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2012-09-19up
B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」
【第102回】
大間原発の建設を再開することの意味を考えてみる
政府がやっとのことで「2030年代に原子力発電所の稼働ゼロ」を打ち出したかと思ったら、その翌日、いきなり枝野幸男・経済産業相がびっくり発言をしてくれた。「すでに着工している原発の建設は引き続き認める」というのがそれだ。はっきり該当するのは、大間原発(青森県)と島根原発(島根県)の2カ所である。
個人的に気になっていたのが、大間原発の帰趨だった。昨年来、マガジン9と連携した「下北半島プロジェクト」に関わり、原発や核燃料再処理施設が立地する青森県の下北半島を2度訪れた。半島最北端の大間町にも足を延ばし、建設途中の原発を含めて町内を案内してもらった。危険を訴える声も、雇用や経済振興に必要との主張も、ともに耳にしてきた。
それだけに政府の方針を知って、ショックというか虚脱というか不安というか、でも、そのどれとも違うような複雑な気持ちにさせられた。
2008年に着工した大間原発は、14年11月に稼働する予定だった。しかし東日本大震災によって、工事が37.6%進んだ段階でストップしている。この原発の特徴は、全国の原発から出た使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料だけで運転すること(フルMOX)で、世界で初めてだそうだ。地元の首長や商工関係者が建設再開を強く要望する一方で、プルトニウムは毒性が強いだけに「通常のウラン原発より事故の確率が高くなる」と危険性の高さも指摘されてきた。
まずは、今回の政府の対応を見てみよう。
すでに論じられているが、「2030年代に原発ゼロ」を掲げているのに、着工済みの原発の建設・稼働を認めれば、「40年で廃炉」を適用したとしても2050年代まで原発はなくならない。誰の目にも明らかな、こんな矛盾を露呈させたままの建設容認である。
前回の当コラムで触れたが、青森県、特に下北半島には、全国の原発から排出される使用済み核燃料の再処理工場(六ケ所村)があり、再処理までの間の使用済み核燃料を保管する中間貯蔵施設(むつ市)が来秋に稼働する。いまだ再処理工場が試運転にとどまっている現況で、多くの使用済み核燃料や放射性廃棄物の貯蔵を頼らなければならない。地元は「原発ゼロ」となって再処理が中止になれば、貯蔵している使用済み核燃料などの県外搬出を求める構えも見せていた。
それだけに政府には、地元の首長や自治体を怒らせてはいけないという目先の思惑があったのは確かだ。矛盾や整合性を気にしてなんかいられなかったのだろう。ちなみに、使用済み核燃料の再処理も、地元の要望通り「継続」が打ち出された。
大間原発などの建設を容認するのならば、もっともらしく「原発ゼロ」を謳うっていうのは国民を騙していることに他ならない。逆に「原発ゼロ」を強調するのであれば、それを実現するためにどんな政策や法制度が必要なのか、とりわけ立地自治体に対して原発や関連施設に代わる地域振興策をどうするのか、方向を一緒に打ち出さないと絵に描いた餅に終わる。
本来は、原発の地元の将来像を考える良い機会だったのだ。なのに、真剣に取り組もうとした形跡がこれっぽっちも見られないのが、とても残念である。政府には何より、地元の声にじっくりと耳を傾けてほしかった。問題点や課題をあぶり出し、具体的なビジョンに知恵を出し合う前提として、不可欠なプロセスだからだ。
政府が今回のエネルギー戦略を決めるにあたり、下北半島を中心とする青森県の首長らからは「原発や関連施設の地元に何の相談や意見聴取もない」と批判が出ていた。地元では声が大きい原発推進派に対してさえ、そうなのだ。いわんや、3・11以降、原発に少なからぬ疑問を抱き始めている人たちの声が汲み上げられなかったであろうことは想像に難くない。
マガジン9に掲載された山田勝仁氏の〈下北「核」半島に建設中の「大間原発」はラスコーリニコフの斧か〉によると、今や大間町の人たちは決して原発推進派ばかりではないようだ。3・11で原発の危険を実感したのだから、当然と言えば当然の帰結だろう。仮に原発建設を続行するにしたって、地元の人たちがどういう点に留意してほしいと思っているのかを聞いておくことが不可欠なはずだ。政府には、今からでもその努力を尽くすよう切に願う。
