家・想田和弘の「観察する日々」』を連載中。公式サイト:映画作家・想田和弘 OFFICIAL WEBSITE

 昨年、谷口さんが仲間とともに立ち上げた、Facebook上のグループ「全日本おばちゃん党」。第一部は、ゲストの雨宮処凛さん(作家)が聞き手になって、その立ち上げの経緯などについて谷口さんから話していただきました。
 「去年の民主党代表選、自民党の総裁選をテレビで見ていたら、みんなオッサンだった。スーツの色はハト(灰色)・カラス(黒)・スズメ(茶)しかおらん。なんで女性候補者がおらんのやって、メラメラしてきて」
 こうした男性中心の政治はおかしいと、女性が考え、発言する場としておばちゃん党は発足しました。ただ、正面を切って論争するのではなく、ユーモアを交えて"横やり"を入れるのがおばちゃん党のスタンス。
 「社会問題を風刺することで、誰か気づく人がいてくれたらいい。気づくきっかけにしたい」と谷口さんは語ります。実際の政治政党ではなく、女性(と女性自認のトランスジェンダー)の人たちがネット上で自由に意見交換をするグループなのです。 "入党"するにも、Facebookからの申請が必要なので、雨宮さんは「今までやっていなかったけど、Facebook始めてみようかな(笑)」と興味深そうに語りました。

 その後、話題は「女性手帳」(仮称)に移りました。政府が晩婚・晩産化対策として導入を検討している女性手帳には、妊娠や出産のメカニズム、高齢出産のリスクなどが記載されると見込まれます。谷口さんは「その根底には性差別がある。"オンナは産む性"であると押しつけている」と指摘。おばちゃん党で発表した反対声明を紹介しました。
 声明には「身体や心のコンディションや経済的な事情で、産みたくても産まれへん人もいっぱいいてはりますやん」と書かれています。大切なのは、安心して子どもを産み育てられる環境整備であるという主張には、会場の参加者も大きく頷いていました。
 また、安心できる生活環境に関連して、雨宮さんから生活保護についての話がありました。
 「自民党が政権を取って、最初に手を付けたのが生活保護の切り下げ。弱者に対する視点が"雑"になっている」
 谷口さんも「弱い人間は黙れっちゅうことです。そんな空気が蔓延している」と共感を示しました。ある芸能人の母親が生活保護を受けていたという報道をきっかけに、生活保護バッシングが盛んに行われた頃から1年がたちます。問題の本質が置き去りのまま"芸能人が悪いことをした"という印象だけが残ったことの影響を再認識させられます。

 第二部は、谷口さんと想田和弘さん(映画作家)との対談でした。冒頭、想田監督は自身が撮った映画『選挙』の予告編映像を流しました。2005年の川崎市議会議員補欠選挙で自民党公認候補として当選した山内和彦さんの選挙活動を追ったドキュメンタリー作品です。スーツ姿の山内さんが有権者と一緒にラジオ体操をしたり、神輿を担いだりしている場面が収録されています。
 「作品を見た精神科医の斎藤環さんが『これは羞恥プレイである』と論評していました。選挙活動は、日本の政治空間というオッサンの世界に入る儀式、イニシエーションなんですよね」と想田監督。先日、イベント出演のため参議院議員会館を訪れた際には、見かけた議員たちがみな同じような髪形、服装だったことが印象的だったともいいます。これには谷口さんも「オッサンはビジュアルから入る。ようわかりますわ」と応じました。
 そして、その「オッサンの世界」でつくられたのが、想田さんも最近マガ9連載のコラムなどで批判している自民党改憲草案。これについて、谷口さんは法学者としての立場からこう指摘します。
 「安倍首相は、憲法に書いてもいないことを勝手に解釈して、『憲法は国民が守らなければならない』と思ってはるみたいですけど、ぜんぜん違う。憲法は権力者が守るべきものであって、国民が守るべきものではない。それを立憲主義というのですよね。それさえわかっていない人が改憲しようとしているなんて」
 安倍首相が「立憲主義さえわかっていない」ことをうかがわせたのが、先月の国会予算委員会での質疑。野党議員から「芦部信喜先生を知っていますか?」と問われた安倍首相は「知らない」と断言しました。芦部氏は最も高名な憲法学者の1人にもかかわらずです。
 ちなみに想田さんによると、自民党の片山さつき議員は以前Twitterで「芦部先生の弟子だった」と言っていたそうです。でありながら同時に、「自民党の改憲草案は、国が国民に何をしてくれるかではなく、国民が国を維持するために何ができるかを皆が考えるような憲法」「権利と義務はセットだ」など、芦部氏に学んだのであれば当然理解しているはずの立憲主義とは真逆の主張をしていたとのことでした。
 もしも、権利と義務がセットだとしたら、社会はどうなるのでしょうか? 子どもや障害者、高齢者などは「義務を果たしていない」として権利が与えられない世の中が想像されます。谷口さんはこう語ります。
 「人間の人生は、他人のケアをしているより、ケアされている時間のほうが長いんです。50%以上の人が大卒だとして、一般的には22歳~60歳までがケアする側に立つ期間ですが、その途中でもけがをしたり具合が悪くなったりしたらケアされる対象になる。片山さんたちが言うことを聞くと『自分ら、強いねんな~』と思うんですよ。こけて鼻血出しても誰も助けてくれないような社会。自分で立ってちゃんと鼻拭いてや、っていう感じを受けます」

