マガジン9
憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。
|「マガジン9」トップページへ|「ちょっと吼えてみました」:バックナンバーへ|
2010-12-01up
B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」
【第27回】
沖縄が独立するしかないのか
今回の沖縄県知事選の敗者は、言うまでもなく「本土」である。普天間基地の「県内」移設を唱える候補者が擁立されなかった時点で、すでに不戦敗は決まっていたのだが。
再選を果たした仲井真弘多さんの公約は、普天間基地の「県外」移設だった。当選を決めた後のインタビューで、普天間について「日本全体で考えてほしい」と繰り返したそうだ。「日米安保を認めるのならば、本土が普天間を引き受けなさい」という宣戦布告に他ならない。返還合意から14年経っても状況は全く変わっていない。県内移設を容認してきた仲井真さんをして、いつまでも沖縄に基地を押しつけたままの本土に堪忍袋の緒が切れた、という構図だ。
思い出すことがある。15年前に米兵による少女強姦事件が起きた後、沖縄の基地負担を軽減するとの名目で実弾砲撃演習などの本土移転が決まった。その時、沖縄の人たちの多くは「『基地転がし』で被害をたらい回しにしてはいけない」と反対した。痛みを実感しているからこそ、本土に同じ痛みを味わわせてはいけないと考えたのだ。そんな心優しき民を、ここまで変貌させてしまった理由について、改めて真剣に受けとめなければなるまい。
一方、対立候補の伊波洋一さんの主張は、普天間の「国外」移設だった。本土を通り越し、アメリカとも自分たちで交渉すると訴えていた。「もう本土なんて相手にしない」というのが本音なんだろうが、伊波さんが当選していたら、本土は基地問題に知らんぷりを続けることができたのも確かだった。その意味で、知事選の結果には大きな意義があるだろう。
もっとも、基地の痛みを感じたことがなく、感じようともしない本土のマスコミには、自らが敗者という自覚もなく、騒ぎ立てるだけで、沖縄の選択と真剣に向き合う気配は感じられない。
知事選翌日の社説。読売は、沖縄県民が普天間の県内移設に含みを残したととらえ、「菅政権は、仲井真知事との対話を重ね、日米合意へ理解を得るよう最大限の努力をすべきだ」と、あくまで県内移設を主張している。賛同はできないが、まあ分かりやすい。毎日は、普天間が当面存続することを前提に政府が方針を再検討するよう促し、訓練移転の先行実施を提案している。具体的だが、「負担軽減は、移設について合意を得やすい環境の整備に役立つ」と書いていて、あくまで県内移設に向けた布石でしかない。
どうしようもないのは朝日だ。「日米同盟の重要性が改めて強く意識されている」と言ってみたり、「『だから沖縄に基地負担に耐えてもらうしかない』という議論はもう成り立たない」と言ってみたり。もっともらしい文章を並べるだけで、具体案が全くない。最後に「一基地の問題が日米同盟全体を揺るがす。そうした事態をなんとかして避ける高度な政治的力量が菅政権には求められる」とあるのを読んで、納得。この新聞、「アメリカ命」の呪縛から相変わらず脱しきれないのだ。つまりは、お国のために日米同盟が何より大事だから、「一基地の問題」如きで日米合意を見直さずに、沖縄にあの手この手の策を弄して米軍基地を引き受けさせろ、と言っているに等しい。
おそらく、沖縄が日本である限り、政府とアメリカとマスコミに、今後も一方的に基地負担を押しつけられ続けるのだろう(その後ろには本土の国民がいるのだが)。逆に言うと、本気で普天間を沖縄県外に移設しようと思ったら、沖縄が日本でなくなることしか道はないのではないか。「独立」である。
沖縄に独立されて一番困るのは、間違いなく本土だ。安保の最大の拠り所を失うのだから、アメリカからすれば、沖縄なき後の日本の価値なんて取るに足らないものになる。沖縄にとっては、直接アメリカと基地の帰趨を議論できる。無条件の基地撤去を主張してもよし、今より条件を上げさせて存続させるのも勝手だ。交渉力が問われることは言うまでもないが、自分たちが直接話してダメなんだったら、本土に操られる現状よりは、まだあきらめもつくというものだろう。
もう一つ、沖縄に独立を薦める理由がある。沖縄の選択って、本土の人間にはとても分かりにくい。今回も、いつ県内移設容認に戻るかもしれない仲井真さんを「経済通」「政府とのパイプ」という理由で選んでいるわけで、本気で基地はいらないと思っているのかと疑念を持たれてしまう余地がある。そういえば、かつて基地反対の急先鋒だった大田知事でさえ、「50億円の振興策と引き換えに政府と手打ちした」と批判された。沖縄なりの理屈があるのは十分理解するにしても、結局、本土に「沖縄は金で動く」と都合の良い解釈をされてしまうゆえんでもある。独立して頼るものがなくなって、本当にどうしたいのか、覚悟を見せてほしいのだ。
沖縄は1972年に復帰するまでの約20年間、米軍統治下とはいえ自前の琉球政府を持ち、三権を備えていたから、当時のノウハウは使えるだろう。もちろん、県民のやる気次第だが、基地問題で大きな動きが起きるたびに地元では繰り返し議論されてきたテーマでもあり、決して荒唐無稽なアイデアではないと思う。
今の状態で沖縄の基地問題を解決するには、ドラマティックなきっかけが必要だ。それを沖縄の側に求めるのは本当に心苦しいし、当然、私たちも努力は続けるにしても、残念ながら本土には何の期待もできまい。膠着状態が行き着く先は沖縄と本土の冷戦でしかなく、互いに何のプラスにもならない。対等な関係を築き直すために、独立という劇薬が求められる段階に入ってしまった。そんな気がしている。
再任され「安全保障の問題は日本全部で考えて欲しい」
と繰り返し語った仲井真知事の言葉を、
政府も国民も真剣に受け止める必要があります。
米ソ冷戦が終わり、東ヨーロッパでは
次々と独立運動とそれに伴う内戦が起こりました。
今の北東アジアの状況を考えると・・・
「まさか? でももしかして?」ということにもなりかねない、
そんな新しい局面に入ったと言えるでしょう。
どん・わんたろうさんプロフィール
どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。
B級記者どん・わんたろうが
「ちょっと吼えてみました」
最新10title
「マガ9」コンテンツ
- 立憲政治の道しるべ/南部義典
- おしどりマコ・ケンの「脱ってみる?」
- 川口創弁護士の「憲法はこう使え!」
- 中島岳志の「希望は商店街!」
- 伊藤真の「けんぽう手習い塾」リターンズ
- B級記者、どん・わんたろう
- 伊勢崎賢治の平和構築ゼミ
- 雨宮処凛がゆく!
- 松本哉の「のびのび大作戦」
- 鈴木邦男の「愛国問答」
- 柴田鉄治のメディア時評
- 岡留安則の『癒しの島・沖縄の深層』
- 畠山理仁の「永田町記者会見日記」
- 時々お散歩日記
- キム・ソンハの「パンにハムをはさむニダ」
- kanataの「コスタリカ通信」
- 森永卓郎の戦争と平和講座
- 40歳からの機動戦士ガンダム
- 「沖縄」に訊く
- この人に聞きたい
- ぼくらのリアル★ピース
- マガ9対談
- 世界から見たニッポン
- マガ9スポーツコラム
- マガ9レビュー
- みんなのレポート
- みんなのこえ
- マガ9アーカイブス