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2011-02-02up
B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」
【第34回】
夢をかなえようと借りた奨学金を返すために、夢をあきらめる不条理
利子がつくか否かにかかわらず、返済しなければならない「奨学金」のことを、外国では「教育ローン」と呼ぶそうだ。日本の奨学金の概念は、国際標準からズレているらしい。
それはともかくとして、デフレ不況の下、奨学金の需要はぐんぐん伸びている。日本学生支援機構(かつての日本育英会)の2011年度の予算は1兆781億円で、前年より726億円(7.2%)増える。10年前の2.3倍である。貸与人員の127万2000人は、前年より8万8000人多い。
40代以上の方にとっては、奨学金と言えば無利子が当たり前だっただろう。しかし、今や有利子(最大3%)が4分の3を占める。無利子貸与の総額は、ここ10年間ほとんど増えていないのに、有利子は3倍以上になった。
奨学金制度の現状について、同機構労働組合の岡村稔さんの講演を聞く機会があった。予想していた以上の厳しさに驚かされた。
まず、借りる際の厳しさ。不況で収入が減る家庭が激増した結果、貸与希望者もうなぎ登りだ。翌年の4月入学を前提に貸与を「予約」できる制度があるが、特に無利子奨学金の希望者は毎年2万人ほど増えているという。今年度の募集では、申込者の8割近い約14万2000人が不採用とされた。もはや、並の成績・貧困度では手が届かなくなっていて、岡村さんは「都道府県によっては生活保護水準の世帯の子どもでも採用されないケースがある」と話した。
さらに、返済の厳しさ。例えば、大学入学時に50万円、以後毎月12万円を4年間借りた場合、利息が3%として返還総額は843万円になる。月額3万5000円を、20年間返し続けなければならない。高校、大学院などと通算して借りたので総額が2000万円を超え、月額約8万円とアパート代より高い返済をしている人もいるそうだ。
景気が良い時代だったら、まだ返せるアテはあるかもしれない。でも、就職氷河期にあって、正社員になることもままならずに収入が安定しなければ、返したくても返せない。同機構が09年に半年以上の滞納者を調べたところ、正社員は3割に満たず、返還猶予(最長5年)の対象となる年収300万円未満が9割近かった。
滞納した場合の対応の厳しさも驚きだった。年5〜10%の延滞金がつき、3カ月で滞納情報が個人信用情報機関に登録される。クレジットや住宅ローンが利用できなくなることもあるが、昨夏の段階で約2400人が登録されているという。4カ月になると民間の債権回収会社に回収業務が委託され、9カ月で強制執行を含む法的措置に入る。基本的には借りたものを返すのは当然のことで、悪質なケースに毅然と対応することに異論はないが、個々の事情を考慮しない一律の対応が取られているとすれば、今の時代、同情の余地は大きい気がした。
岡村さんは、昨年9月に放送されたNHK「クローズアップ現代」も見せてくれた。そこに登場していた女性は、大学で夢だった司書の資格を取ったのに非正規でしか就職できず、月10万円の収入から2万円を奨学金の返済に充てていた。しかし、生活が成り立たないために、結局、医療事務の仕事に転職した。「夢をかなえるために奨学金を借りたのに、返すために夢をあきらめる」ことに悔しさを滲ませていた。
とはいえ、奨学金なしでは進学できない層が増えていることも確かだ。同機構が08年度に大学生に調査したところ、生活費が8年前に比べて3割近く減る一方で、学費の支出は5%以上多くなっていた。家庭が負担(仕送りなど)する割合は10年前より7ポイント減り、その分、奨学金に頼る割合が増えている。
早急に奨学金制度を拡充しなければ、金持ちの子弟しか高等教育を受けられなくなってしまう。実際、奨学金の受給や返済の厳しさを前に、大学進学を断念する高校生もいるらしい。
「奨学金は林業だ」と岡村さんは語っていた。貸与の効果は世代を超えて還元される、息の長い営みである。そして、その最大の受益者は社会だ。NHKの番組で学者が指摘していたが、人材を育てることが経済成長につながり、結果として国の競争力を高めると見れば、目先の「成果」だけにとらわれず国を挙げて支援すべきことは自明の理だろう。
経済同友会は昨年、希望者全員に奨学金を貸与し、同時に返済不要の給付奨学金や返済免除規定を導入するよう提言した。岡村さんも、無利子奨学金の拡大とともに、返済不要の給付奨学金の制度化を提唱していた。
実は、文部科学省は2010年度、11年度の予算案に、高校生を対象にした返済不要の奨学金の創設を要求したが、2年続けて却下されている。民主党の現状把握能力の欠如&先を見る目のなさには、改めて呆れるほかない。子ども手当なんていうバラマキのうち、高額所得者への支給を止めるだけで、大学生対象と併せたって給付奨学金の財源は捻出できるはずだ。今からでも真剣に向き合うよう求めたい。
誰もが「学ぶこと」を、
経済的な理由であきらめなくていいようにすること。
それは結果的に、社会全体をより豊かにすることにもつながるはず。
早急な対応が求められます。
どん・わんたろうさんプロフィール
どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。
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