 今年6月からは想田監督の最新作『選挙2』が公開されます。『選挙』の続編で、2011年4月の統一地方選挙に、今回は無所属で出馬した山内さんを追いました。想田監督は、山内さんのみならずその周囲の自民党政治家などの選挙運動の様子をひたすら映像に撮っていますが、撮影を拒否され「これ以上撮ると問題にするぞ」と言われることもあったとか。それでも撮り続け、そのシーンを作品中に収録したのは、憲法があるからでした。
 「憲法第21条の表現の自由が根拠です。もし、自民党の草案のように表現の自由が制限されたら、表に出していない映像です」

 谷口さんによると、そもそも選挙運動は公の活動であって、プライベートではないそうです。今回、山内さんは自己資金のみで選挙活動をしましたが、通常の候補者はポスターの印刷や選挙カーのガソリンなどに税金を使います。その場合、映像に撮られたことはプライバシーや肖像権の侵害には該当しにくいそうです。
 「訴えられるとしたら、ハラスメントくらい。嫌やって言うたのに撮ったやんか~! みたいに主張されることはもしかしたらあり得ますが、それ以外は立証しにくいですね」(谷口さん)

 しかし、自民党の草案には「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」とあります。そうなれば"公益""秩序"の定義を為政者が都合よく解釈し、こうした取材活動が制限される可能性も。いっそう不自由な社会になることが心配されます。

 第三部は、再び雨宮さんを交えた三者で、会場からの質疑に答えました。まず、「ブラック企業の最新の手口は?」という質問に対し、雨宮さんはこう回答しました。
 「正社員の使い捨てが露骨になっています。ユニクロなど離職率の高い企業がありますが、『成長か死か』『適応できない人間はいりません』という価値観に流れていっている。ちゃんと発言していかないと、全企業ブラック企業化は止められません」

 雇用や労働に関して、安倍首相は成長戦略の1つに「女性の活用」を掲げていますが、谷口さんはマガジン9のインタビューで「女性を『100均化』している」と指摘しています。働くこと自体に対するリスペクトが失われてきているというのです。
 「非正規雇用が社会問題になったのは、男性、それもオッサンが非正規雇用化したからです。女性はそれ以前からずっと非正規でした。景気のいいときは、女性を安い労働力として使って、景気が下がると女性活用と言っている。100均の物のように、(人材も)壊れたらまた買えばいいとなるんです」(谷口さん)
 7月に控える参院選に関連した質問も寄せられました。「候補者を選ぶポイントは?」との質問に、谷口さんは「野生の勘を取り戻しましょう」とユーモアを交えたアドバイス。

 「最近、"都会のハト"が増えすぎなんですよ。クルマが近づいて来ても逃げないハト。危ないですよ。おかしいことに気づかないのだから。野生の勘を取り戻さなければなりません。そのためには、毎日ニュースにつっこんでください。"おばちゃん力"のトレーニングです」
 また、「次の選挙は改憲が争点になるのに投票率が低そうだ。自分たちにできることは?」との質問に、想田監督がこう答えました。
 「今まで憲法問題は専門家集団がどうにかすればいいと思われていました。でも、よくよく考えると、あらゆる法律が憲法に基づいて作られています。もし第21条の表現の自由がなければ、今ここで話していることも『社会秩序を乱す行為』と判断され、誰も何も言えなくなるかもしれません。仮にそうなったら、後戻りできません。戻れるとしたら恐らく武力革命しかないでしょう。もう専門家集団には任せておけない。一市民としてどんどん話題にしてもらいたい。おばちゃんの会合で話をするだけでも全然違うはずです」

