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2012-04-25up
B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」
【第90回】
原発の地元の気持ちを汲めなかった脱原発派は、橋下さんと共闘する方法を探るしかない
原子力発電所の再稼働が具体化してきた。いろいろな意味で、複雑ではある。3・11の後、原発推進の人たちも反対の人たちも、いったい何をしてきたのだろうか、と考えてしまうからだ。原発の地元との関係を中心に、改めて脱原発の課題をたどりつつ、なすべきことをつづってみたい。
大飯原発の再稼働をめぐり、東京で開かれた集会で「人口わずか9000人弱の福井県おおい町や福井県が決めていいのか」という批判を耳にした。一方、福井県の西川知事は、枝野・経済産業相との会談で「再稼働の問題は、県議会、おおい町の意見を聞いて考えをまとめる。原発立地地域がこれまでどれだけ努力してきたか」と語った。
都会と原発の地元の対立が深まるばかりなのを憂慮する。
朝日新聞の世論調査(4月24日付朝刊)では、福井県民の43%が大飯原発の再稼働に反対で、賛成の36%を上回ったと、かなり誘導的に強調されている。しかし、おおい町を含む県南地区で再稼働への賛成51%、反対34%だった点にこそ着目すべきだろう。
で、文面に即して言えば「おおい町や福井県が決めていい」のだ。地元の範囲や民意の汲み取り方をどうするか、という問題はあるにせよ。
東京都や大阪市の「原発・住民投票」で、署名を集める時に語られていた言葉がわかりやすい。「電気の消費地の住民には原発のあり方を決める権利がある」。確かにそうだろう。否定するつもりは全くない。
ただ、だとするならば当然、電気の生産地たる原発立地自治体の住民にも、原発のあり方を決める権利はある。むしろ、直面している危険の大きさを慮れば、都会が持つのと同等以上の権利と捉えるのが自然に違いない。しかも、原発ってのは、もともと自分たちのそばに置きたくはない都会が押し付けたものだ。「より近いところで暮らす人たちの選択に優先権がある」と言われて、都会の人たちはどう反論できるのか。
再稼働へ向けた動きが出てきた頃、原発の地元で反対運動を担うリーダーから、こんな言葉を聞かされた。「原発は危険だから停めろ、ではダメ。経済基盤のビジョンと施策を見て、停めても大丈夫だと実感できないと、地元で再稼働ストップの運動は成立しない」と。私も当コラムで、まずは都会の住民が地元と対話し、一緒に原発の代案づくりに知恵を絞ることの大切さを繰り返し指摘してきた。
しかし、再稼働が決まりそうな瀬戸際になって感じるのは、原発なき後に地元の人たちがどうやって仕事を得て生活していくか、この1年、都会の脱原発派は何らの具体策を示し得なかったということだ。それどころか、福島であれだけ大きな事故が起きた後も原発にすがり続けざるを得ない地元の人たちの気持ちや状況を、真摯に理解しようとしたのかさえ甚だ疑問である。
だから、今になって都会の人から「子どもたちのために再稼働を拒否してくれ」なんて上から目線で頼まれても、地元の人たちは簡単に「はい、そうですね」とは答えられないのだ。
原発の危険は十分に承知している。だけど、いつ起きるかわからない事故で傷つく生命のことを考えるより先に、今日の生活が立ち行かなくなって失われるかもしれない生命の方が大事なのだから。その感覚を一方的に責められまい。
経済弱者への対応についても同じことが言える。
これもこの1年、当コラムで何度か書いてきたが、節電の余地がないほど生活や経費を切り詰め、電気代が値上げされれば生命の危機・倒産の危機にさらされるような人たちに、反原発・脱原発派はどれほど思いを向けてきただろうか。そういう立場の人たちに、原発がなくなっても心配はないと具体的に実感してもらい、一緒に脱原発を唱えられるような条件を整備することに、どれほど尽力してきただろうか。
政府や電力会社に「電気が足りなくなる」「値上げが不可避だ」と喧伝されると、不安が募るばかりで、「原発やめろ」とは言えなくなってしまうのは無理からぬことなのだ。
原発の地元でも経済弱者でもそうだけれど、世の中にはいろいろな立場の人がいて、いろいろな生活形態があることを、まずは認識しなければならない。そりゃ、あなたは生活に余裕があって電気を節約できるし、電気代が多少上がっても困らないかもしれないけれど、そうでない人もたくさんいる、という視点である。
特に弱い立場や少数派の人たちが、どうしたら脱原発の運動に安心して参加できるようになるのかを考え、その障壁をなくすように努めるべきだ。残念ながら脱原発派には、自分たちの思いをアピールするばかりで、そういうスタンスが欠けていたのではないだろうか。今からでも遅くはない、意識の幅を広げていきたい。
そして、これからの戦略である。
反発されるのを承知で書くが、短期的には、橋下さんとどう共闘していくか、どう共闘できるかを真剣に考えるべきだと思う。そう、大阪市長の橋下さん。立地自治体が再稼働に賛成しそうな状況にあって、本気で再稼働を阻止しようとするなら、橋下さんに頼るしかないのではないか。
大阪市は関西電力の筆頭株主だし、実際問題として今のところ国民の支持は厚いし、政府・民主党への影響力も強い。何より、電力需給の徹底検証とか、使用済み核燃料の最終処理体制の確立とか、政府に提言した再稼動の8条件は重要なポイントを突いている。
たぶんに政治的な動きでもあるのだろう。その手法に好き嫌いがあるのは仕方ない。「今のやり方での再稼働に反対で、絶対反対ということではない」との発言に不信感を抱く人も多いに違いない。でも、ほかにどんな実効的な方法があると言うのか。デモや集会を重ねるだけで再稼働を止められると考えているとしたら、申し訳ないけれど幻想だろう。
もちろん、橋下さんの方が旧来型の反原発・脱原発派からの支援を嫌がるかもしれない。それでも、実現可能なやり方を模索すべきだ。もはや、脱原発派にきれいごとを言っている暇が残されていないことは確かである。
5月5日を「原発ゼロの日」に、という呼び声の一方で、
大飯原発のみならず愛媛県の伊方原発についても、
再稼働の動きが急浮上していると伝えられています。
そして、そのいずれも地元の一部に、
それを歓迎する声が少なくないのは動かせない事実。
その事実と、どう向き合うのか? あなたは、どう考えますか?
どん・わんたろうさんプロフィール
どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。
B級記者どん・わんたろうが
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