地元にとっても、建設再開は決して手放しで喜べるわけではないと思う。
たしかに、3・11の前は大間原発の建設関連で1700人が働いていたというから、人口6100人の町にとっての経済波及効果はとても大きかったに違いない。原発が稼働すれば、一定の効果は継続するだろう。でも、それだけでは済まない重い荷を、将来にわたって背負い込むことになったのも確かだ。
稼働から40年が経たなくても、2039年になったら廃炉にするのかどうか。政府は肝心の部分については「新エネルギーや省エネの効果がどの程度上がるかを見通せた時に初めて議論できる」(枝野経産相)と結論を先送りしてしまった。無責任な放り出しである。今は曖昧にしておいても、必ずその矛盾が破綻する時が来るだろう。
大間原発の建設を容認する要因としては、前述した青森を怒らせない思惑とともに、アメリカとの関係も大きく影響している。使用済み核燃料の再処理を中止するわけにはいかないが、かと言って再処理によって出来るプルトニウムを使う原発がなくなれば「原発燃料とする前提で日本がプルトニウムを取り出すことを認めた日米原子力協定に反する」とアメリカに怒られる。再処理でつくったプルトニウムをたくさん使って運転する大間原発を稼働させることは、青森とアメリカから突きつけられた難問に挟まれた政府の苦し紛れの選択でもあるのだ。
つまり、大間原発の地元住民のことを第一に考えての結論ではないことに注意しなければならない。逆に言えば、矛盾に満ちた今回の方針が破綻する時も、地元住民のことを顧みて次の一手が打たれる保証はどこにもない。その際に、ひずみを負わされるのは誰なのか。おそらくは一番立場が弱い地元住民だろう。
それから、言いにくいけれど、もし大間原発をこのまま稼動させれば、地元も原発への「責任」を免れなくなる。
前述した通り、大間原発はフルMOXという世界で初めての方式だ。プルトニウムを使うから、ただでさえ危ないと言われている。しかも、津軽海峡を挟んで人口28万の函館市まで23キロしか離れておらず、函館の住民は3・11の前に建設差し止めを求める訴訟を函館地方裁判所に起こしている。
危険だから稼働させるな、と短兵急に言うつもりはない。安全はもちろん重要な判断要素だが、受け入れた地元にとってみれば、経済や雇用や生活や、いろんな要素が絡んでいることは理解している。そして、そうした要素を衡量させて危険な原発を引き受けてもらったのは、他ならぬ都会に住む私たちだった。少なくとも3・11の前は「原発を押し付けられた」「都会の人たちが嫌がる施設を受け入れた」という地元の論理は正しかったと思う。
しかし、福島第一原発の事故で事情は大きく変わった。「絶対安全」なんてあり得ないことが白日の下にさらされ、事故が起きればどれほど甚大で回復不可能な被害を受けるかがはっきりした。それでもなお原発にこだわるのならば、もはや「国策への協力者」「電力消費地の犠牲者」という「被害者」の立場だけではいられない。万が一、事故が起きた暁には、原発を推進した側の一員として「加害者」の側面も負うことになる。
もちろん、政府や地元だけではない。都会に住む私たちの責任も重い。
3・11の後、そう遠くない時期に建設途中の原発をどうするかの答えを求められると分かっていながら、十分な関心を払ってこなかった。政治に責任を押し付けるのは簡単だけれど、少なくとも自分の問題として捉え、地元の人たちの気持ちを斟酌しようとしたり、意見を聞こうとしたりして来ただろうか。原発を動かさないとしたら地元に対して何をすればいいのか、真剣に考えてはいなかった自らを反省しなければならない。
すでにある原発の再稼働の問題と併せ、原発の地元とどう向き合うのか。いま、改めて私たち自身の姿勢と取り組みが問われている。
明確な将来ビジョンを描くことなく、
ただ取り繕いと言い逃れに終始してきた政府。
そこから生み出された「矛盾」のとばっちりを受けるのは、
これからの未来を背負う将来世代ではないでしょうか。
「その場しのぎ」ではなく、どう「原発のない未来」を実現するのか、
都市住民も原発立地の住民も、
一緒になって考えていかなくてはなりません。
どん・わんたろうさんプロフィール
どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。
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