 雨宮さんは、憲法第25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」を根拠に、反貧困などの活動をしてきました。しかし改憲が行われると、そうした活動が制限され、生存権すらないがしろにされてしまいかねません。かつて開催された「麻生太郎邸リアリティツアー」で逮捕者が出たことを振り返り、こう語りました。

 「リアリティツアーは海外でよく行われているもので、私たちも麻生さんの豪邸を観に行ったんです。その途中で、3人が逮捕されました。路上で『麻生の格差と貧困の責任(を追及する)』と言ったことが、東京都公安条例違反。捕まえられた人を助けようとしたほかの2人が公務執行妨害だと言われました。現時点でも、表現の自由は確保されていないのです。(自民党改憲案が通れば)これが激しくなっていくのが目に見えています」

 谷口さんは、日本人の"識法率"を高めることの重要性を訴えます。
 「日本人は、識字率は高いけれど、法律を知っている"識法率"は低いんですよ。でも、法律は自分の体を守るものです。『権利の上に眠る者は保護に値せず』という言葉がありますが、何か起きた時に『法律、知らん』では通用しません。逮捕された時も、『どこにそんなこと書いとんねん!』と言い返せないとだめ。皆さん、法律を勉強しましょう。法律は為政者からしたら知って欲しくないものなんです」
 参院選まで残された時間は、あとわずかになりました。憲法改正(悪)を掲げる政党が大勝し、憲法が変わったら、私たちの生活はどうなるのか? と女性の視点からも想像することの大切さを痛感するマガ9学校でした。

●アンケートに書いてくださった感想の一部を掲載いたします。(敬称略)

とても面白い会でした。私は男性なので「おばちゃん」にはなれませんが「おっちゃん」の生き方をしていきたいと思います。今日は想田監督のお話を楽しみにしてきたのですが、本当に色々なことを聞けて良かったです。みんなが当たり前に幸せに生活できる社会を考えていきたいと思います。(匿名希望)

「政治家」は市井の人々が何も知らないと思って発言していて、かつ人々は自分が何も知らないと思っている。僕自身がそうだ。そしてその行く先は、政治家の好き勝手な世界と人々の思考停止の世の中。その防波堤がおばちゃん的ツッコミであり、横ヤリだ。(二宮崇)

3時間、笑い転げているうちに、あっという間に終わってしまいました。全く聞き足りないです。(横島由佳)

周囲に考えるのが嫌いな人や、アベノミクスや自民党を支持する人(目先のことだけ考えて)が多くて、自分の考えに自信が持てないこともあり、もっと似たような考えの人の意見を聞きたいと思って参加したのですが、すごく色々な視点からの意見を聞いて楽しかったです。(匿名希望)

政治に"おばちゃんがツッコミを入れる"という姿勢がとても面白いと思いました。企画がとても良かったと思います。(匿名希望)

太っ腹、ゆるゆる、たくましい、ユーモア、とにかく楽しい。そんなおばちゃん党のファンになりました。これからも愛のある手厳しい"横ヤリ"で日本を見守ってください。できれば、日本を救っていただきたい。応援し続けます。是非、想田さんに「おばちゃん党ドキュメンタリー」撮ってもらいたいです!!(匿名希望)

笑いました!!そして、笑いながら世の中の現状とか、どうしていけばよいかとか、とても考えさせられました。分かり易かったのも良かったです。私も「頭クサく」がんばります!(梶川容子)

第24回のマガ9学校に参加した時はとても勉強になったという印象だった。今回も勉強になったが、それ以上に参加して楽しかった。こうした楽しさは、多くの人に理解してもらう上では重要だと思った。(山角直史)

おもしろかったです。腹から笑えました! でも深いです。良かったです。すごく笑ったあと、真剣に考えられました!(匿名希望)

頭の中がリフレッシュされて楽しい時間でした!「チャチャを入れる」って大切ですね!まずは自分の感性を磨くこと。それを言葉で表に出すことをやっていこうと思います。(匿名希望)

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