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2011-10-12up
B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」
【第65回】
「福島産」とどう向き合おう
東京都内の生協の店に行ったら、入口の目立つところに、見るからにおいしそうな大玉の梨がずらりと並んでいた。値段は、いつもより3割くらい安い。しかし、すでに閉店間際。要するに売れ残っているのだ。見ると「福島産」と書かれていた。迷ったけれど、結局、買えなかった。
一方で、3.11の前から福島の農産物を産地直送で購入していた20代の知人は、原発事故後も取り寄せを続けている。「私たちには福島に原発を造った責任がある。食うべきです」と言い切る。
私自身は内部被曝を心配するような年齢でもないのだが、毎日口にするものだけに、どうにも気になってしまう。でも、どうしたらいいのか、よくわからないでいるのが現状だ。そんな折、「"食べて応援"でも放射能は大丈夫?~消費者は汚染地の農漁民をどう支えればいいのか?」というタイトルが気になって、日本消費者連盟が主催する集会をのぞいてみた。
福島県の生協「あいコープふくしま」理事長の佐藤孝之さんは、避難したくても仕事や学校やローンといった事情で叶わず、「ベターな選択」として福島で生活を続けざるを得ない人たちの話から始めた。消費者も農家も状況は同じで、「不安と恐怖を抱えつつの決意」であると説明していた。だから、その場所でどうやって生きていくか、つまり農家は何をつくり、消費者は何を食べるか、が重要なテーマなのだ。
佐藤さんによると、生産者サイドから見れば、有機農法や無農薬栽培を一生懸命にやっていた農家ほど、今回の事態への絶望感は大きい。でも、そうした生産者ほど、困難な局面においても知恵を絞っており、調査や工夫を重ねた末に「セシウムは表土の数センチ以内にとどまっており、土を削れば大丈夫」との判断も示されているという。たとえば、表土5センチを削って畑の6分の1の広さに集め、そこを除染の花壇にすることが提唱されているそうだ。セシウムで言えば、可能な限り不検出を、悪くても国の暫定出荷基準値の1割である1キログラムあたり50ベクレル以下を目指している。
お互いの取り組みや気持ちをまずは理解しあいたいと、生産者が生協の会議に参加して消費者に説明している。農家から「暫定基準値をクリアしていたとしても、500ベクレル近い農産物を出荷するのは私たちのエゴ」なんて発言もあり、連携して安全安心を求めていく機運が醸成されつつあるという。
順番は前後するが、集会では茨城県の有機農家の発言もあった。「生産を続けられるかどうか悩んだが、有機農法をしてきた畑は放射性物質を吸着する。地下水などへも影響を及ぼさない」。きちんと検査をしながら、これまで通り有機栽培を続けていく決意を語っていた。
ふーん、農家も頑張っているし、放射性物質が限りなく少ない農産物をつくっているのなら、福島産を食べても大丈夫かな。風評に引きずられてはいけないよな。この時点ではそう感じたのだが、そのあとに演壇に立った「食政策センター・ビジョン21」主宰の安田節子さんの話を聞いて、複雑な心境に逆戻りする。
「放射能に汚染された食品は出荷・販売されてはいけない。これを飲食してはいけない」と、安田さんは強調した。「低線量で長期間、被曝した方が健康被害は大きい」との説を紹介し、国の暫定基準値に対して「非常時の名の下、とんでもなく高い数値が押し付けられている」と批判した。
検査の仕組みの強化を強く求め、米については15ヘクタールごとに2か所とされている調査地点を、「田ごと」にして丁寧に行うよう要求。さらに、農産物が市場に入る時に全量検査することを提案していた。1箱あたり十数秒で検査できる機械があるそうだ。「放射性物質の正確な値がわからないから、今は産地で選んでいる。問題がなければ安心して買える」と話していた。もっともだと思う。
行政には一刻も早く、そうした制度を整えてほしいと切に願う。ただ、現実に私たちは今日明日も食べなければ生きていけないわけで、目先の問題としての対応策を冷静に考えなければならない。
有機農法の野菜はとてもおいしいけれど、コストがかかっている分、値段も張る。ある程度生活に余裕がなければ、日常的には購入できない。それに、有機や無農薬で栽培している農家の意識は高いだろうし、土壌などの安全性のレベルも高いだろうが、福島のすべての農家がそうとは限らない。むしろ、そうではない農家が、500ベクレルぎりぎりで出荷してきているケースがどのくらいあるかが気になる。
集会では、放射線と化学物質、つまり農薬や添加物などとの相加相乗作用にも注意すべき、なんて指摘もあった。これじゃあ、おちおち輸入食品も食べられない。
いったい、どうすればいいのか。何を食べればいいのか。余計にわからなくなって集会を後にした。翌日、冒頭の店に行くと、まだ同じ梨が並んでいた。やっぱり買えなかった。
農家の人々の暮らしを、これ以上追いつめたくはない。
その一方で、危険性のあるものを口にしたくない思いも確かにあって…。
多くの人たちが抱えているだろうその二つの思いを、
両立させる道はどこにあるのでしょうか?
福島の有機農家の苦悩を追った、
「被災地とつながる#8」もあわせてお読みください。
どん・わんたろうさんプロフィール
どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。
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